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いつかのための詩集

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どこかで酒と出会うための詩集。
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#寺山修司

【詩】だけど涙は透明だろう

【詩】だけど涙は透明だろう

たとえば僕の直ぐそばで
富める者がなにか失っていて
この世界の反対側で貧しい者が
なにかを得ている
真っ赤に燃えて 灰になって
だけど涙は透明だろう

あなたが深く悲しんでいて
わたしが実に喜んでいる
結果を溶かしたヨーグルトのよう
ひとさじ食べて呪って祝う
見上げて厚く ブレる星空
やはり涙は透明だろう

右に行けば左がよくって
左に行けば右がよいよと
真っすぐ行けば振り返れと言われ
後ろを向い

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0を彩る悲しみたち

0を彩る悲しみたち

寄る辺のない悲しみに沈む夜がある。

そんな夜に響く、こんな歌詞がある。

僕たちは薄い布だ
折り目のないただ布だ
影は染まらず通りすぎて行き
悲しみも濡れるだけですぐ乾くんだ
 
 サカナクション「years」から抜粋

    

悲しみを感じるとき、いつもこの歌詞を思い出す。

はじめから生まれてなかったら、はじめから0でその先も0なら、いささか楽だろう。
あなたも、ぼくも。

(0に楽もク

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さらばイチロー

さらばイチロー

火がついた
その構えをみた少年は
次の日から
世界一下手なイチロー
笑顔でグラウンドを駆けた

火がついた
酒を本当にうまいと思った
テレビ付き居酒屋でしか酒を飲まない
40過ぎのサラリーマン
イチローの日本最後のヒットの瞬間

火がついた
田舎町のおじいさんの財布
孫にねだられた最初の
プレゼントは
イチローモデルの道具一式

火がついた
3年目の高校教員の朝練
飽きられる程イチローの言葉を語っ

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モア・スローリーに世界よまわれ

モア・スローリーに世界よまわれ

たとえば船一隻のほどのなみだを積んで

後悔の旅に出かけるとして

どれほどの期間が経ったら

ぼくはなみだを使いきれるだろ

最初の港で出会ったひとは

大きなヒスイ色の目をもって

ぼくの産毛と産毛の間を

じっと見ていたものであった

あなた あなた 自分の宝石に

耐えられずカモメとともに飛んだ

あなた

あなたと過ごした日々を浮かべて

船からまた雫がこぼれてく

ゆらゆらきらきらその

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