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『人に寄り添う優しい部品』__22

ファッションは外側に露出した内面だ。

そういう趣旨の意見を聞いてから「着られれば何でもいい」という姿勢をやめた。
案外、こだわると楽しくなってくるものだ。
何で自分を表現するか、何に自分を表現してもらうか。
その選択肢は山ほど用意されていて、常に待たせているような気分になる。

だが、ファッションにテンプレートはない。
コーデの例はたくさんあるが、あくまでそれは他人が着た場合の話。
性別、体格、年齢。人間は多種多様で、日々変化する。
それぞれの「似合う」に従って、アイテムは限定されていく。
それを見つけ出す面白さもあるのだが、選べるアイテムは自ずと絞られてしまう。

果たして、それは本当に内面なのだろうか?
身につけるもので一つ、人によって顔を変えるアイテムがあってもいい。

「__22」(ニニ)はそんな思いに応えたようなブランドだ。
素朴で歪。ときには重ねて。
一人一人が異なる世界で、小さな部品は平等に寄り添ってくれる。

チタンが引き出す無限の可能性。

「__22」は新潟県三条市にあるレジエ株式会社が立ち上げたブランド。
今回はレジエ常務取締役の浅野さん、プロデューサー・アートディレクションとしてブランドに携わっている門井さんがインタビューに応じてくれた。

数字の22とアンダーバー。
ミステリアスな印象を抱かせるその名前には、確かな優しさが籠められていた。

門井さん「『__22』は浅野さんが考えてくださった名前でして。チタンを使って表現していくブランドとして、チタンの元素番号22番を取り入れました。身体親和性が高いチタンの可能性を広げていくとか、買ってくださる方を限定しないとか、そういった開けたイメージを籠めてアンダーバーを付けています」

浅野さん「アンダーバーについてはもう一つ籠めた思いがあります。主役はあくまでも付ける人、ということで、何かと何かをくっつけることの多いアンダーバーを置いています。主役は人で、その後ろに来るのが『__22』なのかなぁと思っています」

レジエは日本でも珍しいチタン鋳造専門工場。チタンの可能性を長年にわたり追求してきた。
外観や軽さ以外の部分で、チタンという金属はある特性を持っている。

チタンは身体に近い性質を持つ。
歯の治療や医療器具にも使用される金属で、以前レジエでは馬具であるハミを製造していた。
金属アレルギーを引き起こすことがあまりない、多くの人にとって「開けた」金属だといえる。

付ける人を選ばないアクセサリーという身体の一部。
誰もが主役としてアイテムで自分を表現できる。
それぞれの感覚や好みに合わせ、自身の身体をデザインしていくこと。
そうした「身体拡張」がブランドの核になっている。

「身体拡張」のテーマはロゴにも。
円と正方形はダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』から。

誰も取りこぼさない。

そもそも「身体拡張」とは何だろうか。
門井さんは2パターンの「身体拡張」があるとして、ロボットアームなど身体の動きを実際に補助するものと、人間の身体機能を広げるものがあるという。
後者は「車輪は足の延長上に」「コンピュータは脳の延長上に」といった概念的な考え方で、「__22」はこちらに該当する。

ファッションは皮膚を、ないしは外見という概念を拡張している。
そう考えたとき、アイテムが持つ個性はかえってその人らしさを妨げてしまう。
「__22」ではあえて、ハートや花といった記号的な表現を避けている。

アイテムからの要求がなくなると、人はアイテムを好きに扱えるようになる。
どの指に付けるか。単体で付けるのか、複数を重ねて付けるのか。

金属アレルギーだから。サイズが合わないから。
これまで諦めていた人にも、「__22」はそっと手を差し伸べている。

「__22」のメインビジュアル。
障害のある人も含め、多種多様な人々を起用している。

「わたし」も「あなた」も認めていく。

自分自身の美しさを認めること。
相手の美しさを認めること。
その両方が大切なのだと門井さんは語る。

現在「__22」では3カラー×3サイズで構成された「Uneven Series」を販売中だ。
歪みを意味する単語が示すとおり、販売されている指輪は有機的な形状をしている。
チタンの身体親和性を活かすため、自然らしい歪みを意識的に造形しているそうだ。

左からFrost、Luster、Slate。着色などはせず、研磨の方法で差別化している。Slateの青は鋳造過程で生まれる色を研磨せず残したもの。こうした加工はレジエとしては新しい試み。

「Uneven Series」の特色は、装着する人物により表情を変えることにある。
その人が「いいな」と思う指輪の角度、指の骨との関係。
フィットする位置や部分、組み合わせは人によって変わり、新しい顔を宿していく。

「Uneven Series」は人の持つ「あるがまま」を認めてくれる。
そこにこそ、このブランドの狙いがある。

人は一人一人が違う生き物だ。
「似合う」「似合わない」に振り回され、付けたいと望んだアイテムに拒まれることだってある。
その差異を「Uneven Series」は吸収し、肯定で返してくれる。
それが自分自身を認めることに繋がり、やがて相手を認めることにも繋がる。

まったく違う人々により、同じ指輪がまったく違うプロダクトに変貌する。
認め合うための共通点として「Uneven Series」は輝く。
「互いを理解する架け橋になってほしい」と門井さんは言う。

「__22」は発足から1年程度のまだまだ新しいブランドだ。
今後の展望としてはイヤーカフやバングルなどのアクセサリーや、いずれは身体から離れたものも製作していけたらと考えているという。
生活する空間にも自分を拡張させる。そうした展開も構想しているそうだ。

そのために、まずは知ってもらう期間。
メディアや展示会を通して多くの人に思いを届け、ゆくゆくは海外にも。
「__22」自身も広がっていくのだと、お二人は話していた。

どんな自分でありたいのか。
選び取ってデザインした自分と、最初から存在する「あるがまま」の自分。
どちらも「わたし」で、どちらも「あなた」。

自分自身を好きになりたい人は、一度手に取ってみてはいかがだろうか。
身体の一部のように、部品は応えてくれるだろう。

ブランド情報

・公式HP

・Instagram

I am CONCEPT.編集部

・運営企業

執筆者: 廣瀬慎

・Instagram

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