Colors 彩


「あなたの色は何色ですか?」と聞かれたら、私は「黒です」と答える。

何の躊躇いもなく、即座に答える。
私の色は、黒だ。

それは、鮮やかな黒だ。
どす黒くて、でも艶々していて、救いようのない、黒——。

もともとは、もっと綺麗な色をしていた。

私の心の中はとても透き通っていて、何に対しても純粋で、誠実で、この世界にあるはずの幸福を全ての人に願っていた。

何色だったのかと言われれば、空色、桃色、藤色、何でもいいが、淡くてとても明るい色をしていたと思う。私は、まっすぐな子供だった。


人には、『綺麗なものは汚してしまいたい』という欲求がある。

綺麗なものを土足でぐちゃぐちゃに踏み倒し、泥をかけ、原形が分からなくなるまで汚してしまい、全てを終えると途端に興味をすっかり失ってしまって、何事も無かったかのようにその場を立ち去り、自分が何をしたのかさえ記憶の中から綺麗さっぱり消してしまう。

人には、そういう習性がある。


「あなたの色は何色ですか?」
「あなたの個性は何ですか?」

個性、何だそれは。
なぜ、そんなことを聞く。

私の色が、何だって言うんだ。
放っておいてくれ。


私は、黒く染ってしまった。
その過程には、たくさんの涙が伴った。

人は嘘をついている。
自分が綺麗な色をしていると、勘違いをしている。

ピンク? いや、違う。
オレンジ? いや、違う。
緑! いや、違う。

大抵の人の色は、黒だ。
断言しよう。

今生きている人の色は、黒だ。
救いようのない、真っ黒。



お綺麗なままで生きていくなど、不可能だ。

色を混ぜ合わせると、最終的に黒に行きつく。
人は人生経験を重ねていけばいくほど、小さい頃持っていた鮮やかな個人の色を失い、社会の中で個人の色を混ぜ合わされ、真っ黒に堕ちていく。

「あなたの色はなんですか?」
「黒です」

社会で生きてきたのだから。自身の中にある黒い部分と共生していかなくてはならない。

鮮やかで綺麗でいようとする人達が、美しいままでいれる社会であって欲しい。

輝け、群青。








この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?