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勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(10)
ボクは、赤ん坊の頃に、父さんに拾われた。
それを知ったのは、つい半年前、初めて家から出た日のことだった。
父さんに訴えて訴えて、駄々をこねて、やっと勝ちとった外出の機会だった。
家から出て、陽の当たる道まで出たとき、
初めて見た太陽が眩しくて、思わず目を細めてしまう。
それでもまだ太陽が見ていたくて、頑張って空を見上げていた。
やっと少し目が慣れてきた頃、辺りに広がる景色に感動した。
「
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(9)
次の日、ボクはあの武器屋へと向かった。
バラモクさんと約束をしていたし、何より旅立ちのために何を準備した方がいいかを知りたかったからだ。
昼間なのに薄暗い路地を抜け、木でできた重い扉を開けた。
「こんにちは――。」
店内には相変わらず、冷たい鉄の臭いが充満していた。
「いらっしゃい。」
「こんにちは、バラモクさん。約束通りに来ました。」
バラモクさんが店の奥から出て来て、迎え入れられる。
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(8)
「おかえり。遅かったな。」
帰るなり、父さんはいつものように迎えてくれた。
――と言っても、ボクの本当の父じゃない。
詳しいことは知らないけれど、
ボクは幼い頃にこの人に拾われて、育てられたらしい。
独り身だし、あんまり働かない人だし、何より貧乏で根暗で清潔感がない。
ただ、笑顔が優しいことだけが、取り柄のような人だった。
「うん、ちょっと寄り道してて。」
「そうか――。」
ボクに向けられ
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(7)
騒がしく叫ぶ剣を無視して、亜人のおじさんは凄く親身になって教えてくれた。
街を出るために準備するコト、生き延びるために必要なモノ、あったら便利なモノ。それから外の世界がものすごく危険なコト、悪い奴らもいるというコト、寝ることさえも危険だというコト。それから――
「俺はバラモクという。ボウズ、名前は。」
「カナタです。」
亜人のおじさんは、バラモクという名前だそうだ。
この街では聞いたことのない
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(6)
「やだね。」
喋る剣に、即答で同行を断られてしまった。
経験値豊富な喋る剣が、何も知らないボクの、旅のお供になる。
なんて、少しでも希望を持ってしまった自分が恥ずかしい。
二人の話を聞いていたら、ボクはこの世界のことを本当に何も知らなさすぎる。そんな奴についていったらすぐに死んでしまうという主張だって、何となく納得できてしまう。
やっぱり無理だったか…。
すっかり肩を落としてしまったボクに、
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(5)
「ガハハハハハ!!!こいつぁ笑えるねぇ!!!」
突然、豪快な笑い声が店内に響き渡った。
「なんだ。お前、喋れたのか。」
おそるおそる回り込んで見てみると、誰もいない。
大きな剣があるだけだった。
口が無いのでどこから声が出ているのかは分からないが、とにかく剣から声がする。
笑いすぎて呼吸困難になりかけている。
えっ、モノって喋るの?
「わりぃわりぃ、流石に可笑しくなっちまったもんで、ついつ
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(4)
「どうしよう……。」
壁一面に飾られた、武器や防具に狼狽える。
どれがどんなモノなのかなんてわからない。
硬い木で出来た持ち手のついた丸い板、高級そうな模様が入った鉄っぽい素材の変な形のモノ、鎖のようなモノで繋がれた手袋のような形のモノなんかもある。
「なんだこれ…。」
…困る。これは困る。何もわからない。
触ったら怒られるだろうか。いや、触らないと分からないのだけれど、どれをどう扱ったらい
勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(1)
青い空、白い雲。
誰かがそんな詩を書いていたと思うけれど、今日はそれほどに天気がいい。
通い慣れた石畳を進む足音が、コツコツと小気味よいリズムで響いている。
「……ふぅ。」
ふと立ち止まり空を見て、目を閉じて深呼吸をする。
気のせいなのかもしれないけれど、今日は一段と空気がおいしい。
本当はこのまま日向ぼっこといきたいところなのだけれど、今日に限っては時間がない。早く買い物を済ませなければ