勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(1)
青い空、白い雲。
誰かがそんな詩を書いていたと思うけれど、今日はそれほどに天気がいい。
通い慣れた石畳を進む足音が、コツコツと小気味よいリズムで響いている。
「……ふぅ。」
ふと立ち止まり空を見て、目を閉じて深呼吸をする。
気のせいなのかもしれないけれど、今日は一段と空気がおいしい。
本当はこのまま日向ぼっこといきたいところなのだけれど、今日に限っては時間がない。早く買い物を済ませなければ。
大きな鞄を背負い直し、ふたたび足早に歩き出す。
―― ボクはこの街から出たことがない。
平和な街だし、人が一生暮らすだけなら何不自由ないほど大きい。
市場に行けば色とりどりの野菜が並んでいて、水も豊富にある。
子供のほとんどは学校に通っていて、犯罪もほとんどない。
このまえ話してくれた旅人さんも、この街は平和だと言っていたので間違いはないだろう。たまに路地裏から出てくるおじいさんが、とてつもなく臭いくらいだ。
大きな円状の城壁に守られた街の中は、東西南北の区画で分かれるようになっていて、それぞれ特徴がある。
―― 陽の当たる南地区。
賑わいのある市場や商店、大きな噴水のある広場などがあり、毎日多くの人で賑わっている。
―― 陽が上る東地区。
一部のお金持ちの家や、学校、劇場やホール。他にも施設と言えるものはだいたいここにある。
―― 陽が沈む西地区。
普通の人の家はだいたいこの辺りに集まっていて、宿屋もここ。みんなが寝に帰る場所。
―― 陽の当たらない北地区。
酒場にボロ家、何だかよくわからない店があったりして、ここだけちょっと治安が悪い。ちなみに、ボクの家は北地区の真ん中からちょっと西あたりにある。
家から一歩外に出ると、必ず視界に入るものがある。
街の中央に天高くそびえ建つ塔、中央政府だ。
街のどこからでも見えるこの塔は、1階が役場の受付になっていて、上の階では偉い人達が働いているらしい。
あの塔の中では、街の平和を守っているんだと聞いているけれど、何をしているのかまでは誰に聞いてもよく知らない。
街のみんなを上から監視してるんじゃないかっていう噂もあるし、市場では最近この話題で持ち切りだったりする。ボクにとってはとうていどうでもいい話なのだけれど。
塔を過ぎて南に少し歩くと、南の門に向かって一直線に伸びる石畳の大通りがある。
見渡す限りの人で賑わっていて、中央の大きな広場では子供たちが駆け回り、両脇に並ぶ大きな店では大人たちが談笑している。今日もいつも通り、大勢の笑い声が通り沿いの建物に反響している。
ボクは大通りの喧騒にため息をつき、ひとつ逸れた細い脇道に入っていった。
(2)につづく。
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