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建築ビジュアルCG ~JARA建築ヴィジュアライゼーション展 2024~

こんにちは。STUDIO55技術統括の入江です。
先日、金沢の美術館で行われた建築ヴィジュアライゼーション展についてお話しします。


JARA(日本アーキテクチャル・レンダラーズ協会)

今年(2024年)の7月30日(木)から8/4日(日)までの6日間、JARA(日本アーキテクチャル・レンダラーズ協会)主催の『建築ヴィジュアライゼーション展 2024』が、金沢21世紀美術館で開催されました。

画像 : JARA 建築ヴィジュアライゼーション展 2024

日本アーキテクチュラル・レンダラーズ協会(JARA)は、1980年に設立され、40年以上にわたり、建築ヴィジュアライゼーションの技術向上と社会的認知を目指して活動を続けてこられている協会です。
毎年、建築パースの作品展やセミナーを開催し、継続的な活動を行っています。

ヴィジュアライゼーションについて

「ヴィジュアライゼーション」という言葉は、建築におけるビジュアル表現の意味で使われることが多い単語です。ですので、聞き慣れない方もいるかもしれません。
この言葉を訳すと、”可視化” という意味になります。

ウィキペディアには、『人間が直接「見る」ことのできない現象・事象・関係性を「見る」ことのできるものにすることをいう。』とあります。

その意味で、建築業界で使用される、「ヴィジュアライゼーション」という用語は、建築家や建築士が設計した建物や空間のイメージをリアルに描く完成予想図としての建築パース等の表現を指すものとして認識されています。

私自身、建築CGの制作の他で、”ヴィジュアライゼーション” 、あるいは ”ヴィジュアライズ” という言い方をするのを聞いたことがありません。

私は、手書きの建築パースから始め、CGパース制作、車のカタログ用CG、プロダクトCG制作など、幅広くビジュアル制作に携わってきました。どのジャンルの制作においても、あくまで制作は裏方の仕事で、手がけた作品が自分の作品として日の目を見ることはほとんどありません。
建築作品の著作権は一般的に建築家や設計者に帰属します。そのため、制作者がどれだけ苦労して作ったものであったとしても、権利の関係でその作品を世に披露できないことがよくあることから、知る人ぞ知る、といったものになります。

その意味で、JARAの活動は、制作に携わる者の思いが報われることにもつながる貴重な場であるといえます。

特に今回は美術館で展示されるとあり、日々黙々と制作に携わる者にとって、これまでにない機会であったことは間違いありません。

JARA建築ヴィジュアライゼーション展 2024

金沢21世紀美術館 は、今年1月の能登半島地震で被害を受け、天井のガラス板が落下するなどの被害が発生し、しばらくは閉館となっていました。
全てのガラス板を点検し、安全確認を行った後、全館再開したのは、6月下旬のことです。

(美術手帖)
金沢21世紀美術館、6月下旬に全面再開。ガラス板天井すべて撤去|美術手帖 (bijutsutecho.com)

(TOKYO ART BEAT)
金沢21世紀美術館が6月下旬に全館再開。800枚のガラスをすべて取り外して点検へ|Tokyo Art Beat

(金沢経済新聞)
金沢21美が全面再開 能登半島地震では展示室のガラス天井など破損 - 金沢経済新聞 (keizai.biz)

それから約一か月後、7月30日(木)の展示会の初日から、美術館の再開を喜ぶかのように、連日、子連れのご家族や、海外からの観光客など、大勢のお客さんで賑わい、展示会場となった 市民ギャラリーB へもたくさんの方が足を運ばれました。

賑わう会場の様子

私は海外制作支店の技術向上の育成のため、ベトナムのホーチミンに駐在していた関係等もあり、なかなかJARAの活動に参加できなかったのですが、今年は久しぶりに映像作品を出展させていただき、また、会場へも直接伺うことができました。

今年、出品された内容については、こちらのJARA EXHIB 2024  作品紹介のページに掲載されています。
ぜひご覧ください。

ビジュアルの歴史

JARAの活動が40年以上に及ぶ点は注目に値します。
2021年にJARAが創立40周年を迎えた際に寄稿をさせていただきましたが、この40年は、まさにビジュアル表現の激動の歴史でもあります。

手書きから始まったビジュアルの歴史は、デジタル化を経てリアルタイムレンダリングの時代に突入し、さらにAI生成ビジュアルの時代へと進化しています。
映画からテレビ、パソコンからモバイルへと変遷する中で、「ビジュアル」はもはや専門職の用語ではなく、日常生活に欠かせない重要な要素となりました。

約10年前のCG制作においては、ダイレクト・イルミネーションラジオシティ(Radiosity)法の比較が主流でしたが、次第にモンテカルロ法に基づくレイトレーシング(仮想カメラから光線を計算する手法)が主流となりました。その後、これらの技術を統合したグローバル・イルミネーション(Global Illumination, GI)アプローチが確立されました。さらに、GPUアクセラレーションの進化により、リアルタイムレンダリングが可能となり、UEのLumenを用いた手法なども登場しています。

静止画制作から動画制作がメインになり、更には、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、XRホログラフィーボリュメトリックキャプチャBCI(Brain-Computer Interface)、Spatial Computing(空間コンピューティング)、Haptic Feedback(触覚フィードバック)、コンフィギュレーターデジタルツインプロジェクションマッピング等々…… SF映画顔負けの技術が次々に生み出されています。

また、投影するモニターに関しても、2DグラフィックスからWebGLを用いた3Dグラフィックス使用のブラウザとなり、没入感の優れたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、今や裸眼で3D映像を見られる Light Field Display(ライトフィールドディスプレイ)の技術なども登場しています。

今後、これまで以上にビジュアル表現が加速することは間違いなく、『建築ビジュアライゼーション』における表現とその手法においても新たな歴史を刻むことは、もはや一つの使命であるとも言えます。
現実そのものの仮想ビジュアルを使った災害シュミレーションや、より効率的で安全な都市開発など、人類がこれまで乗り越えられなかった課題を克服するかぎともなるからです。

ビジュアルに込められた意義は、芸術性のある美しさだけではなく、現実的で実用的な要素へ波及し、建築、医療、アパレルなど、人間にとってより有益なものへ使用されていきます。
住まいの安全とくつろぎは、人が暮らしていく上で必要な要素であり、建築ビジュアルに携わる者としての使命もまた、単なる表現枠を超えて、より重要な必要枠へと変化していくことになるでしょう。

ビジュアルの必要性は、人類にとって、これまでとまったく違う角度で進化することを余儀なくされているのです。

その意味で、JARAの役割と意義は、今後ますます重要なものとなると期待するものであります。

金沢の魅力

金沢へはこれまで行く機会がなかったため、思いがけない初訪問になりました。

文化色豊かな金沢は、加賀百万石の城下町として繁栄し、江戸時代から金箔の生産で知られた地域で、日本の金箔生産の約99%を占めています。

タクシーに乗車した際のご高齢のドライバーさんに金沢のオススメ料理について尋ねた際、「やっぱり魚。他に旅行に行ってもおれは魚は食べないね。北海道は別だけど」と言って笑っておられました。
いただいた食事はどれも美味でしたが、特に魚介類は臭みがなく、あれほど美味しいお刺身はないといったほど。その気持ちがよく分かりました。

メニューと違わぬ盛り付けの海鮮丼

京都や奈良とは異なる歴史を持つ、ゆったりとした気風や人柄の金沢の空気感は、これまでにない魅力として映りました。

金沢駅東口の『鼓門・もてなしドーム』
観光案内所のスタンドアップ

インタラクティブな現代アートが豊富な金沢の環境は、樹木そのものが年輪を刻んだアートとして圧倒的な存在を示しています。

兼六園の隆々たる松
しいのき迎賓館から望む 金沢城の城壁を覆う樹木
しいのき迎賓館にある 巨大な堂形のしいのき
金沢21世紀美術館にある芸術的なサルスベリ

金沢21世紀美術館

金沢21世紀美術館は今年の10月で、開館20周年を迎えます。
”まるびぃ” ”21美” の愛称で親しまれ、現代アートを収蔵した美しいフォルムの美術館は、妹島和世+西沢立衛/SANAAが建築デザインを手がけ、ベネチア・ビエンナーレ国際建築展展示部門「金獅子賞」を受賞したことでも知られます。

広々とした館内に点在するインタラクティブなアートは、それを楽しむ人がいて初めて完成する芸術であるといえます。子供たちがアートを使ってかくれんぼ等に興じる声が今も耳朶に残っています。

金沢21世紀美術館の館内アートで遊ぶ子供たち
点在するアートな椅子
金沢21世紀美術館のアプローチ
カラー・アクティヴィティ・ハウス /
オラファー・エリアソン

これまで色々な美術館へ足を運びましたが、ここまで若い方が多く来場されている美術館はあまり記憶にありません。また、地元の方が家族連れで来られている光景が多く見られる点でも、ここまで地域に根差した美術館というのも珍しく感じました。

金沢という環境そのものがアートであり、改めて人の心にゆとりや豊かさをもらたすアートの役割を再認識する機会になりました。

金沢21世紀美術館の再開に、JARAの一員として映像が展示できたことを喜ばしく思うと共に、1日も早い能登半島エリアの復旧・復興をお祈り申し上げます。