貼られたレッテルを剥がすと決めて本を開いた

※文中には差別表現が出てきます。ただ、それらを是認する意図は全くありません。


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<〜小学生>

ジジイが言った。
「男のくせになよなよするな」

仲良しの女の子がからかった。
「環子〜環子〜!」

友達の父親が笑った。
「家族と写真を撮るときにダブルピース?ギャルじゃねーんだから」

母が眉をしかめた。
「いいの?そんな柄の手袋で」

風呂で幼馴染が指をさして笑った。
「ちんちん隠すタオルなんていらないでしょ」

両親がきつく叱った。
「一度やり始めたことは最後までやらなくちゃだめ。途中で投げ出す癖がつく」

算数で間違えた男の子が舌打ちした。
「うるせえよ。正しい回答なんか言うなよ」

近所の女の子が不登校になった。
「突然遊んでくれなくなった。私のこと嫌いなんだ」

先生が間違えて同級生が笑った。
「環さん。あれ?あ、環くんか。名前が女の子かと思いました」

校外の展覧会に飾られた図工の作品を見て女子児童が口を尖らせた。
「これのどこがいいの。私の方がいいし」

教師の赤ペンが原稿用紙に光った。
「まず、という言葉はあまり使いません」

体育館開放の責任者である事務員がイラついた。
「友達を誰でも連れてきていいってわけじゃ無い」

男の子たちがお互いの腹を探った。
「バレンタインにチョコもらったけど馬糞の山に捨ててやった」

女子たちが嫌な目を一人に向けた。
「あの子、貧乏なんだって」

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<中学校〜高校>

友達が提案した。
「ジャンケンで負けた奴が転校生に告白しようぜ」

近所のおばさんが力を込めた。
「立派な男になるんだよ」

同じ小学校だった友達がなんの気無しに言った。
「バレーボールよりバスケットボールの方がかっこいいじゃん」

家庭科の時間に男がヘラヘラした。
「裁縫とか料理ができなくてもよくね」

体育館を覗いた同級生が声を張った。
「バレー部3人しかいないしメガネもいるよ。きしょ!」

他の部活の顧問は握手を求めてきた。
「バレー部にいるのもったいない。うちに入れよ」

兄が怒った。
「なめるなよ。努力していないやつに何も言われたくない」

自信のある女子が声をひそめた。
「うちの担任、女なのに腕毛生えてる」

友達が先輩をかばった。
「あの先輩は見た目怖いし、チャリパクしたりしているけど、本当は優しい人なんだよ。俺にも優しいしね」

同級生が前略プロフィールに書いた。
「おかまと縁切りました〜(笑)」

友達が探りを入れてきた。
「ねえ、この前一緒に帰っていた子と付き合っている?」

教室で響く声があった。
「男女の友情ってありえないでしょ」

先輩が笑いながら近寄ってきた。
「合唱コンさ、環の声がデカすぎて下手な人みたいだったよ」

近所の友達がそっぽを向いた。
「喧嘩になったら誰も俺を止められないよ。それは環でもね」

他校の生徒が嘲笑った。
「なんで茶髪にしてるの。部活を真面目にやってるんだよね?」

チームメイトが緊張をといた。
「俺ら頑張ったでしょ。負けると思っていたから善戦できた方だよ」

受験を終えた友達同士がほっとした。
「受かった〜滑り止め行ったり、浪人するのだけは無理」

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<大学〜>

初対面の大学の同級生が聞いてきた。
「東北出身?あ、古着なのか、その格好」

仲良し4人組がプリクラに落書きした。
「ネガティ部〜」

サークルの先輩たちがたとえた。
「ミスチルのボーカルに似てない?嵐の二宮かな?まじまじ!褒めてるから!今度カラオケで歌って」

後ろの席のテニス部がぶつぶついった。
「金髪か?ぜってー弱いだろ、この部」

ネット越しの相手が敵意を剥き出しにぶつけてきた。
「下手くそ。まともなプレーもできないのか」

同級生が授業中に突然話しかけてきた。
「第一志望の大学どこだったの?え?ここ?そんな人いんのかよ」

目立つ女性を指さして友達が鼻で笑った。
「あの髪色でタバコも吸っているだろ。モテることとか一切気にしていないのかな。意味不明じゃね?」

同級生が目を見て意見をぶつけてきた。
「私、君が作った雑誌を全然面白いと思えない。企画の意図がわからないし」

授業を休んだ友達からメールが来た。
「今日、出席票出してくれない?」

カラオケ好きの女が歌った。
「永久保存の私です」

酔ったおっさんがいるはずのない誰かに語った。
「今の若い奴らはわかっていない」

元カレが下を向いた。
「僕は子供が欲しいから」

叔母がつぶやいた。
「どんなお嫁さんを連れてくるのか楽しみだな」

電車で隣に座ったサラリーマンが同僚と談笑した。
「都内に戸建ての家を持てないようじゃ成功とは言えないな」

同期がへそを曲げた。
「環にはわからないよ。俺は君みたいになんでもできるわけじゃない」

一部の政治家が声高に叫んだ。
「同性婚や夫婦別姓だって?伝統的な家族が壊れるじゃないか」

他の政治家が耳打ちしてきた。
「偽装結婚とかの犯罪が生まれてくるだろう」

マッチングアプリで出会った男が目を逸らした。
「僕は好きの基準が高くて、ものを簡単に好きって言えません。だから特に好きなものないですよ。いいですねあなたは。好きなもの多くて」

有名人が公共の電波を使った。
「母親なんだから・・・」

取引先が微笑んだ。
「まだ結婚していなかったよね。どうだ、俺の知り合いに会ってみないか」

人を殺めてしまった男が肩を落とした。
「仲良くできないなんて駄目だよね。兄弟なのに」

髭面の青年が呆れた。
「また人間関係の話?好きだね。他人にそこまで興味ないよ、普通は」

飲み屋で隣から聞こえた。
「大体のゲイって、安室ちゃんとか好きだよね」

友達の結婚相手がいじった。
「え?そんなブスなのに?」

友達である新婦も笑った。
「今日、パセラの店員かと思った」

もっさんが涙を浮かべた。
「パッとしないな、私」

カミングアウトを受けた親たちが唇を噛んだ。
「育て方間違えたのかな」

25歳を迎えた人たちが口々にいった。
「もうアラサーだから、結婚とかしないとね」

先輩が言い残した。
「結婚したり子供ができたら教えてね」

初めて会った人に評価された。
「髭とか無い方がいいんじゃないですか?」

転職を知った先輩が電話してきた。
「逆にすごいよ。このご時世で辞める勇気。同業他社にうつるの?」

転職先の同僚が言った。
「しっかりしていますね。やりたいことが明確ですごいです」

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 多くの呪いを抱えている。言った相手にとっては褒め言葉だったとしても、知らず知らずのうちに私はその言葉に囚われ、その偶像や無意味な規範から抜け出せずに、関節が固まってしまって動けなくなることがある。


 呪いを解くために本を開いた。


 谷川俊太郎選 茨木のり子詩集(岩波文庫)。

自分の感受性くらい

(中略)
駄目なことの一切を
時代のせいにするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ


 そうなんだ。

 自分の感受性なのだ。常識人ぶって世間におもねり、自分の感じたことたちを粗末に扱う必要はないのだ。


言いたくない言葉
心の底に 強い圧力をかけて
蔵(しま)ってある言葉
声に出せば
文字に記せば
たちまちに色褪せるだろう

それによって
私が立つところのもの
それによって
私が生かしめられているところの思念

人に伝えようとすれば
あまりに平凡すぎて
けっして伝わってはゆかないだろう
その人の気圧のなかでしか
生きられぬ言葉もある

一本の蝋燭のように
熾烈に燃えろ 燃えつきろ
自分勝手に
誰の眼にもふれずに


 自分の人生をあゆみ始めるために、贈られた言葉が本にはあった。自分を苦しめている、勝手に貼られたレッテルを、自分自身で剥がしていくのだ。

 自分の感受性と信念、そして好きな本からもらった新しい言葉を持って、これからの日々を進んでいこうと思う。


 ニュース速報が鳴る。

「同性婚訴訟 札幌地裁が違憲判断」

 流した涙は暖かかった。まだまだ自分は、時代は、人は、変わっていける。

<環プロフィール> Twitterアカウント:@slowheights_oli
▽東京生まれ東京育ち。都立高校、私大を経て新聞社に入社。その後シェアハウスの運営会社に転職。
▽9月生まれの乙女座。しいたけ占いはチェック済。
▽身長170㌢、体重60㌔という標準オブ標準の体型。小学校で野球、中学高校大学でバレーボール。友人らに試合を見に来てもらうことが苦手だった。「獲物を捕らえるみたいな顔しているし、一人だけ動きが機敏すぎて本当に怖い」(友人談)という自覚があったから。
▽太は、私が死ぬほど尖って友達ができなかった大学時代に初めて心の底から仲良くなれた友達。一緒に人の気持ちを揺さぶる活動がしたいと思っている。
▽将来の夢はシェアハウスの管理人。好きな作家は辻村深月

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