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今枝由郎・海老原志穂編訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』(2023・岩波文庫)の翻訳がひどすぎる

今枝由郎・海老原志穂編訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』(2023・岩波文庫)を読んだのですが、あまりに翻訳が杜撰なのでメモしておきます。

ダライ・ラマ六世ツァンヤン・ギャンツォ(1683-1706)は「チベット仏教界の最高権威であるダライ・ラマの化身として認定されながら、成人するやいなや還俗し、ラサの街に浮名を流し、廃位され、二十年余りの短い生涯を閉じた」(同書解説・今枝由郎「ダライ・ラマ六世の生

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【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

晶文社が京都大学学術出版会とともに第一七回出版梓会新聞社学芸文化賞を受けたという。

上掲サイトによると受賞理由の一つには同社刊のルポタージュである高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』の評価があるということらしい。しかし稿者は同書の刊行以来、その内容や表現には多くの問題点があると考えてきた。すでに刊行からいささかの時間が過ぎているが、いまこの機会に、考えを整理しておきたい。

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【書評】浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)

【書評】浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)

浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)は、早稲田大学政治経済学部出身の著者が、ソニー株式会社入社二年目の一九八六年六月に本社の人事部長に引き抜かれる形でソニー創業者にして当時は取締役名誉会長であった井深大の「英語屋」(通訳兼カバン持ち)を任ぜられた際の経験をつづった一冊です。

著者は入社初年に会社の負担でサイマルアカデミーの夜間の通訳養成コース(普通

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【書評】橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)

【書評】橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)

橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)は、いまは都市計画分野でも活躍する建築史家である著者の、阪大時代の修士論文を加筆修正再編したもの。やや古い本ですが明治期の倶楽部建築について知ろうとするときには、文化史的な記述もふんだんな本書が必携となるでしょう。ただし大阪の事例に偏っているフシはあるのでその点は注意して読む必要があります。

第一章「倶楽部型社会の進化」

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【書評】渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)

【書評】渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)

渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)は一九六五年に神奈川県の六つの団地を対象として行われた統計「団地居住者生活実態調査」のデータを分析する一書です。一九七〇年代からしばしば言われるようになる「総中流」の生活様式が萌芽した時代において、団地という空間で人々がどのような時間を生きたの

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【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

 上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)は、著者が地域研究の過程で資料に接した澤田美喜の乳児院、小学校、中学校を視座として、主に占領期の米国軍人と日本人との間に出生した混血児をめぐる教育のありようを歴史的に叙述した一書です。澤田は三菱財閥の創業者岩崎弥太郎の孫娘で、夫は外交官の澤田廉三、一九四八年二月に乳児院エリザベスサンダーホームを創設したのを嚆矢に、生涯、混血児の教育に熱意を傾けた

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【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、二〇二〇)は、立命館大学産業社会学部教授で歴史社会学・メディア史を専攻する著者の新著です。氏は先に『「働く青年」と教養の戦後史―「人生雑誌」と読者のゆくえ』(筑摩選書、2017年)でサントリー学芸賞を受けています。表題にある「勤労青年」とは中卒の労働者の謂いです。本書は、主として敗戦から1960年代末において勤労青年たちに共有されていた教養主義を歴史

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