森島央次郎

昭和を中心とする大衆文化の諸相に想いを馳せ、当時の風景を論評の形で再現する作業を試みて…

森島央次郎

昭和を中心とする大衆文化の諸相に想いを馳せ、当時の風景を論評の形で再現する作業を試みています。ひとつの事柄に対して、複数的な視点を導入することを目指しています。浅学非才です。https://twitter.com/ojiro_morishima

マガジン

  • 書評

    書評記事を収めます。

  • おれの冒険

    主に昭和の大衆文化史に関係する内容です。「感想」にとどまらないテーマ性のある文章を発信します。過去の資料に触れ、それを取り囲んでいた時代の口吻を想像するいとなみを「冒険」と位置づけています。

  • 『昭和萬葉集』襍読

    『昭和萬葉集』(昭和54-55年、講談社、全20巻、別巻1巻)の一首鑑賞。

最近の記事

今枝由郎・海老原志穂編訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』(2023・岩波文庫)の翻訳がひどすぎる

今枝由郎・海老原志穂編訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』(2023・岩波文庫)を読んだのですが、あまりに翻訳が杜撰なのでメモしておきます。 ダライ・ラマ六世ツァンヤン・ギャンツォ(1683-1706)は「チベット仏教界の最高権威であるダライ・ラマの化身として認定されながら、成人するやいなや還俗し、ラサの街に浮名を流し、廃位され、二十年余りの短い生涯を閉じた」(同書解説・今枝由郎「ダライ・ラマ六世の生涯とその特異性」)人物です。 彼が残したとされる膨大な恋愛詩(実際には、その多

    • 「一円を笑う者は一円に泣く」の「一円」の価値――『三千円の使いかた』を観ておもったこと

      いまフジテレビで放送中の『三千円の使いかた』はお金に対する価値観を再検討させてくれるいいドラマで、今期もっともよい作品の一つなのですが(山崎紘菜が好きだから観てるというのが大きいんですけどね)、その第4話「専業主婦の貯金術」を見ていて、ふと疑問に思ったことがありました。 このドラマでは毎回、アンミカ演じる節約アドバイザーが節約についての啓発をする場面があるのですが、第4話のテーマは「一円を笑う者は一円に泣く」でした。少額を使うときにこそその人のお金の価値観が表れるというよう

      • 27歳限界男性、#TGCしずおか 参戦記

        TGC静岡2023 for SDGsを観覧した。当方、27歳限界男性で、当然ファッションショーなんぞ見たことがなく、推しのアイドルが出るらしいのでエイヤッとチケットを取ったのだが、これがめっぽう面白かったので感想を書いておく。長いのでだらだら適当に読んでください。 13時過ぎに現場入りし、会場内でやってる地元ラジオの公開放送を見る。ゲストで岐阜出身の堀未央奈が出てきて「御殿場アウトレットは犬を連れていけるので家族でよく行った」などと話す。そのあと出てきたのはオフィシャル T

        • 【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

          晶文社が京都大学学術出版会とともに第一七回出版梓会新聞社学芸文化賞を受けたという。 上掲サイトによると受賞理由の一つには同社刊のルポタージュである高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』の評価があるということらしい。しかし稿者は同書の刊行以来、その内容や表現には多くの問題点があると考えてきた。すでに刊行からいささかの時間が過ぎているが、いまこの機会に、考えを整理しておきたい。 (1)『つけびの村』梗概二〇一三年七月二一日、山口県周南市須金・金峰地区の、わずか十二人が

        今枝由郎・海老原志穂編訳『ダライ・ラマ六世恋愛詩集』(2023・岩波文庫)の翻訳がひどすぎる

        • 「一円を笑う者は一円に泣く」の「一円」の価値――『三千円の使いかた』を観ておもったこと

        • 27歳限界男性、#TGCしずおか 参戦記

        • 【書評】高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社、二〇一九)の倫理的問題――「村」へのまなざし

        マガジン

        • 書評
          7本
        • おれの冒険
          11本
        • 『昭和萬葉集』襍読
          2本

        記事

          【書評】浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)

          浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)は、早稲田大学政治経済学部出身の著者が、ソニー株式会社入社二年目の一九八六年六月に本社の人事部長に引き抜かれる形でソニー創業者にして当時は取締役名誉会長であった井深大の「英語屋」(通訳兼カバン持ち)を任ぜられた際の経験をつづった一冊です。 著者は入社初年に会社の負担でサイマルアカデミーの夜間の通訳養成コース(普通科)を受講しており、会社は彼にこの仕事を任せる計画であったようです。 当時の井

          【書評】浦出善文『英語屋さん――ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』(集英社新書、二〇〇〇)

          【書評】橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)

          橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)は、いまは都市計画分野でも活躍する建築史家である著者の、阪大時代の修士論文を加筆修正再編したもの。やや古い本ですが明治期の倶楽部建築について知ろうとするときには、文化史的な記述もふんだんな本書が必携となるでしょう。ただし大阪の事例に偏っているフシはあるのでその点は注意して読む必要があります。 第一章「倶楽部型社会の進化」は、刊行当時における「クラブ」という言葉のニュアンスを分析的に見てゆくところから

          【書評】橋爪紳也『倶楽部と日本人 人が集まる空間の文化史』(学芸出版社、一九八九年)

          【書評】渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)

          渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)は一九六五年に神奈川県の六つの団地を対象として行われた統計「団地居住者生活実態調査」のデータを分析する一書です。一九七〇年代からしばしば言われるようになる「総中流」の生活様式が萌芽した時代において、団地という空間で人々がどのような時間を生きたのか、統計から風景を復元することによって推察してゆくというコンセプトになっています

          【書評】渡邉大輔、相澤真一、森直人、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター編『総中流の始まり 団地と生活時間の戦後史』(青弓社、二〇一九)

          【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

           上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)は、著者が地域研究の過程で資料に接した澤田美喜の乳児院、小学校、中学校を視座として、主に占領期の米国軍人と日本人との間に出生した混血児をめぐる教育のありようを歴史的に叙述した一書です。澤田は三菱財閥の創業者岩崎弥太郎の孫娘で、夫は外交官の澤田廉三、一九四八年二月に乳児院エリザベスサンダーホームを創設したのを嚆矢に、生涯、混血児の教育に熱意を傾けた人物です。 第一章「占領・復興期の混血児誕生」では、強姦された女性の引揚、RA

          【書評】上田誠二『「混血児」の戦後史』(青弓社、二〇一八)

          中学の時の親友から「ハルヒの新刊読んだ?」ってLINEが来てちょっと泣いた

          ハルヒの新刊が出た。『涼宮ハルヒの直観』というらしい。もちろん作者は谷川流、イラストはいとうのいぢ、レーベルは角川スニーカー文庫。 いまさらいうまでもないことだが、ハルヒの前の巻である『驚愕』前後巻が出たのは2011年の春だったから、およそ10年ぶりの新刊になる。出るわけがないとみんな思っていたから、新刊の告知がでたときにはニュースにもなっていた。 クソデカ主語で恐縮だが、2000年代後半にオタクをやっていた人間は、だいたいハルヒを通っている。年がバレそうだけれど、おれの

          中学の時の親友から「ハルヒの新刊読んだ?」ってLINEが来てちょっと泣いた

          国語で習った三浦哲郎「盆土産」を十数年ぶりに再読して、あの頃見落としていた描写に気づいた話

          三浦哲郎「盆土産」について書いてみようと思う。中学校の国語で読んで以来それきりの人たちのために。 (0)ことの発端中学二年生の家庭教師をやっている大学生と話していたら、いま国語で三浦哲郎の「盆土産」をやっていると聞いた。私が中学生だった時分も習ったので現代小説ながらもいわゆる定番教材となっているのだろう。なにせまだ当時は書いた本人が生きていた。うっかりしていたが中学を出てからもう十年が過ぎているわけである。ちなみに、黒田俊太郎と幾田伸司の共著論文「「盆土産」(三浦哲郎)教材

          国語で習った三浦哲郎「盆土産」を十数年ぶりに再読して、あの頃見落としていた描写に気づいた話

          古本で買った源氏鶏太の前の持ち主の行動を考える日常系ミステリ(大噓)

          源氏鶏太を読む面白さ、というのは改めてどこかに書いてみたいと思っているが、それとは別に、源氏鶏太を買う面白さ、というものがある。そもそも源氏鶏太に関心を持っている人などほとんどいないらしい昨今、そんな面白さを説いたところでどうしようもないのだが、面白いのだから仕方がない。せめていわゆる「日常の謎」のテイストで紹介して、『氷菓』の折木奉太郎くんに憧れている層の需要を惹起できればと思うが、それにしたってことは源氏鶏太だからいささか心許ない。ただ日常の謎といえばいちおう日常の謎にな

          古本で買った源氏鶏太の前の持ち主の行動を考える日常系ミステリ(大噓)

          『アイヌ神謡集』は岩波文庫の赤でいいのか?――田中駿介氏の記事を読んで

          「論座」に掲載された田中駿介氏(@tanakashunsuk)の記事「「観光資源化」するアイヌ民族の歴史に、なぜ歯がゆさを感じるのか」を読んでいて考えさせられた箇所がありました。 このなかで田中氏が、岩波文庫で『アイヌ神謡集』が赤(外国文学)、『おもろさうし』が黄(日本文学)に分類されている、と指摘したうえでポスコロ的に批判しています。 余談だが、同書(引用者注――『アイヌ神謡集』)は岩波書店から刊行されているが、なぜか「外国文学」の扱い=赤になっている。一方で沖縄最古の

          『アイヌ神謡集』は岩波文庫の赤でいいのか?――田中駿介氏の記事を読んで

          QuizKnockが着火した空前の角田浩々歌客ブーム(?)にテンション爆上がりした件

          QuizKnockのYouTubeチャンネルが昨日(二〇二〇・七・二六)公開した「【あたまいい】インテリ東大ワード流行らせ選手権」を見ていたら、角田浩々歌客の名前が出てきて椅子から転げ落ちました。 (一)概要QuizKnockというのは同名のWebメディアを運営するクイズプレイヤーたちからなるYouTuberです。彼らは動画の中でなぜかしばしば探検家の白瀬矗をいじっており、ここ数年、視聴者たちの間では日本史上まれに見る白瀬矗ブームが起こっていました。当該の動画は第二の白瀬矗

          QuizKnockが着火した空前の角田浩々歌客ブーム(?)にテンション爆上がりした件

          【昭和4年】エッケナー博士の話聴かんとてラヂオ屋の前にわれも立ちたり/加藤雪畝

          エッケナー博士の話聴かんとてラヂオ屋の前にわれも立ちたり 加藤雪畝「報知新聞」昭和4年9月21日 『昭和萬葉集』第一巻(昭和55年)所収の一首です。加藤雪畝という作者の情報は現在全く確認できません。新聞歌壇に投稿するのを旨とした人物だったのではないでしょうか。 掲出歌、「エッケナー博士」とは、ドイツの航空技術者ヒューゴー・エッケナー(Eckener, Hugo、1868.8.10~1954.8.14)です。当該歌の成立時期にはツエッペリン飛行船会社の取締役会長でした。この

          【昭和4年】エッケナー博士の話聴かんとてラヂオ屋の前にわれも立ちたり/加藤雪畝

          【昭和3年】聡明に、全体があかるくなつて来た、銀座を歩く女の姿。/花岡謙二

          聡明に、全体があかるくなつて来た、銀座を歩く女の姿。 花岡謙二(明治20年-昭和43年)『歪められた顔』(昭和3年) 『昭和萬葉集』第一巻(昭和55年)所収の一首です。「モダン・ニッポン」の節に収められています。同書に載る原田勝正氏の解説によると、〈近代化の一つの到達点〉となったこの時期、〈関東大震災以後の都市近代化、女性の職業進出〉にともなって、〈明治の「ハイカラ」がすたれ、「モダン」「スマート」が流行のひとつの基準となってき〉ていました。そのモダン時代の繁華街の代表格だ

          【昭和3年】聡明に、全体があかるくなつて来た、銀座を歩く女の姿。/花岡謙二

          【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

          福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、二〇二〇)は、立命館大学産業社会学部教授で歴史社会学・メディア史を専攻する著者の新著です。氏は先に『「働く青年」と教養の戦後史―「人生雑誌」と読者のゆくえ』(筑摩選書、2017年)でサントリー学芸賞を受けています。表題にある「勤労青年」とは中卒の労働者の謂いです。本書は、主として敗戦から1960年代末において勤労青年たちに共有されていた教養主義を歴史的に記述する一書です。 本書は、映画『キューポラのある街』から話がはじまります

          【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)