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随想

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棲み分けは不明。もしエッセイ集を編纂するならば入れたい記事をカテゴライズ。
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記事一覧

ブルース

ブルース

承認欲求が前面に出た文章は好きじゃない。
自戒を込めて書いた一文だけど、思った以上にエッジが効いていて、刺さる。

少なくとも私の場合、表現には承認欲求が付きまとう。「私」メインの文章は特に。存在が認められなかった過去の私の亡霊が憑依して、筆を握らせる。
満たされなかった思いは書いても書いても満たされず、あらゆる創作活動の源となる。

つまるところ、創作の総量は増えるのだが、一つ一つの完成度は

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解像度の高い、春

解像度の高い、春

桜のつぼみが膨らんでいたのに、空気も温いのに、なぜか空気だけは澄んでいて、遠くの山並みまで見渡せた。

山麓に広がる街と夕闇に照らされるアスファルトの道。
街灯の光が連なる様子は、点描された絵画のようであった。
それはフィクショナルな、という意味でも絵画のようであった。

あの景色は、実はまるで嘘で、蜃気楼だったと言われても驚きはしない。
解像度が高まると、かえって嘘らしくなるのかもしれない。

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マルチーズの原産国に行って、10歳の私を思う

マルチーズの原産国に行って、10歳の私を思う

未知の「世界」と既知の世界目を瞑って、地図を指さす。
指先の近くにあった都市の名前から、街の様子をイメージする。
小学4年生の私は、そんな遊びを繰り返していた。

未知の都市への憧れは、新品の地図帳の匂いが示していたような気がする。
足跡のつけられていない雪原のなかに足を踏み入れる感覚と似ている。

都市の名前では飽き足らず、未知の世界の暮らしにも、興味が向けられることになる。

家の本棚から本を

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距離もやさしさの一つ

大学時代は、自己承認欲求に溢れた4年間だった。
高校時代まで交友関係が狭く、目立たないように生きてきた反動で、大学に入って多少無理をした。

知り合いゼロからのスタートは小学時代の転校で経験していたので、さほどの抵抗はなかったものの、今まで所属していたコミュニティと物理的に隔たった場所に来てしまったため、頑張った。
SNS、学生組織、アルバイト、その他諸々の交友関係。趣味。留学。研究。

高校卒業

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わたしの正義

わたしの正義

大学に入って驚かされたのが「正義」がいかに相対的なものであるか、ということだ。

高校時代まで「右ならえ右」の世界で生きてきたものだから、私にとってのパラダイムシフトであった。

この事実は、精神的支柱を失うようで怖かった。
というのも、私は所属していたコミュニティ、すなわち高校における「正義」にどっぷり浸かっていたから。

ほんとうの水平線が存在しないように、ほんとうの正義なんてないのかもしれな

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転石苔むさず/群れと記憶

転石苔むさず/群れと記憶

英語教師が黒板に諺を書く。

A rolling stone gathers no moss.

転石苔むさずって言葉、ありますよね。

根無草のように漂っていては、何事においても成功しない。地面に根を張って、腰を据えて、何事にも取り組むべきだ、という諺ですよね。

でも、これはイギリスの解釈であって、アメリカでは全く逆の意味になるんです。

一つところに留まっていては、苔がびっしりと生えてしまう

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