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「時間泥棒」完結済み 全16話

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平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行…
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「時間泥棒」第一話

「時間泥棒」第一話

第一章動かない猫

「いってきまーす!」
 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。
 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。
 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。
 そんなこと

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「時間泥棒」第二話

「時間泥棒」第二話

第二章 ライオン公園のタイムカプセル
 ミチルが気づいたのは、十分ほど経ってからだった。春の陽気の心地好さに、マルコとジョージが芝生に寝そべっていびきをかき始めたときだ。
 ミチルがびっくりして振り返る。
「邪魔してごめんね、ミチル。じつは、紅葉にライオン公園に集まるように言われたんだ。たぶん来週の調理実習のことだと思うんだけど……」
 ミチルは、芝生の上のふたりを見ると優しく笑った。
「ごめんね

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「時間泥棒」第四話

「時間泥棒」第四話

第四章黒野時計堂

 白髪頭で、伸びっぱなしの無精ひげ。ニッコリと笑うしわくちゃの顔は優しそうだ。
「ここはどこですか? 僕たち猫を追いかけてたら、いつの間にかここに来てしまって」
「立ち話は、老人の私には堪えるよ。中でゆっくり話をしよう。さあ、みんな入って」
 お爺さんはニコニコ顔でそう言うと、白猫をつれてお店の中へと入っていった。
「ちょっと! あのお爺さん、絶対普通じゃないわよ⁉ あたしは行

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「時間泥棒」第五話

「時間泥棒」第五話

第五章短針マシュマロと消えた写真

 魚海町に住むマルコと別れ、今日の出来事について話しながら歩く。
「ところでミチル、お爺さんがマシュマロを使って、あたしたちを時計堂に案内させたってどうしてわかったの?」
 紅葉が聞く。僕もそこは気になっていた。
「町の人たちにはマシュマロの姿が見えてないみたいだって紅葉言ってたでしょ? それに〝五人の写真〟。きっとマシュマロは、わたしたち以外には本当に見えてな

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「時間泥棒」第八話

「時間泥棒」第八話

天川の行方不明事件
(1)

 自宅に戻ると、いつもより元気のない僕に気づいて、お母さんが心配そうな顔をした。だけど、靴を脱ぎながら黙っている僕に、それ以上話しかけてはこない。
 今のままではスカーフェイスを捕まえるどころか、姿さえ見つけるのは難しい。手がかりと言えば救急車のサイレンだけ。その音を頼りにあいつを追うわけだけど、救急車が現場に到着するまで、親切にスカーフェイスが僕たちを待っているはず

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「時間泥棒」第九話

「時間泥棒」第九話

天川の行方不明事件
(2)

 目を覚ますと朝八時だった。目覚まし時計の音と同時に、腕時計から紅葉の声が届く。
『おはよう! 昨日考えたんだけど、スカーフェイスを見つけても、素手じゃなかなか捕まえられないと思うの。だからみんな、家を出るときに虫捕り網を忘れないで!』
 めずらしく起きているジョージが、元気に答える。
『オゥ! じつはそれ俺も考えてたよ! 思いついたのは野球のミットだったけどな!』

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「時間泥棒」第十話

「時間泥棒」第十話

天川の行方不明事件
(3)

僕はライオン公園までの上り坂を一気に駆け上がる。脇道から乙女町に入り、《北川理髪店》の前へたどりつく。するとちょうど店からミチルが出てきた。
 腕時計を確認すると、時刻は九時三〇分。
「千斗君! さっきお父さんが、天川で小学生が消えたって!」
 ミチルもどうやら行方不明の男の子の話を聞いたみたいで、かなり慌てている。僕は呼吸を整えて言った。
「……うん! 僕も聞いた!

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「時間泥棒」第十一話

「時間泥棒」第十一話

第八章作戦開始! サイレンを挟み撃て!
(1)

 ペダルを漕ぐ僕の足取りは、自分でも驚くほど力強いものだった。通信で聞いたみんなの声が僕を後押しする。だけど結局、途中の道では猫一匹すら見つけられなかった。
 コスモ小に着いたのは十時三〇分を過ぎたあたり。途中ずっとスカーフェイスを警戒していたせいか、かなり時間がかかってしまった。なんの進展もないまま自転車を止めて息を整えると、コスモ小に到着したこ

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「時間泥棒」第十二話

「時間泥棒」第十二話

作戦開始! サイレンを挟み撃て!
(2)

 双子山町の外側には同じ背丈くらいの山が二つ並んでいる。それが双子みたいにそっくりだから、ここは双子山町と名づけられたらしい。授業で習わなくても誰でもすぐに気づくダイレクトすぎるネーミングだけど、この町の人たちはその名前を気に入っていて、双子山をモチーフにしたマークが町のあちこちに貼られている。
 行楽シーズンには双子山ハイキング大会! とか双子限定カラ

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「時間泥棒」第十三話

「時間泥棒」第十三話

第九章『5…4…3…2…1…‼』

 風を切って走る町の風景の色合いが、僕の横を通り過ぎるたびに混ざりあっていくようだった。感じるのは顔に当たる風の感触だけ。自分の呼吸も、周りの音も、まるで抜き取られてしまったように何も聞こえなかった。腕時計も沈黙したままだ。この瞬間がとても長く感じる。同じ一秒が、まるで違う長さの物差しで計った一秒みたいに長く……。
 次に腕時計から聞こえたのは、うろたえたジョー

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「時間泥棒」第十四話

「時間泥棒」第十四話

第十章不法の器の代償

 カラス神社に着いたのは、それから十分ほど経ってからだった。窮屈そうに虫網に押し込められたスカーフェイスは、まだ意識を取り戻していない。
「マルコ! ミチル! おまたせ! 本当におつかれさま!」
「おまえらマジでクレイジーにすごいぜ!」
 自転車を止めて二人に駆け寄ると、マルコとミチルは照れくさそうに顔を見合わせた。
「みんな、気をつけてね。クロの意識が戻ったら、目を見ない

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「時間泥棒」第十五話

「時間泥棒」第十五話

第十一章ミチルのフラッシュ

 紅葉とジョージの意識が戻ったのは、それからすぐ後のことだった。気がつけば、状況がガラリと変わった様子を見て、ジョージも紅葉も目を丸くしている。
「おぃ⁉」白地の黒ぶち猫を見たジョージが突然叫んだ。「うし?」
 どう見たって猫だよ、ジョージ。
「これは、一体どうなってるのよ?」
 時間をかすめ取られて状況がつかめていない紅葉たちに、その間に起きたことを説明すると、二人

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「時間泥棒」第十六話(最終話)

「時間泥棒」第十六話(最終話)

第十二章五人の写真

「さて、じゃああんたたち、一体どんな料理が作れるの?」
 紅葉がみんなの顔を眺め回す。ジョージはサラダ中心のヘルシーメニュー。僕は和え物中心のお年寄り受けメニュー。紅葉はおかずの概念を無視したご飯物オンリーのセット。マルコにいたっては、食べたい料理の名前をあげているだけ。
「いやぁ……ハッハッハ。予想はしてたけど、このDグループは絶望的だな⁉ いっそピザでも注文しようぜ」
 

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