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「LoOp」完結済み

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《創作大賞2024》《恋愛小説部門》  高校卒業と同時に山梨から東京へ出てきた朔良と未依は共に暮らしていたが、堅実に働く未依に比べ、朔良は日銭を稼ぐように暮らしていた。将来の目標…
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「LoOp」第一話

「LoOp」第一話

プロローグ 着信音が聴こえる。……おかしいな、音は消してあったはずなのに……。
 おぼろげな意識で手元を探ろうとすると、とつぜん頭がぐらりと揺れた。ドンとぶつかったような感覚で、次の瞬間、右首に突き刺さっている異物がさらに内側へ捻りこまれる。液体が溢れ出し首筋を濡らす。続いて身体が跳ね上がり意識が分散する。お尻が温かいものにじわりと浸されていき、おねしょをした記憶がよみがえる。
 何か大変なこと

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「LoOp」第二話

「LoOp」第二話

第一章 サトザクラ川瀬昇流(1)

「あ、川瀬さん、ちょっとちょっと。ちょうどいいときに見つけた」
 俺を呼び止めたのは、文京区役所の産業振興課の職員である釜田だった。
「振り込み申請書のフォーマットが変わりましてね、役所仕事で申し訳ないけど、もっかい事業者登録証書き直してほしいんですわ。いやこれからセミナーですよね、開始前で慌ただしいときに申し訳ない」
「いいですよ、今日銀行印もってないけど大丈

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「LoOp」第三話

「LoOp」第三話

第一章 サトザクラ川瀬昇流(2)

 しかし同じ田舎で育ち、同じ学校を出て、同じ職業を目指し上京したのに、どうしてこんなにも違ってしまうのかと考えると、俺はかすかに胸が苦しくなる。嫉視反目しようとする封印されたはずの俺のペルソナが、ここぞとばかりに首をもたげた。
「ところで川瀬さんは? 何かきっと立派なお仕事をされているんでしょう」
 偶然の一致で盛り上がった波柴は質問を投げ掛けた。無邪気に一歩踏

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「LoOp」第四話

「LoOp」第四話

第二章 エドヒガン神代朔良

「おい、神代、寝るんじゃねえよ」
「あぁ? 着くまでは関係ないでしょ」
「施工図、頭に入れとけよ。現場着いたら確認する時間なんてないんだからな」
 俺は仕事場に向かう狭いワゴンの中で、むさ苦しい連中の汗の臭いにまみれながら揺られていた。仕事場といっても日雇いバイトの延長のようなものだ。単発の現場をあっちに行ったりこっちに行ったり、今日みたいにワゴンで連れ回される。
 

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「LoOp」第五話

「LoOp」第五話

第三章 オオシマザクラ卯月未依(1)

 始めてデザインに興味を持ったのは高校の学園祭でやった『リゾートを演出したカフェ』だった。カフェの空間全体と、配置する小物や衣装、教室でかけるBGMやメニューなんかにもトータルでこだわって、クラスのみんなと一丸になって作り上げた。学園祭であることを忘れてずっと続けて行きたいと思えるほど出来がよくて先生たちにも褒められた。
 高校を卒業したあとは、両親の反対を

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「LoOp」第六話

「LoOp」第六話

卯月未依(2)

 翌日も仕事帰りに『LoOp』に立ち寄ると、昨日と同じにオーナーは優しい笑顔で迎えてくれた。
 カウンターに着くとフルーツパンケーキとスムージーを注文し、明日さっそく無料で行われるセミナーに彼が参加することになったと伝える。
「これは、近々強力なライバルが誕生するかもしれないですね。僕、自分の首を絞めるようなことしちゃったかな」
 冗談めかして笑うオーナーと店の内装のことなどを話

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「LoOp」第七話(最終話)

「LoOp」第七話(最終話)

第四章 ソメイヨシノ波柴明周

 僕の名前は波柴明周。生まれは山梨でそこで両親の元で育った。
 家庭事情は複雑で、僕には歳の離れた兄がいると聞かされたのは、父さんの死の間際だ。
 父さんはしばらく仕事で家にいなかったが、出張先で事故に遭い、救急搬送されるとそのまま死んだ。
 なぜか病院には警察官がうじゃうじゃいた。悲痛な叫び声をあげながら泣きじゃくる母さんの姿が心に強く残っている。葬式はひっそりと

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