![マガジンのカバー画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/140333822/f28c110e5d7a1794fef6e3d4df363bf2.jpeg?width=800)
- 運営しているクリエイター
#オレンジの片割れ
「鳥かごのハイディ」第一話
プロローグ
ハイディー、エレノア。
八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら?
たった一年
「鳥かごのハイディ」第十五話
第四章Border
(1)
ゆっくりと昇っていくエレベーターの速度が、いつもよりも遅く感じる。エレベーター内にあったボタンはすべて押したけれど、行き先はいったいどこなのか? すべては運任せ。
きっと神様が願いを聞き入れてくれるのなら、開いた扉の先には、外の世界に繋がる輝かしい出口が見えるはずよ。
ガタンッ!
……古臭いエレベーターが、故障したように突然止まるのはいつものこと。どこかの
「鳥かごのハイディ」第十六話
Border
(2)
「チェック!」
扉が開く音と共に、看護師長のクレアの声が聞こえた。目を覚ましたわたしは、いまだにこの狭い鳥かごの中にいることを知り、大きなため息をつく。
いつの間にか真っ暗になっているこの部屋と、窓の向こう。すぐ傍には椅子に腰掛けたままで眠るアガサの姿があった。
「クレア……、今は何時なの?」
ベッドから訊ねると、クレアは腕時計の文字盤をペンライトで照らし、「午前二
「鳥かごのハイディ」第二十話
String
(3)
チャーリーがそれを望まないこともわかっていた。それでもママのベッドで泣き暮らすチャーリーを見ていたら、このまま家族の想い出の詰まったラクロスにいたら、いつまでたっても哀しみは癒えることはないだろうと思わせた。
だからわたしは、喪失の痛みからチャーリーを遠ざけるためにミルウォーキーの高校へと追い出したんだ。将来のことを考えれば、たとえ恨まれることになったとしても、学校に通
「鳥かごのハイディ」第二十一話
Towing
朝日が街を照らし、そこに暮らす人たちが疎らに出歩き始める頃、後からレッカー車に乗ってやって来たパパの同僚が、パパと同じランディのピックアップトラックを工場へと運ぶ段取りをしている。
「なんか混みいってたみたいだな。邪魔しちまって悪かったよ」
「いえ、それより本当にごめんなさい。わたしのせいで車どころか、旅の予定まで台無しにしてしまって」
知らせを受けてお店を出た道路の脇で、レッ
「鳥かごのハイディ」第二十二話
第六章KOOL
雲一つない、澄み渡ったラクロスの青空の中を、大きな翼を広げた野生の鷲が、自由気ままに、赤と青の境界線を行き来している。新しい年の十月の中頃、再びわたしたちはあのレンガ造りの古ぼけた小さなダイナーに集まって、当時飲むことのできなかったホットレモネードを啜っていた。
「まったく! いつまで待たせるつもりなのよ? これだからアーティスト気取りの奴って嫌いなのよ!」
待ち合わせの時刻