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#双子
「鳥かごのハイディ」第一話
プロローグ
ハイディー、エレノア。
八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら?
たった一年
「鳥かごのハイディ」第三話
Twins(2)
「チェック!」
女性の声が聞こえてわたしは目を覚ます。目に映るのは、所々剥がれかけたシンプルなアイボリーの壁紙と真っ白な天井にぶら下がったブリキのカバーの小さなライト。
「チャーリー? スタイルズ先生とのカウンセリングの時間になるわよ? そろそろ起き上がっても良いんじゃない?」
ベッドから上半身を起こし、声の方に顔を向けると、看護師が笑いながら再び部屋の扉を閉めた。
小窓
「鳥かごのハイディ」第四話
Twins(3)
わたしとアガサは部屋を出て、無機質で無表情な廊下を進んでいく。廊下の壁に備え付けられてる窓から入り込む陽の光が、一層この白い廊下を眩しく感じさせる。
一本道の廊下を進んだ先には広い談話室があった。施設のプログラムを受けてる色々な変わり者たちが羽を休める憩いの場所。くだらないニュース番組をしかめっ面で見てる人もいれば、相手もいないチェス盤を睨みつけてる人。絵を描いてる人もいれ
「鳥かごのハイディ」第五話
Twins(4)
「素敵なお母さんだったんだね。君も、もう一人の双子も、お父さんよりも、お母さんの方が好きだったかい?」
スタイルズ先生の静かに響く声に再び瞼を上げたわたしは、薄暗い部屋の天井を眺めながらつぶやいた。
「パパは、わたしと同じで不器用なだけ」
パパは口数も少なくて、ママみたいに冗談を言って、無邪気に舌を出して笑ったりはしない。ただ、楽しくはしゃぎ回ってるわたしたちを半歩離れた
「鳥かごのハイディ」第十二話
Smoke
(3)
翌日の空は薄暗く、ずっと曇天模様で、小窓の先にある外の光りからは完全に遮断されていた。
どのみち、この狭い箱にある小さな窓からじゃ大した景色なんて見えないけれど、光りの差し込む量が違うだけで、この鳥かごは独房のように重苦しく感じる。
いつもの看護師チェックの後に、毎日気分の落差を感じさせないアガサが大きな声でこう言うの。
「ハイディー! チャーリー」
彼女はいつも元
「鳥かごのハイディ」第十五話
第四章Border
(1)
ゆっくりと昇っていくエレベーターの速度が、いつもよりも遅く感じる。エレベーター内にあったボタンはすべて押したけれど、行き先はいったいどこなのか? すべては運任せ。
きっと神様が願いを聞き入れてくれるのなら、開いた扉の先には、外の世界に繋がる輝かしい出口が見えるはずよ。
ガタンッ!
……古臭いエレベーターが、故障したように突然止まるのはいつものこと。どこかの
「鳥かごのハイディ」第十六話
Border
(2)
「チェック!」
扉が開く音と共に、看護師長のクレアの声が聞こえた。目を覚ましたわたしは、いまだにこの狭い鳥かごの中にいることを知り、大きなため息をつく。
いつの間にか真っ暗になっているこの部屋と、窓の向こう。すぐ傍には椅子に腰掛けたままで眠るアガサの姿があった。
「クレア……、今は何時なの?」
ベッドから訊ねると、クレアは腕時計の文字盤をペンライトで照らし、「午前二