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【短編】『隠れんぼ』

隠れんぼ


 僕は、家の近くの森で友人のティムと隠れんぼをしていた。森には、今にも倒れそうな古い小屋や、中が空洞になった大きな木の幹、すぐ近くには湖のそばにたくさんのボートが停まっているマリーナなど、あらゆるところが彼らの隠れ場所となった。夕方になって、そろそろ家へ戻らないと母親に叱れられると思い、ティムの名前を何度も呼んだ。しかし、いくら経ってもティムは顔を出さないのである。小屋か木の幹の中か、あるいはボートの裏側に隠れているだろうと見つけに行くも、ティムの姿はなかった。ティムはもう遅い時間のため僕を置いて家へ帰ってしまったのだと、ティムに対して少し嫌悪感を抱いた。

 家へ帰ると、母親が玄関で待っていた。

「あんた、何時だと思ってるの?」

「ごめんなさい。」

「門限をもっと早めたほうがいいかしら?」

「いいえ。もう遅刻しません。お母さんごめんなさい。」

と下を向いてあたかも反省した様子を見せると、母親はため息をついた。

「さあ、中へお入り。手を洗ってすぐ食事にするわよ。」

「はい。」
と僕は勢いよく洗面所へと走った。

 翌朝、朝食を済ませてから、一目散にティムの家へと向かった。ティムはいつも僕と仲良くしてくれてとてもいい奴だが、ふと昨日の出来事が頭をよぎり僕の足を止めた。どうしてティムは僕を置いて家へ帰ってしまったのだろうか。あの時は僕が鬼だったから、帰りたければすぐに僕を見つけることはできたはずだ。とあの時ティムがとった行動のわけを深く考えていると、一つ大事なことを思い出したのだ。僕たちは隠れんぼをする際、お互いにルールを作った。一つは、1分数えたら鬼は探し始めて良いということ。もう一つは、鬼が子を探している間は、その子の名前を口に出しながら探すこと。最後に、見つけられた側は、すぐに鬼役になって一分数え始めること。僕としては、このルールはお互いめいっぱい楽しむ上でとても優れたルールだと思い込んでいたが、一つだけ忘れていたことがあったのだ。それは、制限時間を設けることだった。昨日、夕方になったからと僕は仕切りにティムの名前を連呼したものの、応答がなかったのはそのルールのせいだったのだ。そして、その瞬間僕は悟った。僕がティムを置いていってしまったんだと。僕は嫌な予感がしながらもティムの家へと急いだ。ティムの家は歩いて10分くらいのところにあったため、走って7分弱でたどり着いた。

 玄関のベルを鳴らすと、ティムの母親が出てきた。

「おはようございます。」

「あら、おはよう。」

「ティ、ティムは家にいますか?」

「ええ、いるわよ。どうしたの、そんなに息を立てて。」

僕の悪い予感が的中しなかったことに深く安堵した。

「ちょっとティムに用があるんですが、話してもいいですか?」

「もちろんよ。中へお上がり。」

とティムの母親が快く家の中へと案内してくれた。ティムの家はお金持ちだった。家は3階建てで、裏には噴水のある大きな庭がある。家の中はあらゆる骨董品や絵画が飾ってあり、ホテルのようだった。僕は、ティムと遊ぶときには集合場所を別のところにしていたため、数回しか家に入ったことがなかったが、毎度のこと家の広さ豪華さに魅了された。ティムは、奥の自分の寝室で本を読んでいた。僕は、どのように挨拶すれば良いかと悩んだが、もうすでにティムの部屋に入っていた。

「おはよう、ティム。」

「おはよう。」

「その、昨日はごめんよ。」

「なにがだい?」

「いや、その、昨日僕は君を置いて家へ帰ってしまっただろ?」

「ああ、そのことか。別にいいさ!単に君がまだ探してる最中だと勘違いしたんだ。」

「そうなんだ!僕は君の名前を呼び続けたけど、そもそもそういうルールだったんだ。ほんとうにごめんよ。」

「いいよいいよ、むしろ途中で名前が呼ばれなくなったから、君がいないことに気づいて放置されずに済んだよ。」

「そうか。なかなかいいルールだったのか。」

「ああ、なかなかいいルールだった。それより君に話したいことがあるんだ。」

「なんだい。」

「実は昨日隠れている時に不思議なものを見つけたんだ。」

「そうだ。君はあの時どこに隠れてたんだ?」

「ああ、大きい木の幹の場所はわかるかい?」

「わかるよ。」

「そのすぐ隣にある大きな木の上に隠れていたんだ。」

「ティム、君木に登れるのかい?」

「初めてだったけどなんとか登れたよ。結構楽しかった。」

「すごい、すごいよ!僕にも教えてくれ。」

「いいよ。」

「それで不思議なものって一体なんなんだい?」

「ああ、木の上に小さな変な物体があったんだ。うねうねとゆっくり動いていて芋虫のようにも見えたんだが、芋虫にしては大きすぎるんだ。僕の掌に収まるぐらいの大きさで、カラフルな色をしていたよ。」

「そんな虫、図鑑でも見たことないな。」

「そうなんだ。生き物のようで、どこか生き物でないような不思議な物体だったんだ。」

「その物体、まだ木の上にいるかな。」

「さあ、わからないな。行って確かめてみるか?」

「うん、そうしよう!でもその前に木の登り方を教えてくれない?」

「ああ、そうだったな。」


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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