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脳みそジャーニー【14】 抗がん剤治療開始。治療であるはずの薬に、本気で殺されると思った日々

術後数日が経ち、おおよその退院日が決定したところで、初めて友人たちに乳がんを患ったことをメールで伝えたところ、想像以上の大わらわになりました。
直後に電話をくれ声を震わせていた友人、高額な見舞金を渡してきた友人、後日遠くから新幹線に乗って会いに来てくれた友人。
そのどれもが、温かく有難いものでした。

皆に心配されている私。
選んで話される、優しい言葉の数々。
思いやり、心配の声。
少し前まで、私だってそちら側の世界を生きていたはずなのになぁ……。
健康な立場から、「誰かを心配する側」だったのになぁ。
違う世界にきてしまったみたい……。

友人たちに励まされると同時に、なぜ自分は「励まされる立場」になっているのだと、卑屈な感情がじわじわと湧いてくるのでした。


そして、手術から約一か月。
週に一度の抗がん剤治療がいよいよ始まると、週を追うごとに体調が悪化していきました。だるさや倦怠感から始まって、手や足の指先が痺れ始め、唇や口がよく切れるようになりました。

いつもつけているコンタクトレンズは、異物感でいっぱい。どうやら眼球が痛いのだと気づいて、コンタクトレンズを外して眼鏡に変えても、今度はツルの部分があたる鼻や耳の上が痛く感じます。

粘膜が弱っているのか、熱いうどんをすすっていると、鼻血がつーっと垂れてきました。夫に指摘され、慌ててティッシュで拭います。

外出するにも、去年来ていたコートが重たく感じて着られず、ユニクロの軽量ダウンジャケット一択で外を歩きました。決定的に不調になって起き上がれないというわけではなく、ずっと体中が不調、不快であるという状態が続きました。

抗がん剤が始まるとき、副作用対策として、痛み止めや痺れを緩和する薬など、7種ほどの薬を処方してもらっていました。しかしその薬を服用することによって、新たな副作用が生まれ、体調がより悪化、さらにその不調を治すために、新たな薬……。無限ループのような状況に、どの薬を飲むことにも、全身が拒絶するようになりました。

負のスパイラル


(だから抗がん剤なんか、やるだけバカを見るんだよ……抗がん剤に殺される……)
自分でやると決めた抗がん剤治療。
しかし週を追うごとに、きつい現実に直面し、私の被害者意識は膨らみ続けました。

(もう無理! 来週の抗がん剤は絶対無理! この苦しみは、どんなに言葉を尽くそうとも誰にも分からない……クソ……この不快なカラダから、どうやったら逃れられるんだ……生きている限り、このカラダから逃れる術はないってか……マジか……こんな理不尽、あってたまるか……)

 

そして少し前から、頭皮がチクチクしはじめ、脱毛が始まっていました。
抜け毛処理に煩わされぬよう、できる限り髪を短くしていましたが、シャンプーをしたが最後、指の間から抜ける髪を、用意しておいたビニール袋に入れても入れても、永遠に終われません。シャワーを流せば体中にべたべたと髪が張りつき、また頭皮を揉めば、エンドレスで脱毛。

(シャンプーを終わりにできない……どうやって終わらせたらいいんだ……まだまだ抜け続けるけど、やめ時が分からない……なんじゃこりゃ……)

ビニール袋には、信じられない量の髪が、束になって溜まってゆきます。

(……ったく……美容院じゃあるまいし……なんなのこの量は)

シャワーを浴びては抜け、浴びては抜け……何度も同じことを繰り返すうちに、次第にみじめな気持ちになってきて、気づけば風呂場ですすり泣いていました。

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