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マルクス、 エンゲルス 『共産党宣言』 : 共産党が なぜ「(科学的)社会主義」を掲げるのか、 あなたは理解してる?

書評:マルクス、エンゲルス『共産党宣言』(岩波文庫・光文社新訳文庫)

私のような資本主義の申し子みたいな人間にとって、マルクスというのは、是非とも読んでおかなければならない「特別な思想家」だという意識があって、どうせ読むんなら、やはり主著たる『資本論』から読まねばならないと考えていた。しかし、私は数字が苦手なので、「経済学」の本だと言われれば、もうそれだけで「退屈そうだ」と思えてしまうし、その上に文庫本で9冊ともなると、なかなか手を出しづらい。
長い作品といえば、「聖書」も読んだし『失われた時を求めて』も読んだから、それなりに覚悟を決めれば読めない長さではないのだが、理論書であり、しかも「経済学」だと言われると、どうしても臆してしまって手が出なかったのである。

そんなわけで今回、他の本を読んでいて『共産党宣言』の話が出てきたので、これは1巻本のようだから、これを読んでみようと思い立った。
厚い本ではなさそうだし、何よりタイトルのとおり、共産党の基本的な考えを宣言したものなのだから、手始めには良いだろうと考えたのだが、これは正解だった。

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これまで、マルクス主義の考え方というのは、いろんなところで断片的に聞いてきたけれども、全体像というのが、いまいち理解できていなかったというのが、本書を読んで、よくわかった。
むろん、この薄い本1冊でわかったつもりになるのは愚かなことなのだろうが、理解のための「おおよその見取り図」が与えられたのは、ありがたかった。
「空想から科学へ、というのは、こういうことだったのか」と知らされ、それまでは「マルクス主義って、共産主義のはずなのに、どうして科学的社会主義って言うんだろう?」なんて思っていたのが「マルクス主義における、社会主義と共産党との関係はこういうことだったのか」と、やっと理解できたのである。

まったくの「ど素人」ぶりは明らかなのだが、しかし基本的には「世間の人」たちが、こんな私以下であるというのも間違いのない事実だろう。なにしろ、知ったかぶりでマルクスを語ったところで、マルクスやエンゲルスの本を読もうなどとは思わないのが「世間の人」たちだからである。

そして、そうした意味では、この『共産党宣言』はコンパクトで、マルクス主義に対する誤解を解くためには、とても良い本だと思う。

だが、その上で、ソビエト共産主義が失敗した事実を踏まえての、『共産党宣言』の弱点を捕捉する解説をつければ、もっと良かったのではないだろうか。『共産党宣言』の時点におけるマルクスとエンゲルスの考え方は、「人間」というものについて、まだまだ「空想」的だった部分(甘さ)があり、そこが致命的な弱点となってしまったのだけれども、それで全否定されねばならないような主張ではないということを、もっと広く平易にうったえるべきではないか。

ソビエト共産主義の暗黒社会をさんざ耳にしてきた私たち、日本人だけではなく、世界の多くの人たちが、マルクス主義というものに「非人間的統制主義」という、抜きがたい悪印象を持ってしまっている。
しかし、そうした「印象」を与えてしまうほどのものが、どうして必要だったのかということを、私たちの「今」に即して、アクチュアルに解説すべきではないだろうか。
時代的に(時代の制約として)、先読みの不十分だったところはあって、その点に反省修正が必要ではあるにせよ、そうすれば、まだまだ『共産党宣言』は、アクチュアリティーを持って私たちをうながす書物なのだと思うのだが、読んだみなさんのご意見は、いかがであろうか?

初出:2020年12月24日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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