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月と私とゆれるカーテン

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月が満ち欠けするように、ゆらいで詩と自然と生きる日々を綴ります。
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2021年5月の記事一覧

越谷オサム『四角い光の連なりが』を読んで

越谷オサム『四角い光の連なりが』を読んで

電車って、不思議ですよね。

自分の大切な記憶に一番実感を持って接することのできる交通機関というか……。

例えば実家に帰るときの新幹線であったり、通勤電車だったり、通学電車であったり。

コロナ前はもっと普通に乗れていた、誰もが乗ったことのあるという不思議な交通機関です。

わけあって、電車に乗る。誰かに会いに行く。どこかへ行く。

その「わけ」は人生と密接に切り離すことのできないものと考えてい

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川上未映子・村上春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読んで

川上未映子・村上春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読んで

川上未映子さんと村上春樹さん。

私、結構相対する二人じゃないかなと思っていたけど、全然!

川上未映子さんの鋭い切り口の質問に、飄々と答えていく春樹さん。最近私、よく思うんですけど、物語とか詩とかの本質的なところって、「余白」とか「デザイン」っていう要素が多いように思うんですよ。

私自身詩を書いてきて、「ああこれ書きすぎたな」って思ったらどんどん削る。それを見事に言い当てているのが、「一流のパ

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【月評に載りました!】『現代詩手帖6月号』にて、拙著を評していただきました。

【月評に載りました!】『現代詩手帖6月号』にて、拙著を評していただきました。

こんにちは、長尾です。

現代詩手帖6月号の詩書月評に、拙著インカレポエトリ叢書Ⅷ『聖者の行進』が、松尾真由美さんの評で載りました。

若々しく素直な表象が好ましく感じられた。腕を真っ直ぐに伸ばすような詩的想像は己の身体性と同値……(以下筆者略)

といううれしいご意見でした。

私自身、なるべくむつかしくないことばで編みたかったというのもあり、私の性格として「素直」と評していただいたのは本当にう

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川口晴美『EXIT.』を読んで

川口晴美『EXIT.』を読んで

川口さんとは長い付き合いで、彼女の詩に憧れて書いていたころもありました。ちょうど大学生くらいの時かな。

イベントでも何度もお会いして、今会えなくてさびしいです……。この状況がおさまってくれるといいのだけど。

川口さんのこの詩集の詩は、肉感的で、少女の語り手がたくさん出てくるのが特徴です。

どことなく性的なものを感じる表現だったり、書いて消し、書いて消しを繰り返していたり、視覚的に実験のような

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朝吹亮二『opus』を読んで

朝吹亮二『opus』を読んで

いやあ……最近詩集を読む機会が多くて、大恩人の詩集ばかり取り上げているのですが、今回は朝吹さん! 結構ハードルが高くて、書くのに四日くらいかかってしまいました。

この詩集は00~99までの100の詩にナンバリングをした実験的な詩集です。すごく改行の多い詩もあれば、一行だけの詩もあったり、/で改行の代わりにしたりと、とても刺激的でした。

そしてこの詩集で何回も出てくるのが「名前」と「抹消」。

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【連作短編シリーズ】スーパースター 最終話

【連作短編シリーズ】スーパースター 最終話

第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 

「茉莉江。トマト、食うか?」
 考えているとお父さんにそう言われた。そういえば、朝から何も食べていなかった。ぐうっとお腹が鳴る。
「茉莉江みたいにつるつるのやつ、選んできたぞ」
「……うん、ありがとう」
 なんだ、つるつるのやつって。丸刈りにしたのはあなたの妻ですよ。でもトマトは美味しそうで、夏の太陽を浴びて本当につるつるでつやつやと光っていた。
 

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【連作短編シリーズ】スーパースター 第五話

【連作短編シリーズ】スーパースター 第五話

第一話 第二話 第三話 第四話 

お父さんの畑の緑のなかに、トマトが鈴なりになってきている。こういうのは畑のいい所だなと思う。トマトを収穫しているお父さんをしり目に、わたしは「なんでだろうメモ」にスケッチをしていた。
「茉莉江は俺に似たのかな」
 と、唐突にお父さんが切り出す。丸坊主になった娘のこと、気がついてないのかな。もう、どうでもいいけど。どうでもいい。親のことなんて。とにかくわたしは強い

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【連作短編シリーズ】スーパースター 第四話

【連作短編シリーズ】スーパースター 第四話

第一話 第二話 第三話

お父さんの畑の中をどんどん進んで行く。日差しはまぶしくて、やっぱり夏だ。他の子は海とか山とか行っているらしいけど、正直わたしはそういうものにすごく興味がありながら、興味がなさそうにしているのでせいいっぱいだった。茉莉江ちゃんはクールビューティ―って、自分でもわかっている。男の子なんてみんな馬鹿だし、女の子もうざったい。わたしが戦わなきゃいけないのはこの夏にある全国一律テス

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【連作短編シリーズ】スーパースター 第三話

【連作短編シリーズ】スーパースター 第三話

 第一話 第二話

人のようなひまわりの行進を見ながら、車は走る。お父さんも昨日のことがあったからか、どことなくしゅんとしている。お父さんにケーキをぶつけられたのはわたしだし、そのせいでお母さんの病気が悪化して、丸坊主になったのもわたしだ。わたしはもっと怒ってもいいはずだけど、お母さんにもお父さんにも、怒られるのが怖かった。他人に怒られて泣かれるのが何よりの恐怖だった。
 保留にしておいていい問

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【連作短編シリーズ】スーパースター 第二話

【連作短編シリーズ】スーパースター 第二話

 第一話

 お父さんが運転する車の助手席で、昨日の夜のことを思い出す。アスファルトにはまぶしい光が差していて、黄色くまっすぐにのびたひまわりが交差点に待つ人のように立っていた。雲はもくもくもくとどんどん大きくて、わたしが小さな頃好きだった映画によく出てきそうな青空だった。びゅんびゅんとその光景から、昨日の夕方のリビングにわたしの頭の中の風景は変わっていく。

「わたしは奴隷だっていうの!」
 お

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連作短編シリーズを発表し始めました。

短編はnoteに発表しないって言ってたやんけー!やんけー!

……と私自身思っていたし、そう思っていた皆さま、すみません。今回初の試みなので、今反応をどきどきしながら待っています。

ちょっと先週の半ば、実家の家族とケンカしてしまって……結構ショックだったし、不安定になりそうな心をどう保っていいかわからなかったんですよね。

だからこそ、短編小説を書きました。「スーパースター」は夫にも読んでもらっ

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【連作短編シリーズ】スーパースター 第一話

【連作短編シリーズ】スーパースター 第一話

 見上げると、空がまぶしかった。半袖のパジャマは少し汗ばんでいて、わたしは夏休みの宿題を終えた達成感で眠り、朝が来ていた。
「うーん」
 天井窓から早朝の光が差し込む。ご飯はお母さんが作ってくれるはず、だったのに、今日はお母さんが寝坊するみたいだ。小学校の科目は簡単だったけれど、わたしには友達があまりいなかったし、何をしても退屈だったから、そういう日は図書館の本を読んでいた。
「おお、また勉強か、

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小池昌代『幼年 水の町』を読んで

小池昌代『幼年 水の町』を読んで

小学生だった頃。小池さんも大変な思いをされたそうで、彼女の詩の原点がこのエッセイの中に多分に含まれていました。

怒りは、創作のガソリン。私は少なからずともそう思っています。

小池さんの怒りは私が小学生の時に持っていた怒りとなんだかそのまま合致するような気がしていたし、小学校時代からの抑圧のようなものが防げず、今に至って詩を書いているような気がしてならなかったです。

このエッセイ、最初の方を読

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瀬尾育生『アンユナイテッド・ネイションズ』を読んで

瀬尾育生『アンユナイテッド・ネイションズ』を読んで

動いている、詩が時間と共に動いている。

稼働する詩、現在を描く詩は、断片となって何度も書き直されていきます。その時の「普遍」はそうでなかったりもする。常に「事象」というのはアップデートされていくものだと。

この詩集では主に国際問題・国家の問題・社会問題がある種隠喩的に使われています。

時には文体として、時には視覚的に、時には聴覚的に表されるそれは、まさに「動く詩」。最初に「書き直される」とあ

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