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展覧会レポ:渋谷区立松濤美術館「杉本博司 本歌取り 東下り」

【約3,400文字、写真約40枚】
渋谷の松濤美術館で行われている「杉本博司 本歌取り 東下り」に行きました。その感想を書きます。

結論から言うと、
❶杉本博司の考えや「本歌取り」の理解が進んだ、❷色んなジャンルの作品があるため見応えあった、❸いつ行っても松濤美術館の建築は格好いい、❹鑑賞する側に立ったキュレーションの工夫がもう少しほしい。

展覧会名:杉本博司 本歌取り 東下り
場所:渋谷区立松濤美術館
おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★★★☆☆
ベビーカー:ー
会期:2023年9月16日(土)~2023年11月12日(日)
休館日:月曜日
住所:東京都渋谷区松濤2丁目14−14
アクセス:渋谷駅から徒歩約10分
入場料(一般):1,000円
事前予約:不要
展覧所要時間:約1時間
混み具合:ちょい混み
展覧撮影:全て撮影可能
URL:https://shoto-museum.jp/exhibitions/201sugimoto/ 


▶︎訪問のきっかけ

展覧会の看板
松濤美術館の入り口。住宅街に突如美術館

今年、杉本博司の展覧会などに何度か足を運んだ際、彼の表現の幅の広さに驚きました。幅の広さゆえ、彼のメッセージや本質は何なのか理解しづらかったです。そのため、もう少し彼を理解したく、この展覧会に来ました。

▶︎「杉本博司 本歌取り 東下り」

チケット
地下1回会場、入り口
全て撮影可能

そもそも「本歌取りほんかどり」とは何なのか?

杉本博司(1948~)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し(略)作品を集結させました。本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。(略)西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。

公式サイトより

つまり「本歌取り」はオマージュだと理解しました。杉本博司はそれを「援用」と表現し、「日本文化の本質的な営み」と言います。その意味だと「本歌取り」は、森村泰昌、福田美蘭などにも通じるのでしょうか。

《古作面 児屋根命》:南北朝時代

展覧会全体を通して、杉本博司のことが少し理解できた気がしました。キャプションにチラッと書いてあった言葉が私にとって重要でした。

"人類の意識の起源を探ること。そして、古代の人々の記憶をたどり、それらを現代に生きる人々に提示することは、アーティストとしての杉本が向き合い続けるテーマである"

石鏃近くにあったキャプション

上記の考えは、杉本博司の作品全てにつながると思いました。

《相模湾、江之浦》

私の中で杉本博司といえば「海景」シリーズ。これは「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのか」という問いから生まれた作品だそうです。今までは何となく「幽玄な作品だなぁ」と感じていましたが、背景を理解すると、納得感がありました。

《杉本文楽 曾根崎心中 付り観音廻り ヨーロッパ公演》、《Noh Climax 翁 神 男 女 狂 鬼》

約8分の動画で、ローマで行われた文楽(操人形浄瑠璃の芝居)や、姫路城で行われた能楽(仮面をつけて演じる歌舞劇)が映されていました。

私が今、偶然にも読んでいた本の中に、

日本人は形あるものは壊すが、無形のものは継承する。(略)日本人は自分の良さは自分にしか分からないと思っているが、他の文化はどんどん取り入れる。

『オペラと歌舞伎』(永竹 由幸) p198−199

とありました。まさに「本歌取り」の考えをもつ杉本博司が、文楽や能楽を企画することはぴったりです。昔のままを継承しながら、一部を現代にアレンジすることに挑戦する杉本博司の性癖がよく分かりました。

『本歌取り』

日本文化の伝統とは、旧世代の時代精神を本歌取りして、そこに新たな感性を加味しながら育まれていったのだと思う。(略)私はこの本歌取りの精神を意識し、かつ拡大解釈して、日本文化、いや世界の文化からも本歌を探し、かつその精神を換骨奪胎して作品に仕立てたいと考えた。思えば本歌取りの精神を持つ西洋のアーティストが 一人いた。それは「レディメイド」の創始者、わが敬愛するマルセル・デュシャンである。

『本歌取り』より

展示室内に杉本博司が、自身の作品の解説を載せた『本歌取り』が置いてありました。作者自身の言葉は、学芸員やライターの方が書いた文章よりも心に響き、腑に落ちます。とても丁寧に長い文章が綴られているため、この本を隅から隅まで読めば、展覧会に行く以上に杉本博司のことが理解できると思いました。千住博のように、新書も多く執筆してくれると嬉しいです。

キャプションを読んだり、過去の作品を思い返しながら展示品を見ていると、杉本博司の本質のようなものが少し理解できた気がしました。

《狩野永德筆 安土城屏風 想像屏風風姫路城図》

一方で、作品1つ1つから気付きはありましたが、展覧会全体を通して「何を伝えたいのか、何をもって帰ってほしいのか」が曖昧だと感じました。

「杉本博司はどういう考えをもっているのか?」「そもそも"本歌取り"とは何なのか?」キャプションの中にしれっと書くのではなく、展示室入り口や室内で、もっと分かりやすく端的に伝える工夫がが必要だと思いました。

10月1日、渋谷区在住の方は無料

私が行った日、偶然、渋谷区民は入館無料でした。そのためか、館内に人が多いことに驚きました。普段より親子や外国人の方が多かった気がします。


以下、そのほかに撮影した作品など。

地下1階、展示室内の風景
《富士山図屏風》
山際は、筆で書いた絵なのか、写真なのか判然としない。雄大な自然を感じます
《春日大社藤棚図屏風》:今年、奈良の春日大社で見て以来、再会。暗い部屋にある方が馴染む
《歴史の歴史東西習合図》
左から垂迹諸尊名、ヨシフ・スターリン、シャルル・ド・ゴール、 ダグラス・マッカーサー、 オットー・フォン・ビスマルク、チャールズ・ダーウィン、カール・マルクス、ニコライ二世、 レオン・トロツキー、ウィンストン・チャーチル、マルセル・デュシャン(すごくシュール…
2階、展示室内の風景
《Time Exposed: アドリア海、 ガルガーノ》:作品を野外にほったらかしにした作品
石鏃せきぞくなど。色とりどりでキレイ
《Brush Impression いろは歌》:一見して何か分からなかったが、よく見たらイロハ歌
アップで見るとすごい圧を感じる
《数理模型 025 クエン曲面: 負の定曲率曲面》:ブランクーシみたいな作品
《Brush Impression 0905 「月」》《Brush Impression 0906 「水」》
印画紙に現像液または定着液に浸した筆で文字を書いた作品
《叫ぶ女》繩文時代中期(紀元前3,000-紀元前2,000年) 土偶:すごい叫んでる
大田南畝(蜀山人)《十一牛図 円相素麺のゆでかげん》:円相を素麺で表現。緩い
展示室内の風景
《宙景 001》:「海景」がスケールアップして宇宙へ。掛け軸に地球の写真は斬新
《楔形文字》シュメール朝時代 (5,000~4,000年前):最初、最中と思った
《「Myologie 完全版』 より頭部》他

▶︎まとめ

《カリフォルニア・コンドル》:コンドルは置物。水墨画から着想を得たという作品

いかがだったでしょうか?杉本博司の「本歌取り」した作品を初めて見ることができました。今まで彼の考えを深く慮ったことはありませんでした。今回の展覧会で、その一端を理解することができました。また、作品のジャンルが多岐に渡るため、見応えもありました。なお、作品1つ1つは良かったものの、展覧会全体を通したメッセージをもっと端的に表現する工夫、観覧者に伝える工夫があった方が良いと思いました。

▶︎松濤美術館の風景

毎回、松濤美術館に来るたびに館内の写真をつい撮ってしまいます。美術館側が「建築ツアーイベント」を企画するほど、建築は人気があるようです。

▶︎今日の美術館飯

星乃珈琲店 渋谷桜丘店 (東京都/渋谷駅) - モーニング珈琲 サラダ&パンケーキ (¥730)
MOJA in the HOUSE (東京都/渋谷駅) - Brunch 豚角煮とろろライスボウル (¥1,320)


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