マガジンのカバー画像

書評

22
仏露文学メイン。
運営しているクリエイター

#精神医学

社会のきまり【木村敏「異常の構造」書評】

社会のきまり【木村敏「異常の構造」書評】

戦後、日本における精神医学界の筆頭といえば、中井久夫と木村敏ではなかろうか。先日中井久夫さんが亡くなり、なんと木村敏さんがその一年前に亡くなっていたことを知った。

10年ほど前になるだろうか、はじめて読んだ統合失調症に関する学術書の著者が木村敏だった。少し昔に書かれたもので「分裂病」という言い方をしていた。

数年ぶりに木村敏を読んだ。彼の、世界を見る目がわたしは好きだ。それは精神医学にとどまら

もっとみる
レインとカフカとシェイクスピア【引き裂かれた自己(R.D.Laing)から見るカフカの魅力】

レインとカフカとシェイクスピア【引き裂かれた自己(R.D.Laing)から見るカフカの魅力】

レインの『狂気の現象学』の改訳版である、『引き裂かれた自己』天野衛訳を読んでいて目にとまった箇所があったので紹介させてほしい。

ロナルド・ディヴィッド・レインは20世紀イギリスの精神科医。
狂気を了解可能なものとして認識する論文を数々発表。統合失調症をメインに、" 人が狂気を作りだし、しかし人との関係が患者を治療する" いう寛解モデルを実際の臨床を通して世間に伝えた。

レインの研究はざっくり言

もっとみる
津軽散文【太宰治『津軽』引用】

津軽散文【太宰治『津軽』引用】

太宰が好きだ。
彼の文章を読んでいると、その孤独と繊細さがありありと伝わってきて、くるしい。
まるでわたしじゃないか。
人を訪ねて、誰かの機嫌がわるいと、いつも自分のせいかと思う、と何度も書いている。

最近、再編された彼の私小説をいくつか連続して読んだ。
『思い出』『冨嶽百景』『帰去来』『故郷』と『津軽』

孤独な人だと思う。

幼少期の環境か、もともとの性格かは今となっては分からぬが、彼は彼と

もっとみる