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八潮七瀬
2017年5月4日 10:19
お母さん、ママ、おふくろ。世の中に、親の呼称は数あれど、私はその中のどの言葉も用いない。私と親の関係をいぶかる人は絶えない。私の高校の担任は、私と母親のやりとりを見て「変な親子」と愉快そうに笑った。私の高校のPTA役員だった母親は、その際立った容姿と仕事の速さで一躍有名人だった。同級生も先輩も、そして先生までもが私に倣い、私の母のことを「七瀬ちゃんのお母さん」ではなく、母の名前
2017年5月4日 09:42
スイミーという絵本を知っているだろうか。小魚が、大きな魚に食べられないように知恵を絞り、集団になり大きな魚のふりをして対抗する話だ。幼稚園の頃にその本を読んだ私は、スイミーのように知恵を持った者は、それを人のために使うべきなのだと学んだ。 小学生にあがると、集団行動が増える。集団登校に集団下校。給食の時間も一緒ならばトイレに行くのも何故か一緒だったりする。給食は残さずに食
2017年5月30日 21:13
「君は女性的な感性を持っているけれど、思考回路は非常に男性に近いね」机を挟んで向かいに座る男性は、腕を組んで私をそう評した。男は勝手知ったる様子で椅子に深く腰掛け、こちらを見つめている。口元には笑みが浮かんでいた。その佇まいを前にして私は、まるで敏腕の獣医か、動物写真家のようだと感じた。浅黒い肌と少し白髪の混じり始めた髪を持つその男は、プロダクトデザイナーだった。サマーセーターに、イ
2017年5月29日 22:12
母と、演奏会を企画することにした。夕べ決まったことだった。母と私は銀座のレストランで向かい合ってワインを飲んでいた。 ふたりとも、ワインバーで食前酒を引っ掛けてからレストランに来たので、普段よりも饒舌だった。「最近気がついたんだけどさ、ハープと一緒に演奏会出来る環境って相当珍しいみたいなんだよ」「何を今更」ハーピストの母は、そういって微笑む。「私はお腹の中からハープの
2017年5月10日 18:09
その「女の子」は、開演時間の20分前になってもピットに姿を現さなかった。コンマスの男性が、私が手を振ったことに気がつき、譜面台の脇に立った。「あれ、隣の子、まだ来ていないの」と彼は尋ねた。「はい。泊まっているホテルに連絡して、部屋に電話もかけたのですが、それも繋がらなかったんです。私、彼女の連絡先知らなくて」彼は一瞬無表情になった後に、ステージの裏へ消えていった。ミュージカルのツアー
2017年5月9日 09:21
恋人がタイに出張に行ってから半年が経つ。現地のスタッフに技術を教えている彼は、事前研修を終えた後の電話で「タイでは怒鳴ることも暴力だから、絶対怒鳴ってはいけない」と言っていた。そんなことをしようものなら、警察沙汰になるそうだ。言葉の暴力に遭遇した時、あなたならどうするか。「抗議する」「録音して、拡散させる」では、自分自身ではなく、周りで言葉の暴力が振るわれていたら?止めることが