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いにしへの短編集

10
ホモ・サピエンスが誕生する以前の、いにしへの物語。10話完結。
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いにしへの短編集1《分かたれた大陸》

いにしへの短編集1《分かたれた大陸》

《分かたれた大陸》

 「ばぁが生まれるより、もっとずっと昔の話さね。今大陸はいくつあるね?」

 ばぁさまはにっこり微笑むと、子どもたちの顔をぐるりと見渡した。

 「そりゃ2つさ!」

 アカが身を乗り出して答えると、重ねるようにメセマが答える。

 「僕らが住んでいるのはローラ大陸だ。」

 私は、ばぁさまの年寄り特有の深い暗緑色の手をぎゅっと握ると、

 「もうひとつはドワナ大陸でしょ?」

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いにしへの短編集2《南の新境地》

いにしへの短編集2《南の新境地》

《南の新境地》

 ムトカは見渡す限り鬱蒼と繁茂するジャングルを塔の上から見渡すと、ほうっとため息をついた。

 「信じられないな。こんな短期間のうちに、見たこともない植物がワンサカ生えているじゃないか。」

 常駐の観察士が深く頷く。

 「日に数度、ほんの短い時間ですがものすごい雨が降るんです。」

 ムトカは低く唸ると観察士の肩をポンと叩き、礼を言ってエレベーターに乗り込んだ。

***

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いにしへの短編集3《北への探検》

いにしへの短編集3《北への探検》

《北への探検》

 「ということは、おじいさまはそのとき北には向かわなかったんだね? 」

 利発そうな2つの瞳が、ヨームンを覗き込んでくる。

 「ああ、そうだ。北は後回しだったのさ。南に良い地が見つからなければ、北を探索しただろうがね。幸いこの地が見つかった。」

 「ねぇねぇ、北に何があるのか、おじいさまは気にならない?」

 ハセの可愛らしい3本の指が、ヨームンの腕をグイグイと引っ張る。

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いにしへの短編集4《発掘された石碑》

いにしへの短編集4《発掘された石碑》

《発掘された石碑》

 翌朝、本部のルセから第二、第三隊が谷間に到着したとの連絡があった。第二隊は谷間で待機、第三隊は谷を西に探索すると言う。ハセとメノワはローカムに積んであった低空飛行艇ローリーに乗り、海を挟んで谷の東側にある、この海岸付近を探索することになった。
 ローリーに立ち、浮上ボタンを押す。スンッという音とともにローリーが浮き上がる。足元にあるアクセルを踏み込むと、2艇のローリーは勢い

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いにしへの短編集5《東の果ての地》

いにしへの短編集5《東の果ての地》

《東の果ての地》

 「″私たちは天とともにあり、地とともにあった。2つの都市は、天と地の循環のようにバランスを保つ。″
 これはあの石碑に書かれていた一節だ。科学という合理性を追求してきた僕らにとって、この一節を理解することはとても難しい。しかし、僕は今、科学ではわかり得ない現象や感覚というものが、この世にはあるのではないかと思い始めている。
 洞窟の入口を塞いでいた大きな石は、見るからに重たそ

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いにしへの短編集6《地球の波動》

いにしへの短編集6《地球の波動》

《地球の波動》

 その村は、すべてが石でできているように見えた。しかも、大きな一枚岩から成る建造物が多く目につく。ハセとメノワ、イマケは見慣れぬ光景に目を奪われながら、北の民に導かれるまま村を歩いていた。
 しばらくすると2本の石柱の上に巨大な石が載った、穴倉のような建造物が見えてきた。奥行きがあるようだが、中は薄暗く外からはよく見えない。
 北の民が、その入口に手を向けながら何かを言った。いに

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いにしへの短編集7《祭祀アワの語り》

いにしへの短編集7《祭祀アワの語り》

《祭祀アワの語り》

 「何億年も前から私たち北の民は祭祀を、あなた方南の民は科学を担い、魂の波動を互いに高め合いながらともに生きてきました。」

 祭祀アワの歌うような清らかな声は語り続ける。ハセ、メノワ、イマケ、そしてリアルタイムの通信を通じてこの語りを聞く南の民らは、その心地よい声に身を任せていた。

 「魂を持つ生物は、それまでずっと北の民と南の民のほかはいませんでした。しかし、地の下時代

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いにしへの短編集8《魂》

いにしへの短編集8《魂》

《魂》

 体を失った魂は、一千年ほど霊界で過ごしたのち再び体の内に入る。体の内にある魂は、その前の記憶を持たず過去を振り返らない。
 北の民らは、大陸がいくつもの海によって分かたれても波動の強い地に点在し、互いに船で行き来していた。 
 アワの魂は幾度も体を変え、今新たな体ミユとして体の内に在る。その体は魂が過ごしてきた過去の記憶を持たない。霊界の記憶も、一千年前の体の内で起きたことも、一億年前

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いにしへの短編集9《共同プロジェクト》

いにしへの短編集9《共同プロジェクト》

《共同プロジェクト》

 「わけがわからないわ。でも、ヨーアの魂が急増していることは事実よ。ヨーア自体は増えていないのに、一体どういうことかしら?」

 祭祀ミテの困惑に、北の民を束ねるツークはただ事ではないと、すぐさま南の民の統治者に連絡を取った。彼らは共同の調査団を立ち上げ、直ちに調査を開始した。

 「村が発見されたぞ。」

 ドアをノックするのも忘れ、ツークが部屋に入ってくる。本を読んでい

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いにしへの短編集10《目覚めよ》

いにしへの短編集10《目覚めよ》

《目覚めよ》

 大きな括りで人類を眺めたとき、ホモ・サピエンスはその最後尾にいる。この地球には、ホモ・サピエンスが誕生する前から人類が存在していたのだ。
 絶滅したラウケもタウタも人類だった。そして、今なお存続するヨーアも北の民も、ホモ・サピエンスが誕生する前に出現した人類のひとつだ。

 ヨーアの体は常に穏やかで、その内にある魂は体に支配されることがない。

 北の民の魂は、見えない波動を感知

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