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2023年詩

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2023年9月の記事一覧

159「詩」月が

159「詩」月が

おなじ月を見ている
おなじ月が見ている

正しかったことが
ある日突然
正しくなくなった世界

片隅に住む人たち

願いはなんだ

食べ物も寝る場所

あるのに
空っぽになった心

ある
物に満ちて住む人たち

願うのはなぜだ

おなじ月に願いを届ける
おなじ月が願いを届ける

地球を見ながら
月が願いを届ける
宝石のように輝く地球には
宝石のように輝く平和が
いちばん似合っているのだと

158「詩」言葉

158「詩」言葉

あなたのためです

たくさん聞いてきた言葉です
言われたことをやってみても
わたしのために
役立ったことはありません

あなたのためです

わたしのために言ってるのではなく
あなたが満足するために
言ってる言葉だったりします

あなたのため
言おうとしたその瞬間

心静かに
何度も自分に問います
ほんとうにあなたに必要な言葉かどうか

あなたにとって
重荷だけ与えてしまわないか
あなたにとって

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157「詩」花火

157「詩」花火

見上げて花火を見ている人の
心は
みんな
空っぽだ

空っぽにして
花火が伝えてくれるもので
いっぱいにする

※写真は許可をいただいて使わせていただいています。写真家さんの作品はこちらから。

156「詩」歩く

156「詩」歩く

歩く
一歩一歩
大地をつかみながら
ゆっくり
歩ける喜びを身体中に響かせながら
歩く

誰のせいでもない
誰も悪くない
神さまから与えられた病

できること全てをやった
できること全てを尽くしてもらった
感謝で心はいっぱいなのに
それでも
失ったものは確かにある

歩く
一歩一歩
夜明け前のいくぶん冷んやりした空気が
時間の流れを伝える
季節のない病室にいる間に
いくつかの季節が
変わっていたこと

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155「詩」一瞬の

155「詩」一瞬の

誰にも理解されない悲しみをそのまま
包んで空はその
大きな瞳に
ただ
ただ
静かに
涙を流してくれた

記憶の中に住んでいる小さな女の子は
言葉に出来ないまま大きな
悲しみを抱いた
まま
ただ
そっと
空を見上げる

ぐるりと回って
空を見る

雲の一瞬の画像が
果てしなく増える
見上げる人々の一瞬の
気持ちもまた
果てしなく増えている

一瞬の空の画像が
地上を包む
地上に住む誰かの
一瞬の気持

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154「詩」ミサ曲のために

すべての人は
わたしのもとに来なさい
休ませてあげよう

両手を広げたその人は
ありのままの人間をみていた

人種や身分などどうでもよかった
どんな宗教を信仰していてもよかった
身に纏ったものに囚われることなく
ただそのままの人を大切に思う
神さまの思いを大切にしていれば
それでよかった

自分に都合が良いように
垣根の作ってきたのは人間たちだ
国の選んだ宗教と違うから
受け入れてもらえない音楽だ

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153「詩」暗闇だった

153「詩」暗闇だった

——— 言葉の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いている。
暗闇は光を理解しなかった。———-
<ヨハネによる福音書1.4〜1.5新共同訳聖書から引用>

暗闇だった
八方塞がりで
進む道を手探りで見つけていた
足元がぼんやり見える
注意深く一歩一歩
擦り傷だらけの足を前に進める

壁に当たる
どんな硬さの壁なのか
暗闇の中ではわからない

引き返して
また違う方向に

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152「詩」地下通路の猫たち

152「詩」地下通路の猫たち

昼間は
地下道の猫の壁画です
じっと動きを止めて
ここを通る人々を
観察しています

ここを通る人々は
いつも前を向いて忙しそうに
足速に駅に向かいます
わたしたちが
まばたきをしても
人々が気づくことは
ありません

わたしたちの前を通り過ぎる人々を
注意深く
監察しているのです

わたしたちは
前を通り過ぎる人々の
どんな小さな悲しみにも
気づきます

どんなに笑っていても
どんなに嬉しそうに

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151「詩」ススキ

151「詩」ススキ

陽が沈んだ後に
光の筋が星のゆくえを教えている
まっすぐにのびた光のその先に
星に変わったタマシイたちが
またたいている

やりかけていたことが
終わらなかった
大好きな人たちに
何にもしてあげられなかった

地上でやり残したたくさんの思いが
せめて
せめて地上に届きますように

星に変わったタマシイたちの思いを
受け取るように
秋風が吹きはじめている

冬を迎える前に
彩り始めた秋風が
ススキの

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150「詩」託されたもの

150「詩」託されたもの

ハンブルクのお爺さまからいただいたの
この食器は100年以上経っているの
昔日本に帰国する日に
アンチェから手渡された

あなたの雰囲気によく合うから
私ではなく
あなたが持っているべきなの

幾重にも幾重にも過去で包装された
荷物を手に取る
過ぎてきた時間の分だけ
ずっしり重い

一枚一枚包まれた過去を取り除く
現れたのは
羽のように品のいい
金色だけで描かれた食器

お茶を注がれ
お爺さまから

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149「詩」秋の光の中で

149「詩」秋の光の中で

早朝親友からLineが届く
今日は98歳の伯父が召されてお葬式です

雲が波立ち
穏やかな引き潮になっている
雲の上には
地上を青く染めながら空が広がる
高く高く
空は天国にまで続いている

雲が波立つ音が
聞こえる
その下で
思い出されることのない悲しみが
口を閉ざしている

音の雫が
一滴
悲しみに
落ちる

思い出したくない悲しみたちは
雫にほんの少し溶けて
昇華していく

昇華して
雲の引

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148「詩」ヒラミさん

148「詩」ヒラミさん

ヒラミさんは
産まれて3ヶ月で私のところに来ました
オレンジ色の小さな猫だったので
ヒラミオレンジから名前を付けました

半年過ぎて
10キロちかくある
大きな猫になりました

ヒラミさんには未来も過去もありません
今という時間のなかで
精一杯遊び
精一杯食べて眠ります

ヒラミさんには悪意がありません
かといって善意もありません
お腹が空いたら食べる
眠くなったら眠る
遊びたくなったら遊びます

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147「詩」詰め込む

147「詩」詰め込む

気が滅入る朝
ろくでもない思い出ばかりが
次々に出てくる

ひとつひとつ摘み上げれるば
思い出したくないダメな自分が
ボロボロと溢れ落ちる

そんな時は
全部
不透明な袋に詰め込んで
ひとまとめにしてしまおう

朝日に透かして見れば
どうしてどうして
ろくでもない思い出だらけの袋だって
なかなかいい色してる

146「詩」秋祭り

146「詩」秋祭り

笛の音があたりの空気を引き裂き
この世からあの世へと
橋をかけて
秋の祭りは始まるのです

この世の人たちが
実った稲穂を
その土地に住む神さまに捧げ

あの世では
この世から移り住んだ人たちが
稲を育んだ人々をねぎらっています

太鼓の音が
あの世の人たちがちゃんと
生きているのを伝え

「ほら
みんなの鼓動が聞こえるでしょう」
あの世の人たちがこの世の人たちに
ささやく声であふれます

田畑が

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