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2023年詩

85
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85「詩」その先に

85「詩」その先に

真っ直ぐに延びた道のその先に
富士山が浮かんでいる

ありきたりの住宅街
荷造り紐のような電線が
見慣れた生活で梱包された家々を
結んでいる

昨日と変わりない時間に起き
昨日と変わりない朝食を整え
変わりない一日が始まる

昨日と変わりなく
真っ直ぐに延びた道を足早に歩き
仕事に向かう

来る日も来る日も
変わりない時間が過ぎてゆく

真っ直ぐに延びた道のその先には
変わりなく富士山が浮かんでい

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84「詩」これから

84「詩」これから

山肌に馬が見えたら種まきの季節
昔からの言い伝えだ
数日したら田おこしが始まる
赤茶けた田畑の下でじっと冬を耐えた
思いたちが目覚め始める

家路につく夕暮れ
ふと自転車を停める
私の影が
固い土を割って生えた雑草の上に
ふんわりと落ちる

やがて
ふさふさとした稲が
ひしめき合って日の光に
手を伸ばし始める
一枚一枚の葉先に光を集めて
稲たちは良いモノだけを身体に貯め
やがて黄金色の光に変えるだ

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83「詩」フラワームーン

83「詩」フラワームーン

あの日ひとかけらの勇気をもっていたら
この時間に違った自分が違う場所に
立っていたかもしれない

あの日ひとかけら素直さをもっていたら
この時間に見知らぬ誰かに
手紙を書いていたかもしれない

あの日ひとかけらの強さをもっていたら
今苦しんでいることと違った場所で
新しいことを始めていたかもしれない

あの時失くしたひとかけらが一輪の花になる

花は夜空を見上げる
違った場所にいたかもしれない自分

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82「詩」雨の月曜日

82「詩」雨の月曜日

雨の月曜日
心の中まで濡れてしまわないように
暖かな飲み物を注ごう

悪いことばかりでない
飲み物が冷めてしまわないように
良いことを見つけていこう

( 返詩 : 寺間風 )

濡れた前髪と
青葉の香りを引き連れて
君が帰ってくる

熱い紅茶とビスケット

雨に煙る窓辺から
虹の架かる空を見よう

*返詩をいただきました。
寺間風さまに感謝💓

81「詩」5月6日

81「詩」5月6日

今こうして生きているのは
お腹で育んで
産んでくれた人がいたから

今こうして生きているのは
オムツをかえ
お乳を与えてくれた人がいたから

毎日毎日同じことを
気が遠くなるくらいに
同じことを繰り返し

育んでくれた人がいたから

この子にとって良いものを与えたいと
たとえそれがその子にとって不必要なものだったとしても
信じて与え続けてきた人がいたから

出逢ってくれて
大切に思ってくれる
誰か

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80「詩」母たち

80「詩」母たち

街はなくなっていた
埃と瓦礫が果てしなく続いている
街には人々が住んでいる

街の人々の願いが届かないところで
安心な場所から
無意味な争いの指示は出されていく

汚れたほんの少しの水を飲み
冷たい瓦礫の中で
街の人々は身体を休める

なにもかも
なにもかも
破壊された世界の中で

母たちは私たちと寸分違わない心で
精一杯の愛情を
子どもたちに注いでいる

破壊されることのない
お母さんの心を

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79「詩」夕方の光景

79「詩」夕方の光景

#スキしてみて

重い荷物を背負って家路に着く

自分のためだけの見せかけの優しさや
人々の悪意が
心に突き刺さって
鈍い痛みになっていた

ふと
空を見上げる

オレンジ色に染まった雲が
今日1日の汚れたものを
弔っていく
清らかなものだけ残して
オレンジ色は小さな塊になっていく

もうじき満点の星が
何万光年離れたところから
輝きを届けはじめるだろう

はるかかなた
思い描くことさえできない遠

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78「詩」自分の部屋

78「詩」自分の部屋

薄暗い長い廊下を歩いている
いったい自分の部屋はどれだったろう

廊下の両脇にはたくさんの部屋が並んでいる
ひとつの部屋にひとり
違った夢を手のひらにのせている

手のひらにのせられた夢はいつか叶う
がんばれば叶う
と疑いもしなかった

がんばっても
がんばっても叶わないものの方が多いことに
ある日気付き始める

なにもかもどうでもよくなる

なにもかも捨て去ってしまいたくなる

なにもかも捨てて

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77「詩」詩を書く

77「詩」詩を書く

伝えたかった
こんなに素敵な気持ちを
独り占めするのが申し訳なくて

伝えたかった
立ち止まったまま動けない
重い気持ちを1人で背負うのが辛過ぎた
同じ気持ちを分け合えば
動き出せそうな気がした

今ガラスの破片のように
輝く一瞬のこの気持ち

伝えるには言葉しかなかった

ひとつひとつの言葉を
何度も何度も心の羽で暖めながら
文字にした

伝えたかった
でも
伝わらなくても仕方ないと思った

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76「詩」咲く

76「詩」咲く

少女の長い髪が南風になびくと
花たちが一斉に咲き始める
暗かった日々をねぎらいながら
花たちは陽射しの方向だけを見つめる

違う色
違う形
違う香り
花たちは比べることを知らない
ただそこに寄り添って咲いている

ひとつひとつの物語を
そっと胸に秘めて
何事も無かったように
黙って空に向かって咲いている

(写真 : O. Mikio)

75「詩」雨が降っている

75「詩」雨が降っている

絶え間なく雨の音が聞こえている
朝からずっと
雨は分け隔てなく降りしきり
辺りをぜんぶ
包んでいる

うすいラベンダー色の雲と
銀色の無数の雨粒が
街を繋いでいる

野原では
小さな動物たちがさらに小さな子どもたちを
育んでいる

雨粒は草花を潤し
葉っぱの上で宝石のように集まって
小さな動物たちの喉もまた潤している

灰色がかった薄紫色に染まった街は
静かに静かに
雨音と時計の音を響かせ
何事も

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74「詩」はるか上

74「詩」はるか上

私なんかダメな人間なんだ
遠い昔の私が呟く
自分を卑下するな
怒って投げ捨てるように言った人がいる

自分が嫌いで嫌いで
消えてなくなりたくなる
そんな時はきまって
あの人の叱る声が聞こえる

とてもたいせつだった人
たいせつ過ぎて友だちにしか
なれなかったあの人

重く大地を覆う雲のはるか上
碧く染まった光の中にいる
立ち尽くしたままの私のはるか上

73「詩」朝

73「詩」朝

人の悪意や強欲や妬みや嫉みや
汚れた人間から遠く離れた
別の世界で 
ひっそり生きていこう

朝焼けがこんなに美しく
別の世界へと
導く

1日はもう始まっている

72「詩」ヤマボウシ

72「詩」ヤマボウシ

ヤマボウシが空に向かって咲いている

人間から見えないところで
空にだけ向かって咲いている

冬の間暖めてきた願いを
花びらは天に届けている

食い込むように大地を掴んでいる根っこ

根っこが
冬を耐えた大地の温もりを
伝えると
陽の光を身体いっぱいに感じながら
ヤマボウシは蕾を開きはじめる

祈りを花びらに託して
どこまでも白く