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2023年詩

170
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170「詩」実り

170「詩」実り

長い時間をかけ
実ったものはなんだったのだろう
熟成したものはあったのだろうか
醗酵したものはあったのだろうか

気の遠くなるくらい
同じに見える朝を繰り返し
食べ眠り同じ事を繰り返し
実ったものがあったのだろうか

確かに
時は
経ってしまった

シワとシミの
増えた手のひらが
時の流れを伝える

思い出のなかで
大切な人たちが
増えていく

ー大切な人たちは
幸せでいてー

もうじき葉を落とし

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169「詩」忘れないで

169「詩」忘れないで

ぽつりと
冬の夜道に
立っていた
辺りは闇に包まれ
手の届くあたりに
何があるのかさえ
分からなかった

長い時間の渦に
ぐるぐると巻き込まれ
歩く方向も見失った

なにもかも人間が壊してしまった世界は
果てしなく広がって
色を失った瓦礫が
見渡す限り続く

ふと
足元を見る
小さな蕾に気づく

灯りのような
小さな蕾は
おそらく
朝の光を合図に
薄く透き通った花びらを
開き始めるだろう

忘れな

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168「詩」バスに乗る

168「詩」バスに乗る

バス停に立っている
いつもの時間に
いつものバスに乗る

いつものバスが
いつもの駅にたどり着く
とは限らない

そのまま
ふわりと浮いて
時空を超え
時代を超え
見たことのない景色の中を
走り抜けていく

車窓から人々が見える
掃除や洗濯も
ご飯を作るのだってぜんぜん違う
仕事だってぜんぜん違う
ぜんぜん違うやり方で
その日を生きるために働いている

その日を生きるために
今とちっとも変わらない

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167「詩」うたが

167「詩」うたが

遠い昔うたったうたが
ぽっかり空いた時間の隙間から
あの頃にすっぽりと
わたしを落とすのです

未来が眩しく輝いていたけれど
そこに続く道は見えないままだったあの頃
がんばれば
道は必ず見つかると信じていたけれど
がんばっても上手くはいかなかった

肩を落とした
秋の夕暮れ
みんなと同じ方向を
仕方なく見ることにした

流れにのまれて
ありふれた形の社会人になった

周りからおめでとうの言葉を浴び

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166「詩」日曜日

166「詩」日曜日

教会のミサに行かない日曜日

激しい雨のなか
高齢の信者さんたちが
杖をついて歩いてくるのが
頭に浮かぶ

電車やバスを乗り継いで
痛む足を引き摺りながら
杖をついて歩いてくるのが
頭に浮かぶ

静かに祈りを捧げ
今日まで生きてこられたことに
感謝する姿が
頭に浮かぶ

日曜日の
ゆったりした時間を切り裂けば
行けるのにと思う

それでも
信仰を持たない家族の思いに
寄り添っていこうと思う

どこ

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165「詩」深夜

165「詩」深夜

午前零時を過ぎ
星と星が響き合う音が聞こえたら
言葉にならない言葉に気づきなさい

月の光を集め
掌いっぱいに満たしたら
見えない道の行くへに気づきなさい

しじまの中に響く
天から降り注ぐ天使たちの声に
注意深く耳を傾けてみなさい

明日は
ほんの少し
明るくなる

きっと

164 「五行詩」10月5日朝

164 「五行詩」10月5日朝

雨が続いていても
雲の隙間はある
青空が見え
陽の光が
見える

163「詩」きみに

163「詩」きみに

#クリエイターフェス

だれもみんな
命を繋いでくれたお母さんが
いる

だれもみんな
削られた命を託して
いる

軽く小さな身体に
この世の空気をいっぱいに吸って
初めて泣いた
その日の記憶は
からだの中に締まってある

お母さんの背中の温もりは
行き止まった道のその先に
続く空を見つけてくれた

きみが生まれた朝
お母さんは
自分を産んだお母さんのことを
ずっと思い出していた

162「詩」雨の朝

162「詩」雨の朝

#クリエイターフェス

雨が夜のしじまを縫って
街に降りしきっている
街はまだ眠っている

夜が明けるまであと少しの間
雨は
すべての人々の重く淀んだ汚れを
清めていく

目覚めた人々が
小刻みに屋根を打つ雨音に気づく頃
清められた心は
小さな感謝のカケラを見つける

大丈夫
今日は昨日より良い一日になる

小さな感謝のカケラが
すべての人々にささやく

雨の朝

161「詩」昔の話

君とは薄汚れた古い下宿で出会った
夢に向かって頑張っていたけど
上手くいかないことばかりだったね

夜が明けるまで
平和について語り合った
世の中の事などなんにも知らないのに

何度も何度も
試してみたけれど
思い描いた明日は来なかった

君が東京を離れる前の日
原宿駅から渋谷駅まで歩いた
目的なんてなかった
ただ歩いた
小さな喫茶店で
私は一皿のヨーグルト
君はアイスクリームを食べたね

長い年

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160「詩」十六夜

160「詩」十六夜

あとは欠けるばかりです
毎日毎日小さくなっていくばかりなのです
小さくなって完全に消えてしまいます

すぐに
新しく違うわたしが生まれます

それでも
今のわたしが伝えたいのです

夜明けまで
わたしは
あなたたちを見守ります

世界中に
鈍く心地よい光を落とします

あなたたちが
朝を迎えられるように見守ります

ひとりひとりが
そのまま大切にされますように
願いをこめて光を落とします

159「詩」月が

159「詩」月が

おなじ月を見ている
おなじ月が見ている

正しかったことが
ある日突然
正しくなくなった世界

片隅に住む人たち

願いはなんだ

食べ物も寝る場所

あるのに
空っぽになった心

ある
物に満ちて住む人たち

願うのはなぜだ

おなじ月に願いを届ける
おなじ月が願いを届ける

地球を見ながら
月が願いを届ける
宝石のように輝く地球には
宝石のように輝く平和が
いちばん似合っているのだと

158「詩」言葉

158「詩」言葉

あなたのためです

たくさん聞いてきた言葉です
言われたことをやってみても
わたしのために
役立ったことはありません

あなたのためです

わたしのために言ってるのではなく
あなたが満足するために
言ってる言葉だったりします

あなたのため
言おうとしたその瞬間

心静かに
何度も自分に問います
ほんとうにあなたに必要な言葉かどうか

あなたにとって
重荷だけ与えてしまわないか
あなたにとって

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157「詩」花火

157「詩」花火

見上げて花火を見ている人の
心は
みんな
空っぽだ

空っぽにして
花火が伝えてくれるもので
いっぱいにする

※写真は許可をいただいて使わせていただいています。写真家さんの作品はこちらから。