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169「詩」忘れないで
ぽつりと
冬の夜道に
立っていた
辺りは闇に包まれ
手の届くあたりに
何があるのかさえ
分からなかった
長い時間の渦に
ぐるぐると巻き込まれ
歩く方向も見失った
なにもかも人間が壊してしまった世界は
果てしなく広がって
色を失った瓦礫が
見渡す限り続く
ふと
足元を見る
小さな蕾に気づく
灯りのような
小さな蕾は
おそらく
朝の光を合図に
薄く透き通った花びらを
開き始めるだろう
忘れな
168「詩」バスに乗る
バス停に立っている
いつもの時間に
いつものバスに乗る
いつものバスが
いつもの駅にたどり着く
とは限らない
そのまま
ふわりと浮いて
時空を超え
時代を超え
見たことのない景色の中を
走り抜けていく
車窓から人々が見える
掃除や洗濯も
ご飯を作るのだってぜんぜん違う
仕事だってぜんぜん違う
ぜんぜん違うやり方で
その日を生きるために働いている
その日を生きるために
今とちっとも変わらない
165「詩」深夜
午前零時を過ぎ
星と星が響き合う音が聞こえたら
言葉にならない言葉に気づきなさい
月の光を集め
掌いっぱいに満たしたら
見えない道の行くへに気づきなさい
しじまの中に響く
天から降り注ぐ天使たちの声に
注意深く耳を傾けてみなさい
明日は
ほんの少し
明るくなる
きっと
163「詩」きみに
#クリエイターフェス
だれもみんな
命を繋いでくれたお母さんが
いる
だれもみんな
削られた命を託して
いる
軽く小さな身体に
この世の空気をいっぱいに吸って
初めて泣いた
その日の記憶は
からだの中に締まってある
お母さんの背中の温もりは
行き止まった道のその先に
続く空を見つけてくれた
きみが生まれた朝
お母さんは
自分を産んだお母さんのことを
ずっと思い出していた
162「詩」雨の朝
#クリエイターフェス
雨が夜のしじまを縫って
街に降りしきっている
街はまだ眠っている
夜が明けるまであと少しの間
雨は
すべての人々の重く淀んだ汚れを
清めていく
目覚めた人々が
小刻みに屋根を打つ雨音に気づく頃
清められた心は
小さな感謝のカケラを見つける
大丈夫
今日は昨日より良い一日になる
小さな感謝のカケラが
すべての人々にささやく
雨の朝