なぜ「出版社のウェブメディア」には未来がないのか〈前編〉消耗戦に陥る構造
2010年代は「出版界の失われた10年」だと私は考えています。
その主な要因の一つとして、
ウェブメディアに邁進してしまったこと
が挙げられます。
ウェブメディアビジネスは、その構造上、出版社には未来がないのです。
○百万PV! ○千万PV!と喧伝されている昨今だからこそ、その理由を整理して、しっかりと説明したいと思います。
■ウェブメディアに注力すること自体が間違い
私自身、一時は、ウェブメディアにがっつり関わっていたこともありますし、新しいウェブメディア構築を提案・推進していた時期もあります。
アクセス乞食型の安かろう悪かろうウェブメディア運営にたずさわっていた反省で、二度と過ちを繰り返さないよう、
良質なウェブメディアの立ち上げを目指したこともありました。
だからこそ、ここ何年間かは、人一倍強く痛感していることがあります。
そもそも、ウェブメディアビジネスの構造自体、出版社が注力すべきものではない
という現実です。
その理由を、
1.収益
2.集客
3.運営
という点から記していきたいと思います。
※注記(2021年3月15日 追記):
この記事での「ウェブメディア」とは、
「テキスト中心で、SEO対策ガチガチな記事を作り、キュレーションアプリ等に外部配信するPV至上主義なメディア」を指しています。
単行本化や二次利用展開など収益手段が複数ある漫画ウェブメディアなどは当てはまりません。
■1.収益: 価格コントロール権を失い、極めて薄利
出版社のウェブメディアの大半は、広告以外の収益源はありません。
情報流通を限られた企業で独占できていたころは、
「他社にお客さんを流してあげる → 見返りにお金をいただく」という広告ビジネスは大変美味しい仕組みでした。
部数や視聴率といった、こちら側の数値により価格をコントロールすることができ、
メーカーや小売という、高いリスクの伴う商売をやらなくて済むからです。
しかし、情報流通の参入障壁はなくなりました。
独占が崩れ、誰でもメディアが作れる今、
メディア企業にとって広告がそれほど稼げなくなるのは自明の理です。
ウェブ広告の総額は伸びても、
その増加率よりも圧倒的なスピードで、筍のように次々とメディア数が増えていきます。
1メディアあたりが得られる額は減少しています。
広告価格のコントロール権は、Googleなど一握りのプラットフォーマーに牛耳られています。
メディアと広告代理店、両者が旨味を享受できた仕組みとは全く異なります。
メディア側は極めて薄利をいただき、
広告を束ねる、ごくごく一部のプラットフォーマーだけが、
がっちりと利益を確保できる構造なのです。
■2.集客: 「下請け」になる構造
書店流通とは全く異なり、
ウェブ流通(ウェブを活用した情報・コンテンツの流通)は集客面でもプラットフォーマーに牛耳られています。
Google検索やヤフーニュース、スマートニュースなどです。
『Newsweek』2019年12月17日号 特集:進撃のYahoo!
において「日経がヤフーに配信しない理由」という見出しがついた記事内に、以下の記述があります。
PV数に基づく広告モデルで利益を上げるには、巨大な規模が必要になるが、そこでは日経は勝てない。
経済、ビジネス情報というウェブで価値が高く、コモディティ化しにくい分野において圧倒的優位な立場の日本経済新聞でさえもその認識なのです。
ましては、
ライフハック、ファッション、子育て、教育といった
どんな人でもメディアを立ち上げられやすい分野においては、言うにおよばずです。
■3.運営: コスト競争に陥るのに、真逆に進みがち
上述の通り、ウェブメディアは参入障壁がゼロでありながら、
収益を上げる手段は極めて限られていて、しかも、
集客は他者に委ねられている要素が極めて高い
超レッドオーシャンなビジネスです。
自社でコントロールできる部分はかなり限られているため、
コスト競争になるのは必然です。
しかし、出版社はコストを下げることを得意としていません。
そもそも人件費がわりと高いですし、メンタリティ的にも制作費を削ることを苦手な風土なのです。
記事制作を安価にするにも限界があります。
一方で、いつしか「なるべく安価で記事を量産して、1,000万PVのサイトにして広告で稼ぐ」がウェブメディアの正解、
となってしまっています。
この環境は、悪い意味でメディアの習性と合致してしまっています。
これまでの慣習で、ついつい「お客さんを増やすこと」を盲目的に選んでしまいがちなのです。
「500万PVでコンバージョン率0.1%」よりも
「50万PVでコンバージョン率1%」のほうが
ビジネスとしてみれば効率がいいのは明らかなのに、
どうしても闇雲にPVを上げることから抜け出せられません。
コストを下げることがカギなのに、
矛盾した方向に汗をかく状態に陥ってしまいます。
■ウェブメディアのコンバージョンは極めて低い
また、とにかくお客さんを増やそうとすることで、「特定の層に深く刺さる」記事は減っていきます。当然、コンバージョンはどんどん下がっていきます。
よくある「○百万PV」のウェブメディアに、自分の商品等をプロモーション目的で載せてもらうと、つくづく実感します。
まったく注文につながらないのです。
何百万PV程度のウェブメディアは、
数万PVくらいだけどターゲットにしっかり刺さっているサイトや、
1万フォロワーくらいながらファンにしっかり届くTwitterアカウント
よりも、メディアとしての力は劣っているケースが大半です。
ウェブメディアは労働集約型なので、
無闇にPVを追い求めれば追い求めるほど、
運営・維持のコストは格段に上がっていく。
けれども、
コンバージョンは下がっていく
という基本構造になっています。
したがって、出版社運営のウェブメディアの大半は、売上こそたっていても、利益は出ていません。
将来性のない消耗戦です。
■なぜ、出版社はウェブメディアに傾倒してしまうのか 【続きは後編で】
しかし、そもそも、こんな旨味の少ないウェブメディアというビジネスに、
なぜ出版社は2010年代、傾倒してしまったのでしょうか。
それについては〈後編〉で説明していきたいと思います。
・旨味の少ないビジネスに出版社が傾倒してしまった理由
・未来がないと気づいても止められない理由
そして、
・それらを踏まえて、今、まずすべきこと
を記していきます。
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※こちらのnote、および私が個人で運用する各種SNSに記されている内容は一個人としての見解です。所属する会社としての発表や見解ではありません。社の方針等とは異なることもあります。
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