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#小説
【小説】にじんでみえない
チュンチュンチュン。
デッデーポッポー。
ううう、頭が痛い。
飲みすぎたか…。
体も痛い。
変な寝方したな、こりゃ。
うつぶせのまま酔いつぶれていた身体をなんとかひっくり返し、目ヤニで頑丈に閉じられた目をムリヤリこじ開ける。
見慣れた天井。
見慣れた景色。
ちゃんと家には帰ってきたらしい。
我ながら、酔っぱらったときのオートモードは優秀すぎて怖い。どれだけ
【小説】誤読のグルメ
「はい、茶屋ヶ坂です。あ、今、到着しました。駐車場に車を止めたところです。はい、すぐにお伺い致しますので」
電話を切り、車を降りる。
名古屋市某所。
何年ぶりだろう。昔、まだ学生の頃、このあたりに住んでいた。近くにはいくつも大学もあり、貧乏学生に優しい、安くて古めかしい飲食店が多く立ち並ぶ、昔ながらの繁華街だ。そのぶん、治安は決して良いとは言えなかったのが玉に瑕。
だが、近年の再開
【小説】御祝い申し上げます
その日、私ははじめての個展をむかえていた。
芸術大学を卒業後、イラストレーターとして働きながら、コツコツ作品づくりに勤しみ、一年前に独立。フリーランスの絵描きとしていろんなものを描いてきた。
描きたいものだけ描けるわけではない。それでも、自らの個性を、想いを乗せて、すべての仕事に全力を注いできた、つもりである。
そして、今日。
オープンから数時間経つが、ギャラリーはまだまだ賑わっ
【小説】35才、雨に片想い。
雨が好きだ。すべてを洗い流してくれるから。
35才。バツイチコブツキ。と言っても、子どもは元パートナーが引き取ったため、ただの独り身。
何度かの転職ののち、今の職場に納まった。これまでのスキルを評価され、ある程度の自由を許される環境には感謝しかない。と言っても、感謝の矛先は大学の同級生で、社長である寺前なのだが。
離婚で心身ともにやられていた私を見兼ねて拾ってくれたのだ。
寺前は
【小説】よるがいちばんみじかい日のよる
ある夜のこと。お姉さんのソールと妹のマーニはおでかけの準備をしていました。
マーニ「おねいちゃん、まだ?」
ソール「ねえ、マーニ、どっちがいいと思う?」
マーニ「どっちでもいいから。はやくしないと置いてくよ?」
ソール「ちょっと待って。あなたってせっかちね」
マーニ「おねいちゃんは計画性なさすぎ」
ソール「だって、今日はお日さまがいちばんながく顔をだしているのよ。遊ばなきゃもったいないじゃない
【小説】待ち人来たらず
夕暮れどき。渋滞で進まない車たちを見下ろしながら、紙カップに入った珈琲をすする。
いつもの待ち合わせ場所。四車線の道路に架かった歩道橋の真ん中。通り過ぎる人波に背を向け、日が沈むのをぼうっと見つめている。
オフィス街のビルに囲まれたこの歩道橋は、それでもその隙間から光が差しこみ、垣間見える空と、それに溶け込むように佇むビルはオレンジ色に染まっている。
視線の先には、この街の中心である