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⑥「生きるってずーっとつらい。でも…」

記事・写真 三浦順子



はじめに

杵築市山香町にあるカテリーナの舞台で「表現する人たち」が語り合うこの連載。前回5は、現代の多くの人が忘れてしまっている「言葉にならない世界」のお話でした。そこは、誰もが3歳までの時期に通ってきた世界で、表現とは切り離すことができない感覚の境地。未來さんが語ってくれた父・コウハクさんの子育てが、その世界に立ち返るためのヒントになりました。キーワードとなる質問は「自分がいい顔をしている時ってどんな時だろう?」。もしよかったら、読者のみなさんも自分の心に尋ねてみてくださいねー。さて、今回はいよいよ最終回。ただそこにいるだけでも面白い安藤さんが「教えること」について語り始めます。そして特集恒例のお手紙コーナーはまさかの〇〇…。波乱含みの展開です!

内容Ep.1〜5  は ↓から


僕も人に言われてやってないんです

編集長:(コウハクさんが「明日変わっていいから、いまやりたいことを決定しろ」と言っていたという話を聴いて)遠い将来のことを考えてって言うんじゃなくて「いまを選びなさい」っていうのがすごくいいですね。

未來:コウハクは大人になってもそういう人だったんで。明日は今日言ったことと違うことを言ってるとか。一緒にいる人は「何この人!?」みたいな感じ。…こういうエピソードにすると面白いんですけど

木村:ハハハハハハ

安藤:そういうもんなんですよー。この前(安藤さんの)先生の3回忌に行ったら、奥さんがそういうことを言ってましたよ。「さっぱりわかんない」って。(先生が)何かについて「発見したー!わかったー!」ってテンション上がってるから内容を聞いたんだけど、意味わかんないよねーみたいなね。意外と家族でも、その人にとって大事なことってやっぱその人しかわかんないことっていうのがある。共有できるところもあるんですけどね。

未來:夫婦とか一番通じないかもしれないですねー。

安藤:夫婦って一番近い人だからねー

未來:近いけど、血の繋がりはないわけじゃないですか。育った環境も全然違うっていうので、近くて遠い。遠くて近いというか、両方あるとは思うけど。その…夫婦はまだまだわかんないです。未知数…笑

編集長:夫婦って言葉が通じ合わないところは、多いなって私も感じます笑。

安藤:うん。(先生と奥さんのことで)一番面白かったのは…3回忌の展覧会だったから全部先生の作品のはずなんですけど、一点だけ本人が描いてないのがあったんですよ。「これ、何々さんが描いた絵ですよね。何で飾ってるんですかー?」って聞いたら「え!、え?!、これうちの人が描いたんじゃないの?」

(一同笑う)

安藤:「タッチとか色づかい見たらわかるじゃないですか」って言っても奥さんは「はー?!」って

木村:ハハハハ!

安藤:それはそれで面白かったです。家族も身近だけど、教室の中にいて絵のことで身近な人とちょっと違うんかなとかね。

編集長:安藤さんの幼少期と一緒で、近すぎると見えないみたいな

未來:ああー!!

木村:鶴見山

未來:鶴見山

編集長:鶴見山


安藤:…まあ木村さんの話が一番こう、しっくりくるのは、僕も人に言われてやってないんですよね。小さい頃から絵を描いてたけど、ああしなさいこうしなさいって、全然言われなかったです。ほったらかしで描いてて、それで楽しくなったんですよね。で、今に至ってるんで。意外とそっと見守ってくれてるのが一番いいかもしれない。…そうすると矛盾が生じて、いま僕、教室で(教えるときに)あーじゃこーじゃ言ってるんですけど

(一同笑う)

安藤:矛盾が生じるんです

未來:見守ってるんじゃなくてー

安藤:ガンガン手ぇ出すんですよ。でも自分の中ではちゃんと考えも整理してやってるんですけどね。

木村:どこでその変化が生じたんですかそれ、安藤さん。前はしなかったでしょ

安藤:いやー、(口出し)しなかったらー、

木村:うん

安藤:生徒さんがゼロになった。

木村:なーるほど。ハハハハハハ!

未來:「あの人教えてくれない!」みたいな

安藤:うん。1年何も言わずにやったんすよ。そしたら(カルチャーセンターから)「すいません。あと生徒さん2人で、これ以上減ったらもう教室できないんで、講座なくなります」って。僕「わかりましたー」って。そっからですよー!。「うわああー!うわああー!」(と、口を出すようになった)

(一同爆笑)

Aさん&Yさんより 写真のご提供をいただきました。
カテリーナの森20213/8/17 
子供たちへの音楽教室風景
彼女らは立派に成人して、家庭をもったり、バリバリ働いたりしている。

そのくらい、すごいことだと思ってる

安藤:…で、何とかギリギリ人数保ってますけどー。さすがに

木村:そうですね、なくなっちゃあね。

安藤:それはちょっとね。で、僕も思ったんです。言いたいことはあるんですよ。教えたいこともあるんです。

未來:うん。

安藤:相手は大人ですから、もう言おうと思って。子どもじゃないんですよ。だからちゃんと整理して、伝えたいことはちゃんと伝えて。

編集長:大人になると言ってくれる人がいなくなるじゃないですかー。やっぱりありがたいですよね。先生みたいな存在があると。

安藤:でもあんまり大人になってねー、難しいっしょそれ。入ってこないんです。でも、言い方次第なんですよね。だから、なるべく好きに自由に変えてもらいたいなーって。趣味なんでね。フワッとした感じで言ってる。ま、それがありがたいって思ってくれればうれしいですけど。

編集長:フワッとしてそうですね。安藤さんのアドバイス。

安藤:でもね、やっぱ支配的になりますよ。性格が。

未來:ほー

安藤:もうね、めちゃくちゃ見てるんで、動作とか。ちょこっと「あ!」ってことしたらバババって、言う人には言うんで。そうすると…、言われると、常に言われないとできなくなるんですよ。

編集長:ああー、不思議ですねー

安藤:このやり方が正しいのかわかんない。だけどそういうとこもありますよ、先生やってると。期間限定ですよね。ずっとやってるわけにいかないんでね。ある程度までやって、そっから先はもうね、自分のことやんないと、って思ってるんですけど。

木村:そうですか?

安藤:僕の中ではあんまり(教えるのが)上手じゃないと思ってますよね。わかるでしょう?。こういう感じですから

未來:どういう感じ笑

安藤:これってどうなんですかー?みたいに聞かれたときに、こんな感じですからね。もうちょっとはっきり、的確に言いたいんですけど、言えないんですよー。でもまあ楽しいです。あと、授業してるときに自分が教わった言葉をそのまま言ってて「あ、これ言われた言われたー」みたいに思い出したりすることもありますけどね。だけど、僕も教室で教えてもらって今があるんで、教えるっていうことを大事にはしてます。ちょっと大げさにいうと自分はそれで救われたところもあるんで。そういう(救われる)人が自分以外に増えたらいいなとは理想で思ってますけどね。自分の中では絵を描くことってそのくらい、すごいことだと思ってます。それから、若い人たちには自分なりにでもいいんで絵の世界を勉強してもらえたらいいなあとは思ってる。学校に行かなくてもいいんですよ。学校で試験とか、そんなんじゃない。美術って歴史がある。それが面白いから、伝えたいですけどね。YouTube じゃなくて本が一番いい。何の本でも、自分で出会うレベルの本でいいんです。…あとは、自分の個展で表現していきたいですね。


「幸せ」だとか思われることが多いけど

編集長:ぼちぼち締めに入ろうかと思います。実は今から、デザート的なのがあるんですけどー、

未來:デザート的?

編集長:自分への手紙っていうのを書いてもらってまして

未來:えーっ!やだ、笑

安藤:ええー?!

編集長:その前に質問用紙「レスキューQ」のほうから書きましょうか。

(解説しよう。ミンタラマガジンの特集は、取材に応えてくださったみなさんにあらかじめ質問用紙「レスキューQ」をお配りするのだが…この取材のときは記入が当日になってしまったのです!!)

安藤:いつからこの仕事…

木村:ああ、俺、仕事してないです。どうしましょうね。
編集長:いまされている活動ってことで。内容は自由に書いていただいて結構です。

安藤:なぜ、なぜ…

(書きながら独り言を言っている安藤さん)

安藤:笑、つらいこと。つらいことー?。

未來:もう毎日がつらいですからね、ハハハハハハ!!

安藤:つらいんですか

編集長:つらいんですか未來さん

未來:えー!なんか、つらいですよー。けど、表裏一体っていうか。ずーっとつらいし、それが1個解決すると抜けた感じにはなるけど、また次も苦しい…なんか生きるってずーっとつらいんだなって思って

木村:ああー

未來:「いいですねー」とか「幸せ」だとか、(そんなふうに)思われることの方が多いんですけど、なんかねー。でも、ネガティブにそれを思ってるかっていうと別にそういうわけでもないんです。

編集長:たぶんこの、感じてる自分はつらいけど、魂的には喜んでやってて…、っていうふうにも感じます。「これやらないとー」とかいう苦しみも

安藤:まあ生きること自体がつらいですね

編集長:笑

安藤:そう思いません?。

編集長:老いていくしーみたいな

未來:うん

安藤:それ言っちゃあおしまいですけどね。…なので、仕事をしていてつらい、ことは、生きていることがつらい、と。

編集長:何かを作るときって、そういうのと向き合ってんのかなってすごく思ってましたけど。つらいことというか内側のね、自分との対話みたいな

安藤:内面とは向き合ってますけどね。内面の世界って、世俗的なうれしいとか、つらいとか、苦しいとかいうのはあんまりないくて、ちょっと違う次元だと思うんですよね。だから普段制作してて、つらい苦しい…そりゃそうだろうって思いながらやってる。

(みんなが「レスキューQ」を書き終えてきた)

編集長:はい、ありがとうございます。…自分に手紙って書いたことありますか。

木村:ないです。

編集長:届くと嬉しいんですよ。なのでぜひ…


◯自分への手紙

最後に、この特集にはある仕掛けがあります。
お話を伺ったあとで、自分への手紙を書いていただいています。
時間が経って忘れた頃に、このお手紙は郵送でご本人に送ります。
お手紙を書く時に、自分の名前をつけて書き始めてもらいます。
また、お手紙にはある設定を設けています。

これから先の人生を生きて、
自分の人生を終えた後に、人生を振り返ってみるとします。
そのとき、今の私になんと言葉をかけますか?
または、自分を守護している存在がいるとして、
その守護霊が私に言葉をかけるとしたら、
どんな言葉だと思いますか?
俯瞰して静かな気持ちで自分へ向けた言葉を書いていただいています

(3人がお手紙を書いている。安藤さんはひとり物陰に隠れて。木村さんと未來さんは談笑しながら…)

木村:30年たったのねー

未來:ねー。

木村:最初ここは梅が生えてたかなー

未來:そうそう、梅

木村:ここはね、梅があった。柿は後から植えた?。

未來:いや、ありましたよね。もっとちっちゃかった

木村:ひょろっとしてた
未來:うん
木村:笹茶を作って飲んでた
未來:ねー、ね。

(未來さんが鳴らした竹琴の音が響く)

編集長:へえー!

未來:やっぱ竹の鳴りが軽いです。

木村:日本の竹とやっぱ違うんだ。なーんであんなに鳴るんだろうと思って。

未來:そう。多分ね、この地域の竹じゃあんまり鳴らないですね。南洋系のやつがいいんだって感じなんですけど。やっぱりその

木村:竹の質ー

未來:質ですねー。うん。…安藤さんめちゃくちゃ書いてるじゃないですか

木村:安藤さん…

編集長:めっちゃ長いかもしれないですね

未來:読むと思ってない。

(一同笑う)

(遠くで書いていた安藤さんが帰ってくる)


編集長:では読んでもらいます

安藤:うわー!!読むの??それは…

編集長:そうなんですよー。

安藤:(絶句)

編集長:じゃあ、お願いします。

安藤:ひえー!!

未來:ひえー笑

安藤:うわー!…えー、じゃあ。

木村:うん。

未來:すごい

(一同拍手)

安藤:恥ずかしーい

未來:アハハハハ!!

木村:うちの父からね「手抜きはするな」と遺言言われてるんです。けどそれが、こういうときに出てくるんですよね。


木村:白紙ですね。ひでくんの手抜きっていう。笑。

編集長:へえー!!その技があったんだー!。

未來:ああー!僕もそれすればよかったです。笑

(一同拍手)

編集長:その後に…

未來:「右に同じ」笑。いや僕も短いんですけど…、文字とか書くのはあんまり得意じゃなくて、短くしか書けないっていうとこがあって。


…ぐらいですね。はい。


(一同拍手)

編集長:読んでみてどうでしたか?

安藤:難しいですよねー。

木村:手え抜いたなって。笑

安藤:木村さんは Facebook をされてましてですね、まあーすごい文章を書かれている。みなさんよかったら(読んでください)。白紙じゃありません、笑。
-で今日は白紙

木村:ハハハハ!

編集長:手紙はまた時期を見て送らせてもらいます。
今日は本当にありがとうございましたー。


終わりに

座談会終盤、劇場化を目指すカテリーナのこれからについて未來さんに聴きました。「大ホールとかではなく、この場所でもっと身近な音楽体験や技術体験が自然にできたらいいなと思って。寺子屋みたいな感じで、外でも古民家の中でも活動できるようなイメージ。そのテーマとして『劇場』という形にするとわくわくするかなと思っています」
お三方が暮らす大分県の北にあるこの地域にはいま、世代を超えて様々な人たちが集まってきています。「求心力」という言葉があるけれど、引力の中心にあるものってなんだろう。…それもまたきっと、言葉になんてできない世界なのだろうと感じています。この座談会を経て筆者は、自分が過去に失った感覚の世界に手を伸ばしたいと思うようになりました。木村さんのように活動し、安藤さんのように描き、未來さんのように音を鳴らす…誰しもが何か一つは、表現の源泉に繋がる鍵を持っているはず…。木村さん、安藤さん、未來さん、そしてコウハクさんのお話から、大事なヒントをいただきました。みなさんに感謝ですー!

〈終わり〉


次回予告

8/3 19時ころ公開予定!
ミンタラ的 のんきに本気に人生相談 第2回 

8月は いよいよ特集連載5弾! 準備中♨️

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プロフィール

安藤 誠人(あんどう まさと)

1972年 大分県別府市生まれ
2000年(専)仙台 College of design入学
2002年 鯨井久樹 造形美術教室 入門
2003年 安藤誠人個展 
    以降個展、グループ展多数
2011年 大分県宇佐市に移住
2021年 カテリーナ古楽器研究所大分移住30周年記念公演に絵画で参加
2023年 カテリーナ古楽器研究所開設50周年記念公演に絵画で参加
現在、一色による色調と技法と物質を内なる必然性と関連した絵画表現を探究。


木村 秀和(きむら ひでかず)

1961年兵庫県生まれ
東京造形大学で彫刻を学ぶ。           
大分移住後別杵速見森林組合で林業に携わる。   
2000年作業中の事故で脊椎を損傷し以後車椅子生活となる。
現在豊後大野市犬飼町 社会福祉法人萌葱の郷の施設で自閉症の人達の美術制作をサポートしている。

https://www.facebook.com/profile.php?id=100055164999837

松本 未來(まつもと みらい)

1982年東京生まれ
ヨーロッパ、中世・ルネサンス期の古楽器を復元・制作する工房を遊び場に、数多くの古楽器に囲まれ、制作の現場で育つ。調律師でもあった父のチェンバロ調律は子守唄。音楽は家族の楽しみ、コミュニケーションの一つとして日常にあった。旅をすれば歌が生まれ、楽しくなれば太鼓を鳴らし体が動く。生活は作ることを基本として、楽器に限らず道具やものは自らが作る。そんな生活の場が現在の生きる道を形づけてきた。baobabと同時に古楽器演奏ではシトール、ギターン、ハーディー・ガーディー等を担当する。作ることと音を奏でることは、互いに大きなインスピレーションを与え合うものとして存在している。音楽よりも長い経歴を持つ楽器制作では、現在、カテリーナ古楽器研究所を主宰する。

未來さんの活動拠点。カテリーナ古楽器研究所のあるカテリーナの森では現在劇場化計画が進んでいます。計画にかける思いや、進捗状況などは「カテリーナの森の劇場化」のインスタグラムよりご確認ください。


Magazine Crew

文・写真

三浦順子(あのね文書室)

ライター/インタビュアー。 大分県の片隅でドタバタと4人の子育て中。猫3匹と6人家族で暮らしています。元地方紙記者(見出しとレイアウト担当)。2019年、インタビュー記事を書きはじめました。2022年からは地方紙と専門紙の契約ライターもやってます。

MJかあさん、6話お疲れ様でした!みんなお茶目に健やかに育っています!



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