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②研究することと、全体を繋げること

取材前で緊張の面持ちのみなさま
カテリーナの森のステージにて

記事・写真 三浦順子

はじめに

杵築市山香町にあるカテリーナの舞台で「表現する人たち」が語り合うこの連載。前回1は、古民家に引っ越した安藤さんのワイルドな住居環境や、未來さんと木村さんの家での(意外な)様子...それから未來さんの父・コウハクさんと木村さんの出会いなどについて聴きました。第2回となる今回は絵画と古楽器って共通点があるね、という話題から、なぜか草刈りに話が至ります。 草刈り話ももちろん面白いですが、そこはこの3人。それだけで終わるはずがありません。ではで は今回も、深ーい気づきをくれる3人の哲学対話の世界へ、let’s go!


カテリーナに通じるところがあるね

ー安藤さんはどういうことにインスピレーションが湧いて絵を描いたりしますか。

安藤:そうですね…。絵は仙台の方で勉強したんですね。個人の絵画教室に通って、そこで勉強しながら自分の表現もやってきて。やっぱり繰り返しやんないとわかんないこととかあるんですよ。基本も含めて。頭でわかってるだけじゃ(だめ)っていうところとかね。時間をかけてやんないとわかんないこともあるんですけど。そういうのはもう繰り返しやってたりするんですよね。

ー何を使って描いてるのか絵を見ても分からなかったんですけど、鉛筆とかなんですか

安藤:鉛筆か水彩か油絵か。でも一般的な感じで言うと、ちょっと古典的なんでしょうね。

木村:アクリルは使わないんですよ、安藤さんはね。やっぱ油絵

安藤:だからまあ(インスピレーションが湧くのは)日常でしょうね。環境と。

-そこにあるもの、みたいなとこなのかな。

安藤:基本的には、そこにある、が基本でしょうね。でもそれだけじゃなくて、例えば記憶とか何かこの辺にあるやつとかね、そういうのも描いたりはします。

-見えないものを絵にするみたいな、

安藤:ありますねー。あまりスタイルがはっきりしてないんで、自分の場合は。「安藤誠人だったらこういう絵」って、イメージされにくいと思うんですよ。

木村:いや、一目(瞭然)だと思いますけどね。

安藤:あ、そういうことです

(一同笑う)

未來:研究熱心なイメージもあります。繰り返しやるっていうことにしてもそうだけど、感覚と技法をどういうふうに結び付けていくかとか。油絵にしてもそうだし、その当時の技法とか

木村:カテリーナに通じるところがあるね

安藤:それはね、最初に思った。「わ。うわー」みたいな。「楽器バージョンやー」みたいな。そう思いましたよ。僕の先生も亡くなったんですけどね。コウハクさんとけっこう共通点があるんですよ。古典をすごく大事にするっていうか…

未來:うん。そもそも中世の古楽器って残ってる資料は絵画しかないんですよ。絵は当時の設計図みたいなもので。けど中世絵画になってくると、平面だったり遠近法がまだできる前だったり、あとかなり滑稽な絵だったりするものもある。

木村:図面としては残ってないですか。

未來:中世のものは残ってないですね。ヨーロッパの歴史の問題もあると思うんです。文化が何回も再構築されてるというか。争いも含めて、一度壊したものをまた作り変えていくみたいなことが起きてくる。そうこうしてたら産業革命が起きてくるし。なので楽器のあり方や技術を伝承する環境が変わってくる。建築物がでかくなればなるほど大きな音を出さないといけないとかっていうことで古楽器の特性が消えてくんですよね。古楽器を作ることは、そういうところを探っていく作業になる。だけど絵もそうですよね。その昔にはあったものが図に変わってきたりするし。時代が移ることで使われる画材も変わってくる。

安藤:古今東西の歴史でしょうね。歴史って音楽でも絵でもある。(安藤さんの先生は)そこを研究してたんですよ。絵を描いて売るとか、なんかの協会に入ったとか、風景を描いてとか、そんなんじゃないんですよ。その人のもとにいて、途中から弟子みたいな感じになってきたんですよね。関係性がね。そこで長いことやってたんで…必然的に何かそういう感じになってくるでしょ?

(なぜか一同笑う)

未來:そういう感じになってくる笑

安藤:「うわーこんな人がやっぱりいるんだ」と思って、うれしかったし興味もあった。僕自身もたぶん、歴史とか技法の研究とか、そっちに興味があるんですよね。(制作によって)なんか自分の日常の鬱憤とかストレスとかを描き出したいとか…あんまりそういうことにポイントを置いてないんですよ。

木村:やっぱ中世?

安藤:中世もそうですけど…まああの時代だとあんまり言わないすけど、東洋とか西洋とかね。かなり広い範囲で興味ありますよね。ま15世紀ぐらい

木村:宗達(※1)とか

安藤:宗達とか、あと、狩野派(※2)とか。興味あるんですよ


生きてる人と出会いたかったんです

-安藤さんは仙台から来られたんですか?。出身がこちらなんですか

安藤:もともとは別府出身なんですよ。むかし大分に緑丘高校ってあったんですよね、今もあるけど。まずそこに落ちたんです。でもなんか、なんかね、ちょっと勉強したかったんですよ。で、27歳のとき仙台のデザイン専門学校に行ったんです。そこにデッサンの授業に来てた人が先生だった。勉強したくても今みたいにYouTube とかないんで、本屋さんに行かないと知りたいことがさっぱり分からなかったし。あと、実際に生きてる人と出会いたかったんですよ。わかりますか

-うん。わかります

安藤:最初にその先生が授業のときにね「初めまして。私、画家の何々です」って。衝撃でしたよ。

木村:画家っているんだーと

安藤:わ、初めて見た!。画家を初めて見た。なんかちょっと興味あるーみたいな。そういう人と出会うことが好きだったんですね。…興味ある人に対してはね。

編集長:ハハハ!興味ある人限定で

安藤:うん。限定で。

安藤:仙台に10年くらいいて、震災があって戻ってきたんですけど…。でも、いい機会だったと思います。そろそろ自立しないとねーみたいな雰囲気も漂ってたんで。あとはやっぱね、ちょっとさっきの木村さんの話に似てるかもしれないんですけど、先生とは一緒にいるのが何か難しいっていうか…長い間座ってると僕の方から離れたりね。で、迷惑をかけたりとか、けっこういろいろあったんです。

木村:世にはよくあることですよね

-こっちに来てお二方と初めて出会ったような感じですか。

安藤:そう、こっちに来て。で、ちょっとして。

木村:安藤さんが山香で絵画教室をやってるっていうんで、習いに行ったんですよ。

-えー!木村さんが習いに!なんで

木村:パウル・クレーの「造形思考」って本があるんですよ(※3)。前からクレーに興味を持ってたんですけど、たいがい僕、本を読めない人で。自分で読むっていうと多分このまま読まないままになるなーとか思ってた。で、これ幸いと安藤さんに「共同研究しましょう」って言って、読書会をお願いしにいったんですよ。それが最初ですよね、安藤さん。

-それは震災後…10年前って感じですか

安藤:確か2015年ぐらい、うん。まあ、あと未來さんともね、何かまたできればいいですけどね

未來:何か描け描け言うんですけど笑

木村:絵を描けって?でも未來くん描けそうだね

編集長:制作するってなんか「これ」っていうものがあるじゃないですか。その他に行くのって、余力がないとやっぱり難しいですか。

未來:あー余力…確かに、そうかもしれない。できることだけでもまだできないことがいっぱいあるから、それに取り組んでるだけでも(時間が足りない)。けど違う視点から考えるとそれをすることによって、いい影響がある可能性もある。趣味ってそういうものに近いのかなーとか、思ったり。けど、よくよく考えてみると趣味ってあるのかな…。趣味あります?

木村:趣味っていうのはないような気がするなー。

未來:趣味。

安藤:趣味…

木村:もうだってやってること自体が言われてするような仕事でもないし。「もう自分のしたいことやってるでしょう」って(言われちゃう)、笑。サッカーとかは?

未來:あ、サッカーとかねー。

編集長:意外

未來:子どものときからしててー。以前は社会人サッカーのチームに入ってて。身体を動かすために…とか思ってやってたけど、日曜日に試合や練習があると、イベントが重なったりすることがよくあって。ちょっとずつ離れていったんですよね。


取材後のほっとした表情。安藤さんはバイクで移動する。

ライブの前日までギターを持たずに…

編集長:やってみたい分野みたいなのは、ありますか。

未來・安藤:(小声で)分野ねー、分野ねー

安藤:でももう今、家を直してる。趣味は家を直すこと。

木村:それは、そう言わないと苦しすぎるね笑

安藤:それで充分です。家を直して草刈りが趣味。

編集長:草刈り、私も趣味です笑

-草刈りしてると瞑想みたいになったりしますか。

未來:うん、しますねー。僕は笑

安藤:できればしたくない。もう見るに耐えない。草をバッサバサいくのが。

編集長:あ、草を刈るときに痛みを感じる系ですか。

安藤:いや痛みっていうか、モチーフですからね。草とか植物は絵の大事な要素でもあるんで。だけどー、割り切ってやってますよ。バッサバサやってます。

未來:もうね、人間が自然界と共存するための境界線みたいなところもありますからね。

安藤:なんか結構そういう人って多いみたい。草刈りできない人

未來:そうですよねー。僕、異常だと思いますもんね。めっちゃするんですけど。
(一同笑う)

木村:(庭を見ながら)マメだよねー。

未來:手伝ってくれる移住の仲間とかもいるから、できてるとこもあるんですけど。楽器を作ったりとか音楽とかしてるから、ケガしちゃいけないとかあるじゃないですか。けど全部真逆のことをしててー

木村:例えばだってこの(草刈機の)振動。ギターとか結構影響するでしょ?

未來:うん。だけどスタイルとして、アスリート系を目指してたわけじゃないから。音楽の中でも技術をどこまでも高めてやっていくっていう人もいますけど。でも僕はどっちかっていったら、そこまでこだわってない…って言ったら変だけど

木村:こだわってるなぁ

(一同笑う)

木村:結局、コウハクさんからそうなんですよ。もう全体を繋げていくんですよ。「音楽のここを特化してそれで上がっていこう」っていうよりも、音楽やってるけど飯も食うから、って。そういうふうに全部を繋げてバランスを取りながら、それをじわーっと持っていってる。

未來:そういうとこで育っちゃったから、それが当たり前になってるのかもしれないですけどね。シングバード(カテリーナの森で開催した音楽イベント)とかも、手作りでやってきたわけじゃないですか。だからライブの前日までギター持たずに丸ノコを持ってたとか、笑。あいつギター持ってるとこ見たことねえぞーとか

木村:ここでもう一歩やればいい音楽ができそうなのに、なんかいきなり麦を蒔き始めたり

(一同笑う)

未來:そういうのもある。ちょくちょく思うのは、自分がプレーヤーじゃないのが一番いいのかなぁとか(全体を見る役割を)もしかしてやりたいのかなとか思ったりすることもあるけど。自分のことより周りのほうが見えることが多いというか…たぶん自分のことが一番見えてないかもしれないです。
(3へつづく)


注釈

※1 俵屋宗達 江戸時代初頭の京都で活躍していたのでは…と言われる謎多き絵師。国宝「風神雷神図屏風」を描いた人。琳派を創始した

※2 狩野派 日本絵画史上最大の画派。室町時代中期から江戸時代末期まで、約400年にわたって活動

※3 パウル・クレー著「造形思考(上)」


次回予告

次回は7/20日 19時ごろ更新

次回③は3人それぞれの原風景について。安藤少年・木村少年・松本少年が小さな頃から見てきたものについて聴いていきます。3人に共通する出来事があることにもびっくり!!
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プロフィール

安藤 誠人(あんどう まさと)
1972年 大分県別府市生まれ
2000年(専)仙台 College of design入学
2002年 鯨井久樹 造形美術教室 入門
2003年 安藤誠人個展 
    以降個展、グループ展多数
2011年 大分県宇佐市に移住
2021年 カテリーナ古楽器研究所大分移住30周年記念公演に絵画で参加
2023年 カテリーナ古楽器研究所開設50周年記念公演に絵画で参加
現在、一色による色調と技法と物質を内なる必然性と関連した絵画表現を探究。

https://www.instagram.com/masato.ando_?igsh=MXNram91OXBtdnhpeA%3D%3D


木村 秀和(きむら ひでかず)
1961年兵庫県生まれ
東京造形大学で彫刻を学ぶ。           
大分移住後別杵速見森林組合で林業に携わる。   
2000年作業中の事故で脊椎を損傷し以後車椅子生活となる。
現在豊後大野市犬飼町 社会福祉法人萌葱の郷の施設で自閉症の人達の美術制作をサポートしている。

https://www.facebook.com/profile.php?id=100055164999837

松本 未來(まつもと みらい)
1982年東京生まれ
ヨーロッパ、中世・ルネサンス期の古楽器を復元・制作する工房を遊び場に、数多くの古楽器に囲まれ、制作の現場で育つ。調律師でもあった父のチェンバロ調律は子守唄。音楽は家族の楽しみ、コミュニケーションの一つとして日常にあった。旅をすれば歌が生まれ、楽しくなれば太鼓を鳴らし体が動く。生活は作ることを基本として、楽器に限らず道具やものは自らが作る。そんな生活の場が現在の生きる道を形づけてきた。baobabと同時に古楽器演奏ではシトール、ギターン、ハーディー・ガーディー等を担当する。作ることと音を奏でることは、互いに大きなインスピレーションを与え合うものとして存在している。音楽よりも長い経歴を持つ楽器制作では、現在、カテリーナ古楽器研究所を主宰する。

https://l.instagram.com/?u=https%3A%2F%2Fwww.catherina1972.com%2F&e=AT3O9GZr4J6LtclP76nb8cBe3Ns6eB62KCVFcnVUPSxtz-d6brXt742Z5KrLF-BgWTIlCypJOEmovxADPy-SzCVeWSkieXjL4hALVYDQrpXVQ0KMrfWCHA



Magazine Crew

文・写真
三浦順子(あのね文書室)
ライター/インタビュアー。 大分県の片隅でドタバタと4人の子育て中。猫3匹と6人家族で暮らしています。元地方紙記者(見出しとレイアウト担当)。2019年、インタビュー記事を書きはじめました。2022年からは地方紙と専門紙の契約ライターもやってます。

https://www.instagram.com/nemuidesu?igsh=a2wwbHRkZnh2MDM2



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