記事一覧
レビュー:アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』(新潮社、恩蔵絢子訳、2022年)
タイトル、表紙、帯の惹句のセンスから想像されるよりもずっと良い本だった。多くの依存症患者を診察してきた著者が、具体的な事例と科学の知見、そして著者の経験と人間観・社会観に基づいて、依存を生み出す生理的、心理的、社会的要因と、依存を断つ方法について解説する。
現代の文明は私たちを豊かにし、そして私たちの周りを心地よいもの、刺激的なもので溢れさせた。一方で私たちの多くは不安やストレスや孤独や欲求不満
高校の「倫理」で教えられるフランシス・ベーコンの「四つのイドラ」がひどい出鱈目だった
高校の「倫理」でフランシス・ベーコンの「四つのイドラ」(「種族のイドラ」、「洞窟のイドラ」、「市場のイドラ」、「劇場のイドラ」)というのを習ったが、その説明がかなり出鱈目のようだ。そこでは「市場のイドラ」と「劇場のイドラ」は次のように説明されている。
市場のイドラ:
劇場のイドラ:
他の参考書をいくつか見てみたがどれも大体同じ、ネットで検索しても同様の説明が見つかる。
ところがベーコンの『
ミルクボーイの漫才風に「ホテル・カリフォルニア」の歌詞をインターネットにこじつける
「おかんが、ザ・イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』の歌詞が何のことか分からへんいうてんのやけどな」
「ほーん。ほな、どんな歌詞か聞かして」
「『私たちは1969年以来、その精神を持っていない』ていう歌詞があるらしい」
「インターネットのことやないかい。アメリカのARPA(高等研究計画局)のネットワークARPANETをバックボーンとしてインターネットが誕生したのが1969年のことで、それ以
ネット、スマホ、ゲームの悪影響について書かれた本をいくつか読んだので感想と内容のざっくりした紹介
最近、ネット、スマホ、ゲームの(特に子供・青少年に対する)悪影響について書かれた本をいくつか読んだのでまとめて紹介。メアリー・エイケンの『サイバーエフェクト』が個人的には特におすすめ。全体的には、スマホやゲームの悪影響については、科学的にはまだわかっていないことが多い、かといって放置しておいていいとは思えないような影響がはっきり見えている部分もある、というところ。あとアメリカとかに比べると日本はま
もっとみるレビュー:ジェームズ・ブラッドワース、『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した――潜入・最低賃金労働の現場』(濱野大道訳、光文社、2019年)
【以下は、アマゾンのカスタマーレビューに書いたものの転載です。】
2018年、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、資産額が1000億ドルを突破し、ビル・ゲイツを抜いて世界一の金持ちになった。アマゾンはいま世界で最も成功している企業だ。私たちの多くは日常的にアマゾンを頼っている。本を紹介するときには誰もがアマゾンの商品ページへのリンクを貼り、アマゾンのギフト券がしばしば謝金の代わりに使われる。
確
レビュー:キャシー・オニール、『あなたを支配し社会を破壊するAI・ビッグデータの罠』(久保尚子訳、インターシフト、2018年)
以下は原著Weapons of Math DestructionをよんでAmazonのカスタマーレビューに書いたことの転載。翻訳版は未読です。
あるシステムの振る舞いについてのデータを分析し、それにフィットする数学的モデルを作り、それによってそのシステムの振る舞いを予測あるいは制御するということは、ニュートンが模範を示して以来確立されてきた近代科学の方法論的パラダイムである。しかし近代科学成立の
アジールと精神医療;舟木徹男「精神の病とその治癒の場をめぐる逆説――アジール/アサイラム論の観点から」を読んで
松本卓也・武本一美編著『メンタルヘルスの理解のために――こころの健康への多面的アプローチ』(ミネルヴァ書房、2020年)所収の舟木徹男「精神の病とその治癒の場をめぐる逆説――アジール/アサイラム論の観点から」を拝読。以下に内容の紹介と感想などを。
―――――――
「アジール(独 Asyl、仏 asile)」、「アサイラム(英 asylum)」はギリシャ語で「不可侵」を意味する語に由来しており、
「戦争は人間の本能」は科学的事実ではない
以下はSYNODOSに掲載された伊藤隆太「「人間の心」をめぐる新たな安全保障――進化政治学の視点から」という記事に対するコメントです。
この記事の著者は「戦争は人間の本能に根差したもの」というのをあたかも「科学的」事実であるかのように前提しているけど、それはまだ科学の世界では決着がついていません。
反論となりうる一つの研究として、中尾央と松本直子による、日本の縄文時代の暴力死についての研究が挙