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脚本68「禁煙」

●登場人物
◯立花(たちばな)
◯真口(まぐち)
◯外神(とがみ)

 疲れた顔で壁によりかかる立花に歩み寄る真口。

真口「おつかれっすー」
立花「ん。おつかれ」
真口「なっ、おまえそれやめろ!」

 立花の右手を弾き飛ばす。宙を舞ったタバコが壁に叩きつけられた。

立花「は? なにすんだよ」
真口「おまえそれタバコだろ」
立花「なに、真口おまえそんなにタバコ駄目だったっけ?」
真口「ここ禁煙」
立花「は? 喫煙所だったろ」
真口「それは昨日までだ」
立花「なんだよそれ聞いてないって! じゃどこで吸えばいいんだよ」
真口「喫煙所を探すしかないな」
立花「ほか知らないし。まぁいいだろ一本だけだからさ」
真口「禁煙ったら禁煙なんだよ!」

 真口の怒声に周りの目が集まる。

真口「いいか立花。禁煙マークがあるところでは絶対にタバコを吸うな。絶対にだ」
立花「はぁ。はいはいわかったよ」
真口「気をつけろよ」
立花「んじゃ探してくるわぁ」

 立花は喫煙所を探しに壁を離れる。

立花「ったく。喫煙所だってどんどんなくなってんだし、みつかんねーよ」
外神「ああ……兄ちゃん、そこの兄ちゃん……」
立花「おれっすか?」

 地べたに座り込んでいる小汚い男が虚ろな目で立花に訴えかける。

外神「それタバコだろう、一本でいい、吸わせてくんろ」
立花「おれだって吸いてーよ」
外神「ああ、ここは吸えるんだ、喫煙所だからな」
立花「そりゃあいい、やっと見つけた」
外神「ありがとうな、もう死ぬかと思っていたところだ」
立花「いやぁ、おれもやっと吸える」

 二人共、吸おうと煙草をくわえると、一気に周りから視線を感じた。

立花「なんだよ、こいつら。喫煙所で吸っちゃ悪いのかよ」

 一人の通行人が駆け寄り、指をさす。小汚い男の下を。そこには微かに赤い模様のようなものが見えた。
 立花は無理やり男を押しのける。「禁煙」地面にそう書かれていた。

外神「はぁはぁ、ああぁ、吸えるぞ」

 火をつける男。その瞬間、通行人が立花を掴み一気に退く。
「ボウゥン!」
 巨大な爆発音で男は吹き飛んだ。

立花「っはぁぁっ!? 爆弾!?」
真口「ちげぇよ馬鹿!」
立花「真口!? おまえなんでここに」
真口「心配になって追ってきたんだよ」
立花「なんだよこれ」
真口「何で知らねーんだよ、喫煙所でタバコを吸わないやつにはなんらかの制裁が加えられるって、先月法律が制定されただろ!」
立花「しらねーーよーー! テレビねーもん!」
真口「爆発は重度だそうだが……あれはきっと常習犯だったのさ」
立花「ほ、ほかの制裁は…?」
真口「さぁな…みんなタバコ吸うやつには近寄らないからさ」
立花「だからってこんなすぐに禁煙なんてできねーよ!」
真口「ま、気をつけろや」

勤務が終わり、帰宅する立花。

立花「あーーーもう……限界……。駅近くに行けばあるだろ」

 喫煙者に厳しい世界になった。その傾向は前からあったが、吸える場所は探せばあったのだ。だから死に物狂いで探すことなく、見つけられたのだ。
 しかし、発令された喫煙者排除の政令は徹底されたものだった。
 探しても探しても見つからない。
 そんな中、一部の人たちが鬼の形相で走りこむ姿があった。その誰もが、タバコのケースを握りしめていた。

立花「もしかして」

 喫煙所の生き残りがある。直感した立花は、共に、走る方向へと向かうのだった。

立花「すみません! 喫煙所ですか!?」
走る人「ああそうだ! あんたもか!」
立花「いよっしゃああ!」
走る人「オアシスはすぐそこだ!」

 死体処理班。政令と同時に発足された特殊部隊がある。昼間の小汚い男の爆死体も部隊が処理した。
 そんな部隊が多く見受けられるようになってきた。我慢できない禁断症状を発症した喫煙者が運び込まれている。
 車で引きずられる人や逮捕されてる人。殴られたり蹴られたりしている人もいる。それは喫煙の程度により識別されているようだ。
 一帯は、そう。世紀末。

立花「やべぇよ……やべぇよこの国……。やってらんないって」

 愚痴をこぼしながら走る立花の目に映ったのは絶望。
 やはり、駅前には喫煙所があった。入り口から溢れ返る人に埋もれてだが。

立花「ちょっとでも喫煙所の外で吸ったら処罰かよ」

 待ちきれず喫煙所の列で吸う者は、周辺に集結する監視員によって罰せられていた。一日中我慢していた人が多いのだろう。喫煙所の中では、吸い溜めかと言わんばかりに何本も吸っている。

立花「……」

 じっと堪える立花。

喫煙者「もぉうだめだ、吸う、おれぁ吸う!」
立花「やめてくれ! 吸うなら、あっちへ行ってくれ」

 近くで吸われちゃ自分も我慢できなくなる。立花はなりふり構っていられる状況じゃなくなってきていた。

喫煙者「ああ、すまない、あんたはがんばってくれよ……」
立花「ええ……」

 喫煙者の列から次々と脱落していく人々。しかし、それとは逆に向かってくる女性がいた。彼女は髪が乱れ化粧も崩れた、みすぼらしい格好である。

女「あんたら政府は人殺しよ!」

 急に辺りに喚きだした。しかしそれに注目する人はまばら。

女「タバコごときでそこまでする必要ないじゃない! その気なら、私が初めてタバコを吸っても殺せるのかしら! 喫煙者じゃなくても処罰するのかしら!」
立花「なんだあの女。やばいぞ、何をする気だ」
女「ここにいる奴ら全員喫煙者なんでしょ。……だったら全員、処罰の対象よねぇ!?」
立花「おいおいおいやべぇやつだって、だれか取り押さえろよ!」

 立花の他にも女に注目している人はいたが、だれも止めには入らない。列を離れるとせっかく並んでいた順番が後になるからだ。吸いたくて吸いたくてたまらない。

女「……カチッカチッカチッ」

 タバコに火をつけ、咽る女。ポケットから果物包丁を取り出した。
 そのまま人ごみに突っ込む。

喫煙者達「うわぁぁ! なんだこいつ!」
立花「ほらやっぱりやばい奴だ! 何とかしてくれよ警察! いっぱいいるじゃねぇか!」
警官「両手を挙げて下に伏せろ!」
女「人殺しめ!」
警官「警告する! 両手を上げなさい! さもなければ発砲する!」

「ガァァンッ」
 警告を無視した女は撃たれた。

立花「たかがタバコで、なんなんだこれは」
警官「死体処理班の方、こちらもお願いします」
喫煙者「俺の番だ!」

 隣で人が殺されたばかりだと言うのに、意気揚々と喫煙所へ入っていく男。彼はすでにタバコをケースから出していた。

立花「お。空いた空いた」

 立花も同じだった。順番が来てからは、彼もまた自分がタバコを吸うことに夢中になっていた。

立花「……え?」

 立花が喫煙所の中に入ると、タバコを吸っている人がいなかった。地面に転がっている吸いかけのタバコが数本転がってはいるが。

立花「あのぅ」
喫煙者達「……」

 全員がうつむいたまま返事をしない。その中の一人が力を振り絞り、震える手である一点を指差した。

立花「……うわああああああああ!!」

 そこには張られたばかりの「禁煙」と書かれたプレートがあった。


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タバコは身体に悪いですよ
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