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また読み直したいものを勝手に放り込んでゆくところです。 勝手に入れますが、御容赦ください。
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#短編小説

【超短編小説】ナイルでは

【超短編小説】ナイルでは

 古代エジプトの女王クレオパトラは蛇に噛まれて死んだあと、輪廻転生の複雑きわまりないプロセスをくぐり抜けて、現代のニューヨークで暮らすアルバニア人女性イレーンとなった。イレーンはグリニッジ・ビレッジで油絵を勉強しているごく平凡な画学生だったが、ちょうど20歳になった誕生日の翌週、オリーブオイルの瓶を踏みつけてアパートの階段から転げ落ち、そのはずみに前世の記憶をすっかり取り戻した。幸い、ひじを軽くす

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【掌編小説】雪の日のプレゼント

【掌編小説】雪の日のプレゼント

「参ったなあ。今日と明日は、大変な大雪なのかぁ」
 数年前の冬の日のことだだ。その日、台所で皿を洗いながら傍らに置いたスマートフォンで天気予報を見ていたわたしは、心の中でつぶやいていたた。その言葉はとても口には出せなかった。わたしの腰にしがみついている二人の子供に、聞かせたくなかったからだ。
「ねぇ、ママ。今日はクリスマスイブだね」
「クリクマシブだよねぇ」
「ケーキ食べるよね」
「キチン食べるよ

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小説 「さよなら、ナポリタン」

小説 「さよなら、ナポリタン」

【1日目】

①麺とタマネギとピーマンをあれする。

②フライパンで①のあれをあれする。

③ケチャップを〈ナポリタンの色〉になるまで入れ続ける。

④「これはナポリタンだ」と感じたら成功。

⑤ナポリタンの成功を祝うため、家を飾り付けする。ナポリタンは玄関に置くのが一般的。(来客時にアレをするため)

⑥おにぎりを食べ、就寝。

【2日目】

⑦起床したらまず、玄関のナポリタンを確認する。盗難さ

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短編「かなまう物語・下」

短編「かなまう物語・下」

 ぼうぼうだった草に元気がなくなった。風が強まり、細い路地にも舞い込んでは落ち場を転がしてゆく。秋が来たのだ。

 手紙は相変わらず届けられていた。箪笥の上へ積んでいた手紙はいっぱいになって雪崩を起こしたため、男は箱を一つ用意した。押し入れにしまってあった段ボールの一つだ。最初に屑籠に投げ入れた手紙もいつの間にか拾われてそちらへ入った。手紙の封筒の色や柄はいつも様々で、段ボールの中は男の家の内で一

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短編「かなまう物語・上」

短編「かなまう物語・上」



 郵便ポストの後ろに忘れられた細い路地がある。路地に沿うのは民家の側面とか裏側で玄関を構えている家はないものだから、日中もひっそりとしている。だが近所の住人にとっては生活道路に変わりなく、知る人ぞ知る路地でもある。その路地の片隅に、男の家はあった。

 男の家は路地のぷつりと切れるぎりぎりの位置にあって、平屋で、古くて、瓦が日に焼けて薄ボケて、玄関前の草はぼうぼうと生えたら生えたままであるし

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