くにん

小説を読むのが好きですし、自分で文章を書くのも好きです。「ちょっと不思議な物語」、「ち…

くにん

小説を読むのが好きですし、自分で文章を書くのも好きです。「ちょっと不思議な物語」、「ちょっと奇妙な物語」、「ちょっとほんわかな物語」を書きたいです。 文庫本「九月の雨はクラゲ色」をBOOTHにて発売中です。(https://booth.pm/ja

マガジン

  • 【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

    今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の少年少女が頑張る長編ファンタジー物語です。「竹取物語」をオマージュしています。

  • 【マガジン】掌編・短編小説

    くにんの「短編・掌編小説」を集めております。

  • 【マガジン】詩

    くにんの「詩」を集めております。

  • 【マガジン】閑話

    くにんの閑話です。エッセイ調だったり論文調だったり。性格診断なんかもあったりします。

  • (仮題)魔法探偵シリーズ

    大震災と戦争の合間。ヒトもヒトでないものも落ち着かないでいる帝都を舞台にした、「魔法探偵」諏訪部涼魔の活躍譚です。

最近の記事

  • 固定された記事

単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

 みなさん、こんばんは。くにんです。   今冬一番の寒波が襲来しているとのこと、寒いですねぇ。   さて、今回は嬉しいお知らせです。   先日から制作作業をしておりました僕の初めての掌編・短編集が、BOOTHの秋風堂書房から文庫本として発売されました!  題名は「九月の雨はクラゲ色」。著者名は「秋野紅人」。これは「くにん」の元々の筆名です。A5の文庫本で266ページです。  ブログ「コトゴトの散文」やnoteに投稿を始めた頃の作品を中心に、全20編を収録しています。

    • 月の砂漠のかぐや姫 第332話

      「母を待つ少女」の奇岩は、自分でも言っているように、理亜のことを覚えていました。  交易隊の一行が時折り通り過ぎる他は、人が寄り付くことの無いヤルダン。その一角で「母を待つ少女」は、気の遠くなるほど昔から、砂岩の塊として立ち続けていたのでした。自分に襲い掛かった過酷な運命を思ってはそれを強いた元凶であろう精霊を呪い、また、目の前から消えてしまった母親のことを思っては悲しさと寂しさで心を一杯にしながらです。  そこへ何の前触れもなく現れた、この場所には全く似つかわしくない、小さ

      • 月の砂漠のかぐや姫 第331話

        「あれは、お前と一緒に川へ落ちた、理亜の嬢ちゃんだよな。だが、なんだ? ずいぶんと雰囲気が変わったな。前は、年相応と言うか、幼くてしっかりとしていない感じだったが、いまは何かこう、すっと芯が通ったような顔をしているぜ」 「ええ、地下で理亜はたくさんの事を知りましたから。自分の事、それに、母を待つ少女のこと。そして、これからしないといけないことも」 「地下で、母を待つ少女のことを? 羽磋、そいつはどういうことだ?」  相変わらず顔は「母を待つ少女」の奇岩と理亜に向けたままなので

        • 月の砂漠のかぐや姫 第330話

          「くそっ、手間取っちまったっ」  悪態をつきながら、冒頓は急いで立ち上がりました。さらに、その動きのさ中にも素早く「母を待つ少女」の奇岩に視線を走らせ、彼女からの攻撃に対して身構えようとしました。  もちろん、跳ね飛ばした羽磋が再びしがみ付いてくる恐れもあるので、彼から目を逸らしたくはありません。でも、しがみ付いてくるだけの羽磋よりも、岩の塊である拳を振り回して攻撃して来る「母を待つ少女」の奇岩の方がよほど危険です。羽磋のせいで乱れてしまったその奇岩への注意を、冒頓は真っ先に

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        単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

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        • 【マガジン】月の砂漠のかぐや姫
          356本
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          73本
        • 【マガジン】詩
          30本
        • 【マガジン】閑話
          12本
        • (仮題)魔法探偵シリーズ
          4本
        • 【マガジン】ココロにパフュームを
          4本

        記事

          【短編小説】石山のおっちゃんの墓標

          「こうして改めて見てみると……。人が住まなくなった家の傷みが早いと言うのは、本当だなあ」  暦の上では秋に入っているはずなのに、まだまだ日差しは強い。首筋を流れる汗をハンカチで何度も拭いながら、私は廃屋の前で立ち尽くしていた。    ここは、都市部からずいぶんと離れた山間の村だ。  電車はもちろん、汽車も通っていない。ずいぶん前から廃線の危機が叫ばれているローカル線の駅からバスは出ているものの、一時間以上山道を登ってこなければいけない。それでも、まだバスがあるだけ有難いと言

          【短編小説】石山のおっちゃんの墓標

          月の砂漠のかぐや姫 第329話

          「おいっ、羽磋! 何やってんだ、放せっ!」 「放しません! あの奇岩と戦ってはいけないんですっ」 「はあっ、何言ってんだ、お前っ。お前だって、アイツと戦うためにヤルダンに来たんじゃねぇのかよっ。おら、放せっ」  背中側から腰にしがみ付いている羽磋を引き離そうと、冒頓はその頭をグイグイと押すのですが、羽磋は一向に離れてくれません。それどころか、冒頓の腰に加わる羽磋の腕の力は、増々強くなってくるのでした。  「地下世界」の中で、羽磋は「母を待つ少女」の母親に向かって「娘さんと戦っ

          月の砂漠のかぐや姫 第329話

          月の砂漠のかぐや姫 第328話

          「おっ、これは、行けるんじゃねえかっ」  冒頓は、相手の攻撃を受け止めようと身体の前に突き出していた短剣を、素早く引き戻しました。  自分が見せてしまった大きな隙をついて相手が攻撃を仕掛けてくると思った冒頓は、咄嗟に防御の構えを取っていたのでしたが、相手からの仕掛けはありませんでした。それどころか、「母を待つ少女」の奇岩は急に動きを止めてしまっていました。防御の必要性がないどころか、逆にいまこそが、こちらから相手に必殺の一撃を加える絶好の機会だと思えたのです。  冒頓は短剣を

          月の砂漠のかぐや姫 第328話

          月の砂漠のかぐや姫 第327話

           敵と対峙しているにもかかわらず、自分の注意を別のものに向けてしまうだなんて、歴戦の強者である冒頓に似つかわしい行動ではありません。つまり、冒頓の目に入った羽磋の姿は、それだけの大きな衝撃だったということなのでした。  数日前の事、冒頓の護衛隊は、ヤルダンで交易隊を襲っている「母を待つ少女」の奇岩を倒すために、土光村を出ました。ヤルダンを通り抜けて吐露村に行こうとしている羽磋も冒頓たちに同行し、理亜の身体に起こっている不思議な現象と「母を待つ少女」の奇岩との間に、何らかの関

          月の砂漠のかぐや姫 第327話

          月の砂漠のかぐや姫 第326話

           さて、物語の舞台は、再び地上へ戻ります。  地下の大空間の中で濃青色の球体と対峙していた羽磋が、天井から伝わるドドドッという振動を感じて、「自分たちの頭の上で冒頓の騎馬隊が走り回っている。彼らは『母を待つ少女』の奇岩と戦うためにヤルダンに入ったのだから、その戦いがいま繰り広げられているんだ」と考えたのは、的を射ておりました。  「母を待つ少女」の奇岩が立つヤルダンの中では珍しく開けた場所へ、冒頓の騎馬隊は一斉に馬を乗り入れ、待ち受けていた「母を待つ少女」の奇岩や彼女が率いる

          月の砂漠のかぐや姫 第326話

          月の砂漠のかぐや姫 第325話

          「いいぞ、頑張ってくれっ。あの大きな割れ目を通じて、理亜たちを地上に吹き出してくれっ!」  ギュッと両の拳を握り締めながら、王柔は叫びました。  その声に奮い立ったのか、月夜に輝く湖面のようにキラキラとした青い光で周囲を明るくしながら、水柱はグングンと立ち上がっていきます。  でも、その様に一気に進んでしまって良いものでしょうか。もしその狙いが少しでもズレていれば、水柱は天井にある亀裂を通り抜けるのではなく、硬い岩盤でできた天井そのものにぶつかってしまいます。そうなったら、そ

          月の砂漠のかぐや姫 第325話

          月の砂漠のかぐや姫 第324話

          「王柔殿・・・・・・」  羽磋には、王柔の言うことが理にかなっていることが、良くわかっていました。それでも、非情になって「わかりました。王柔殿がここに残ってください」と言うことは、簡単にはできないのでした。  王柔は、羽磋の優しい心根を良く知っていましたから、「羽磋殿は決断を下すのに苦しむだろうな」と想像がついていました。そこで、王柔は羽磋の返事を待たずに自分が率先して動くことにしました。王柔は羽磋の方から濃青色の球体の方に向き直ると、自分が残るので羽磋と理亜を地上に送ってほ

          月の砂漠のかぐや姫 第324話

          月の砂漠のかぐや姫 第323話

          「ええっ・・・・・・」  母親の説明が自分の思っていたものと違っていたために、羽磋はなんとも返答のしようがなく、口ごもってしまいました。  彼にとっては、理亜の身体の異変を治すため、それに、自分たちが地下から地上に戻るために思いついた唯一の手段が、「濃青色の球体に飲み込んでもらって、地下世界の天井の穴から外へ吹き出してもらう」ということでした。「母を待つ少女」の母親が持っていた「自分たちが彼女を騙そうとしている」という誤解もやっと解け、ようやく母親の助けを得ることができると思

          月の砂漠のかぐや姫 第323話

          【寓話】星座になったカモノハシ

           夏です。それも、暑さが厳しい夏がやってきています。  この時期は夜になってもそれほど気温が下がりませんから、夜に開催されるイベントも多いです。  みなさんも、夏祭りや花火大会などで、遅い時間に外を歩く機会があると思います。  もしも、それが晴れた夜であれば、是非とも少し立ち止まって、空を見上げてみてください。きっと、自分が想像していたよりも、ずっとたくさんの星たちが頭上で輝いていたことに、気が付くことでしょう。  古来より、人々は星々が寄り添いあう姿に、動物や神話の登場人物

          【寓話】星座になったカモノハシ

          月の砂漠のかぐや姫 第322話

           でも、これですべてが収まるべきところに収まったと言えるのでしょうか。  いいえ、そのようなことはありません。  そのことに皆の注意を促したのは、やはり、羽磋でした。 「そうです! ここにいる理亜の身体の中には、娘さんの心の半分が入り込んでいます。それをおわかりいただけて、良かったです。でも、さっきから何度もお話ししていますが、急がないといけないんです! 娘さんと理亜の心の残り半分はいまどこにありますか? 母を待つ少女の奇岩と呼ばれている娘さんの身体は、いまどこにありますか?

          月の砂漠のかぐや姫 第322話

          月の砂漠のかぐや姫 第321話

           長い年月が過ぎ去る間に、たくさんの交易隊がヤルダンの交易路を通り抜けました。彼らは「ヤルダンの中に奇妙な形をした砂岩の塊がある。それは、まるで母親を待っている子供のようだった」と言う土産話を地元に持ち帰り、それが月の民全体に広がって行くのでした。  交易隊員たちの見立ては間違ってはいませんでした。何故なら、その長い年月の間も、由は待ち続けていたのですから。あの大地の亀裂に飛び込んで消えてしまった母親が、いつか再び自分の元を訪れ、今度こそ差し出している手を握ってくれることを。

          月の砂漠のかぐや姫 第321話

          月の砂漠のかぐや姫 第320話

           薬草を手に戻ってきた母親は、自分の愛する娘の姿が「砂岩でできた像」と言う異形に変わってしまっていることに、これ以上無いほどの強い衝撃を受けました。確かに薬草を探す旅には非常に長い時間が掛かりましたから、自分が帰る前に娘が熱病のために死んでしまうのではないかという心配は、常に心の中に冷たく重い塊として存在していました。でも、まさかこのようなことが起きていようとは、想像さえもしていなかったのです。  もちろん、このようなことが自然に起きるはずがありません。何らかの力が、そうです

          月の砂漠のかぐや姫 第320話