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【短編小説】かげぼうし
逃げよう、と言うので、そうした。佐々木さんは冗談が面白い人で、だからといってこれを冗談と思ったわけではないけど、でも、佐々木さんの冗談のように面白そうだったのだ。
ひとを笑わせる能力って、なんだか、安心感がある。無駄な力が抜けて、なんでもどうにかなるような気がしてくる。そんな感じだった。
逃げよう、とわたしの手を握って、にかっと笑うから、わたしも何だかおかしくなって、くすくす笑いながらうんと答え
しにたい気持ちが消えるまで―第一章―可愛いお人形さんになれなくて、男になることにした
最初の記憶は、キッチンにぺたりと座り込んで、うなだれて、子供のように泣いている母の背中。色白の母の足の裏は一層白くて、作り物みたい。お腹が空いているのかもしれない、と思って、私は哺乳瓶を探す。けれど、それは手の届かないところにある。どうしようもなくて、私は呆然と母を見ている。その時の私はまだ、かける言葉というものを知らない。
その次の記憶は、街の夜景を見下ろす大きなガラス窓に写り込んでいる、不機
しにたい気持ちが消えるまで―序章―ベランダ
ベランダ
この日のために生まれてきた
そう思えて
ならないのです
12月のそらは
くもりひとつなく
あたしを包んでいます
ビルディングだらけの近所は
もう二年も付き合っているというのに
無愛想なまま
でもそれでいいのです
きっとあたしの踏みしめたアスファルトは
あたしの足のサイズくらいは
薄ぼんやりと覚えてくれている
はずですから
この日のために生まれてきた
そう思えて
ならないのです
国道1
JR駅無人化反対訴訟の第4回口頭弁論傍聴してきたよ(後編)
14時ちょうどに口頭弁論が始まる。まず準備書類に関する確認のやり取りがあり、徳田弁護士の意見陳述、今後の日程の確認。なんと10分と少しで閉廷。今回は弁護士による意見陳述のみで、法廷では原告の言葉は聞けず、また被告も発言することはなかった。海外映画の裁判劇のようなものを想像していた私はちょっと拍子抜けだったが、その後弁護士会館に移動して今日の総括と意見交換とが行われ、そちらにも参加した。
徳田先生
JR駅無人化反対訴訟の第4回口頭弁論傍聴してきたよ(前編)
11月11日、大分地方裁判所でJR駅無人化反対訴訟の第4回口頭弁論が行われたので、傍聴に行ってきた。
提訴から1年以上が経過しているが、そもそもの事の始まりは4年前。大分市内の8駅で、無人駅化の動きがあった。駅員の代わりに監視カメラを置いて、前日の午後8時までに予約がある場合には係員を派遣するSSS(スマートサポートステーション)計画が明らかに。
車椅子の私が電車に乗るときには介助が必要だ。電
別府市 "太陽のうた" 〜We are you〜
別府市の公式PR動画に出演しました!「障がいの有無・性別・世代・国籍に関わらずすべての人にむけておもてなしを届けたい」バリアのない観光都市別府へ♨️
これから市の公式HPへの掲載、庁舎正面玄関ロビーでの放映などを行い、広く情報発信していくとのことです。
歌名:太陽のうた
作詞:別府市民・清川進也
作曲:清川進也
歌手:永山マキ (http://www.iima-music.com/new もっとみる
画家と詩人の往復書簡 2021.3.2
売られたって別にかまやしない
欲しがるやつに全部やるだけさ
そもそも何もないものあるのは
からだひとつこころひとつだよ
私が生きてる限り心は私のもの
そろそろ支払うべきでしょうよ
操り人形だって嗤ってたやつら
これから喜劇が始まる私たちの
ためだけの喜劇、ゲームはもう
既に終わってるから待っててね
画家と詩人の往復書簡 2020.7.1
先生、あなたは、鏡に映った私。
白い足の裏に縫い止められた黒い影。
背中に張り付いている羽根。
先生、あなたは、水たまりを覗き込む私を、
水たまりの中から見つめている。
口から出るものは嘘、目に入るものは本当。
ひとも自分さえも騙して
幻想に埋没する私を、
じっと見ていてください、
先生、言葉が過つ時
私にはなす術もありません。
孤独は瞬く星のようで
途方もなく隔たっている。
けれど見
【短編小説】ゆきのふらないまちの雪
その日の寄宿舎は、深夜から十七年ぶりの雪が降る、という話題で持ちきりだった。
先週末、冬休みに入ったため、ほとんどの生徒が里帰りをしており、いつもよりひそやかではあるが、普段と変わらず、清掃員のおじいさんや調理人のおばさんたちの景気の良い挨拶とチャイムの音で一日が始まった。
食堂からは焼き立てのパンと温かいスープの匂いが漂い、洗濯室にはせっけんの清潔な香りが充満し、体が不自由な生徒の世話をするシン