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JR駅無人化反対訴訟の第4回口頭弁論傍聴してきたよ(前編)

11月11日、大分地方裁判所でJR駅無人化反対訴訟の第4回口頭弁論が行われたので、傍聴に行ってきた。

提訴から1年以上が経過しているが、そもそもの事の始まりは4年前。大分市内の8駅で、無人駅化の動きがあった。駅員の代わりに監視カメラを置いて、前日の午後8時までに予約がある場合には係員を派遣するSSS(スマートサポートステーション)計画が明らかに。

車椅子の私が電車に乗るときには介助が必要だ。電車とホームの間には段差や隙間がある。1人では乗り降りができず、簡易スロープを置いてもらったうえ、車椅子を押してもらう必要がある。また、駅によってはエレベータがなく、段差解消機などを利用することもある。その場合も駅員さんの手が要る。
これまでは乗車する20分ほど前に駅に到着するようにし、改札で行きたい駅と介助の必要を告げれば常駐している駅員さんが対応してくれた。
前日午後8時までに予約が要るなんて、これほど不便なことはない。急に予定が変わるとか、天候や体調が変わることだってある。そもそも、健常者は予約不要でいつでも好きなタイミングで電車に乗れるのだ。障害者だからそれができないのが当たり前では、それは明らかに差別されている状態だ。

障害者たちは声を上げ問題を指摘したが、JR九州はそれらに向き合うことなく2018年にSSS計画を見切り発車。それに対して7万人を超える県民からの無人化反対署名が寄せられたが、JR九州はさらに駅2つを無人化。重度障害があり車椅子を利用する吉田春美さんを筆頭に、3名の障害当事者が原告として裁判に訴えた。

駅員がいなくなって不便になるのは障害者だけではないはずだ。何か駅内でトラブルがあったときに一体誰が対応するのか。例えば急病や券売機の故障。最近では電車内での殺傷事件が相次いでいる。何も障害者だけの問題ではないだろう。大分県だけの問題ではなく、全国で駅員さんの人件費削減のために駅の無人化が進んでいる。

訴訟が始まる前から、地元に暮らす障害当事者としてこの問題については関心があった。
フォーラムに参加したこともあるが、これまで積極的な関わり合いを持つまでには至らなかった。
今回、裁判の傍聴に出向こうと思い立ったのは二つ理由がある。

ひとつは、今年4月に起こったJR乗車拒否問題。車椅子ユーザーであるコラムニストの伊是名夏子さんがご本人のブログで「JRで車いすは乗車拒否されました」という記事を投稿した。伊是名さんがJR東日本の無人駅で下車しようとしたところ、階段しかないために降りることはできないと乗車拒否をされてしまったことを書いている。伊是名さんはネットで下車する駅について事前に調べたが、無人駅であることも、車いすは事前連絡が必要なことも書いていなかったとのこと(その後の補足記事にある)。発車時刻の30分以上前に改札に訪れ、介助を求めた。駅員から「案内できない」と言われ、合理的配慮を求めて1時間以上のやり取りの末、結果的には駅員たちが手助けしてくれたそうだが、せっかくの楽しい旅行が台無しになってしまった。
このような経験は車椅子ユーザーの多くの人が既視感を持つと思う。私も、電車を降りてから駅のホームにエレベータがないことに気が付き、結局その駅では降りられずに再び電車に乗り直したことがある。降りられないなら降りられないで事前に情報公開をすればいいのに、それすらしないのは、あまりにも配慮が欠けていると思う(それとも、あえて公開しないのだろうか?)。
何よりもこの問題でショックだったのは、ネットでの非難の声の大きさだった。「わがままだ」「感謝が足りない」「駅員がかわいそう」など多くの非難が起こり、誹謗中傷まで行われた。駅員がかわいそうというなら伊是名さんにではなく、人件費削減のために彼らの首を切り、職員や乗客の安全のための設備投資をしない企業に訴えるべきではないかと思うのだが。私がツイッターで伊是名さんの意見を支持しただけでも多くの攻撃的なリプライが飛んでくるほどで、当事者である伊是名さんはどれほど傷ついたことだろうか、と心配になった。中にはJRの経営者でもまして職員でもないのに、鉄道事業の効率化を説くようなものもあり、呆れてしまった。大分での裁判の存在を知っているだけに、障害者が求めていることに対してむしろ反感を持つ人の多さに驚き、危機感さえも覚えた。

もうひとつの理由は、以前私が出演していたハートネットTVの生放送福祉ニュース番組「ハートネットタイムズ」の時以来仲良くさせてもらっているNHKのディレクターが作った番組、ハートネットTV「みんなの“楽しい”裁判~駅無人化訴訟に託すもの~」を視聴したことだ。
楽しい裁判って?とタイトルから興味をそそる内容だったが、とても良い番組だった。67歳になる出かけることが大好きな吉田春美さんにとって、電車に乗ることは生活上不可欠なことであり、ほとんど寝たきりである彼にとっての楽しみの一つだ。「各駅停車で大分大学前駅までJRで行くのが旅なのです。楽しくって仕方がないんです」と語る吉田さんのささやかな暮らしが、大企業経営の「合理化」「効率化」の名の下に脅かされそうになっている。それでいいのだろうか?仕方がないことなのだろうか。そして「楽しい裁判」。大企業を相手取って訴訟を起こしているというのに、原告やそれを支援する人々はなぜか楽しそう。その「楽しさ」に私も直に触れてみたい。そう思って吉田さんに会いに行った。すると裁判傍聴に誘われたのだった。


すっかり前置きが長くなってしまったが、そういうことならと私が利用しているヘルパー事業所の責任者である薄田一さんがボランティアで傍聴に付き合ってくれた。

裁判所に赴くことなんて日常生活ではない。初めての傍聴にちょっと緊張する。傍聴席は固定の椅子で数が限られており、まずは抽選に参加することに。車椅子用の席はたった4席。今日は10名を超える車椅子ユーザーがこの裁判の傍聴のために訪れていた。障害当事者にとって重要な裁判であることは間違いがない。けれども、裁判所ではそのような想定がなされていないのだ。そもそも、車椅子用の傍聴席が準備されるようになったのも、平成25年に障害者差別解消法が制定されてからだという。

抽選が始まるのを待っていると、「密になりますので、介助の方は別室に移動してください」と裁判所職員からのアナウンス。皆で顔を見合わせる。当事者たちはそれぞれ介助者を連れているが、介助者の手助けが常に必要だからそうしているのだ。なのに当事者を置いて別室に移動? 「まったくわかってないね」と苦笑いの薄田さん。丁寧に、けれどすこし硬い声で、常に介助が必要な方もいると職員に伝えてくれる。
人権や法律を司るような場所でも、障害者に対する理解がこの程度なのだ。いかに障害者という存在が世間に知られていないか、ということだ。

車椅子席の抽選には外れてしまった。外れて傍聴できない人は裁判が終わるまで別室で待機するようにと言われていたが、誰かが機転を利かせ、一般席に車椅子から乗り移れないか、と提案した。一般席なら車椅子席に比べれば余裕がある。それならと再度抽選。当たった。
他の当事者も当たったようだ。その場では把握していなかったが、結果としてすべての当事者が傍聴できたとのこと。
早速法廷へと移動し、薄田さんに抱えてもらって一般席に乗り移る。椅子は固定され、背もたれと肘掛けがついており、クッションも悪くなかった。しばらくは座位を保持していられる。車椅子は別室へと回収される。車椅子は私にとって「移動する椅子」ではなく「足」であり、体の一部だ。近くに車椅子がないと、なんだかそわそわする。
最前列で始まるのを待っていると、すでに原告側で待機している吉田さんがひざ掛けを貸してくれた。この日はとても寒い日だったので、気遣いに気持ちがすこしくつろいだ。原告側には吉田さんを含め3名の当事者が並んで座っており、その後ろに介助者もいた。その前に座る弁護士は徳田靖之氏。ハンセン病訴訟の弁護団代表として有名で、人権に関わる裁判に多く関わってきた凄腕の弁護士だ。被告側は裁判が始まる直前に弁護士を連れ入廷。
口頭弁論が始まった。徳田弁護士が前に立ち、意見陳述を行う。
この裁判の争点を明確にする、初めて傍聴するにはわかりやすい内容になっていた。「JR無人化反対訴訟を支援する会」のホームページに全文掲載されているので、ここでは簡単にまとめてみる。(なにか間違いがあったらご指摘ください)

まずは原告がこの訴訟において、牧駅、敷戸駅、大分大学駅3駅を無人化したことを不法行為として主張しているということ。SSS(スマートサポートステーション)があるからといって不法行為であることに変わりはない。(この場合の不法行為というのは、憲法第13条「幸福追求権」また第22条の「居住・移転の自由」を根拠として保証された「移動の権利」、そして14条の「平等原則」を侵害しているというもの。障害者にとっての移動の権利とは「障害を理由として、道路・交通機関などの公共空間の移動に関して、制限を受けない権利」※前回の意見陳述書を参照)

次に、重い障害のある者にとって、公共交通機関を利用することはそれ自体が自立と社会参加を意味しており、憲法第13条の保障する幸福追求権そのものであるということ、原告は無人駅に対して新たに駅員を常時配置するよう求めているのではなく、事前の予約が必要のなかった3駅を無人化したことが合理的配慮を欠く不法行為であるということ。

最後に、被告が以前大分市8駅を無人化する必要性として説明した内容を覆したことに疑問を持ったこと。被告は訴訟提起前の「だれもが安心して暮らせる大分県をつくる会」に対する説明会で「駅無人化は鉄道部門の年間赤字20億円を解消するためである」と明言していたため、訴訟において、民営化や株式上場するにあたって国鉄資産を引き継いだだけでなく鉄道部門の赤字対策として、3800億円を超える国費投入があったこと、それゆえ青柳社長が国会において「赤字を理由に国民の足の確保を怠ることはしない」旨を確約していた事実を指摘した。するとそれを受けて、被告がそれまでの主張を覆し、「駅無人化は長期的な交通ネットワーク維持のための効率化の一環として駅耐性の見直しを図るもの」と説明した。しかしその効率化の具体的内容についてはまったく触れられていない。
そもそもこの訴訟の争点として、駅無人化実施当時に年間400億円もの黒字を計上していた被告が、鉄道部門の赤字を理由に原告の「移動の自由」を侵害するのかという点にあり、この論点を曖昧にする態度はきびしく批判されるべきであるということ。

(長いので、続きはまた。)

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