こわいのはまちがいをおかすことではなく まちがう自分を識らないことだ 先への道は幾重にもわかれていて そのどれもに私がいる 視ることはできないが それを識ることはで…
明け方、猫に起こされた。 酷暑のあとの怠さに、半開きの窓からはいる風がひんやりと心地よい。 猫に手の甲をなめられ、横たわったままそっと抱きとると、しなやかな身体を…
かたむけると やけどするおそれがあります と 書かれているポット なおすことより おそろしい副作用が書きつらねてある くすりびん おちるはずないといわれながら …
仕事をするのが つらいとき 彼はトイレに行って すこし泣いた 便座は彼をうけとめて 胸をいためた 排泄を待つ便器は とまどって彼を見上げた 鍵は下ろされたまま …
ひととき、一緒にいるだけ。 それだけなんだよ、おまえと、ぼく。 きみと、わたし。 どんなにむつみあっても。 どんなにいとおしんでも。 ぜったいに忘れないと信じた…
予約をいくら入れても たくさんの無効が かえってくる そんな ショッピングモール どの店をおとずれても 確証はない うつくしい商品が並んでいるだけ なんだな 手…
目を閉じて 一から数えて どこまでもゆく 数えてゆくことが できなくなったとき 落ちてゆくところ そこで僕は たくさんの人生を こまぎれに生きる 見知らぬ町で …
大空を鳥がゆくのを見ると 僕も 鳥であればよかったと思う ちいさな子どもが街の角を曲がるのを見ると 僕も あの角であればよかったと思う 誰かがいっしんに本を読ん…
それではさようなら それではおやすみなさい 今日という日にきっぱりと わかれを言って 石のように眠ろう なげくことも知らない 予見することもない 石のようになっ…
未来はいつか やさしくなると 信じていたころ あのあどけない僕に 今夜 夢の中で会う こんなに小さな手足をして こわがり わらい ふるえながら ものすごく大きな…
一海槙
2022年9月20日 01:39
こわいのはまちがいをおかすことではなくまちがう自分を識らないことだ先への道は幾重にもわかれていてそのどれもに私がいる視ることはできないがそれを識ることはできるみじかい旅に発つ手前の夜にじっと闇の音を聴き多くのまちがいの中に立つ私をしずかに想像するおそれることはないきっと無事にまたここに帰ってきてここにいる私を発見するちいさな奇跡をみるように
2022年9月7日 17:28
明け方、猫に起こされた。酷暑のあとの怠さに、半開きの窓からはいる風がひんやりと心地よい。猫に手の甲をなめられ、横たわったままそっと抱きとると、しなやかな身体をぴったり沿わせてきた。そのまままた、私はすうっとやわらかな眠りに落ちていった。夢の中で、私は見知らぬ街をひとりで旅していた。街歩きを終えて夜に旅館に戻り、ちいさな和室に敷かれた布団で眠りについた。と、気づくと私は夜の街を歩いてい
2022年3月15日 01:40
かたむけるとやけどするおそれがありますと 書かれているポットなおすことよりおそろしい副作用が書きつらねてあるくすりびんおちるはずないといわれながらおちることを想定して配備される迎撃ミサイルの そなわった国のちいさな街でポットをかたむけながら紅茶をいれる私さやさやと春の風がふいて私の手にこぼれおちる熱湯に 気づきもせず赤んぼうが泣いてい
2022年1月30日 02:16
仕事をするのがつらいとき彼はトイレに行ってすこし泣いた便座は彼をうけとめて胸をいためた排泄を待つ便器はとまどって彼を見上げた鍵は下ろされたままそっと彼にふりむいたペーパーはぐるぐる出され彼の眼をそっと撫でたほっと息をついて振りかえることもなく彼が去ったあと静かで清潔な形にくっきりと戻ってみんな待っているまた待っている汚れも
2021年12月15日 18:33
ひととき、一緒にいるだけ。それだけなんだよ、おまえと、ぼく。きみと、わたし。どんなにむつみあっても。どんなにいとおしんでも。ぜったいに忘れないと信じたことを、ひとは、忘れる。かなしいけれど、泣かなくていい。世界が暗くなって、それからあかるくなるように。つないだ手が、だれのものかわからなくなっても。あたたかいことだけは、わかる。ひととき、一緒にいるだけ。だ
2021年12月11日 14:43
予約をいくら入れてもたくさんの無効がかえってくる そんなショッピングモールどの店をおとずれても確証はないうつくしい商品が並んでいるだけなんだな手にとることはできるそれだけなんだな照明が多すぎて筋肉がなえてしまうカードに指紋がついているそのことも問題らしいきれいに視線をはずす店員たちが身につけている売りものの薄いドレスかのじ
2021年11月24日 19:10
目を閉じて一から数えてどこまでもゆく数えてゆくことができなくなったとき落ちてゆくところそこで僕はたくさんの人生をこまぎれに生きる見知らぬ町で逃げつづけたり見知らぬひととそっと体をよせあったりまっしろな山脈を下に見てどこまでも飛んだりするこれらの物語はきっと僕がほんとうに生きたものたくさんの道をゆきさまざまな人とかかわり目覚
2021年11月16日 01:35
大空を鳥がゆくのを見ると僕も鳥であればよかったと思うちいさな子どもが街の角を曲がるのを見ると僕もあの角であればよかったと思う誰かがいっしんに本を読んでときおり涙をうかべているのを見ると僕はこの身体が文字であればよかったと思うくちびるを閉じてつよい心で道を歩く祖父のようにもうこの世にはなくてもしずかに思いをつたえているあたたかい無名のものに
2021年11月12日 23:28
それではさようならそれではおやすみなさい今日という日にきっぱりとわかれを言って石のように眠ろうなげくことも知らない予見することもない石のようになって眠ろう明日の朝にはふたたびやわらかいヒトになりみずみずしく不安をかかえて駆けまわる生きものに戻るためきっぱりと線をひいて自分をそっとなでて 泣かないようにして石のように眠ろう
2021年11月9日 18:56
未来はいつかやさしくなると信じていたころあのあどけない僕に今夜夢の中で会うこんなに小さな手足をしてこわがりわらいふるえながらものすごく大きな空を見上げていたんだね今は疲れ明日の予定をかぞえながら夢の中で青くはてしない空を見るなにひとつ思い通りにならない小さな僕が泣きながらきっと未来はやさしくなると信じて見た空を