一海槙

詩、小説、いろいろ書いています。詩の講座などもしています。作品を読んで何かを心に感じて…

一海槙

詩、小説、いろいろ書いています。詩の講座などもしています。作品を読んで何かを心に感じていただけるとうれしいです。 詩集『正夢』(澪標) https://www.amazon.co.jp/dp/486078183X /映画レビュー『シネマひぐらし』(私家版)

最近の記事

【詩をひとつ。】 夜想曲

こわいのはまちがいをおかすことではなく まちがう自分を識らないことだ 先への道は幾重にもわかれていて そのどれもに私がいる 視ることはできないが それを識ることはできる みじかい旅に発つ手前の夜に じっと闇の音を聴き 多くのまちがいの中に立つ私を しずかに想像する おそれることはない きっと無事にまたここに帰ってきて ここにいる私を発見する ちいさな奇跡をみるように

    • 【夢のはなし。】 白い襖

      明け方、猫に起こされた。 酷暑のあとの怠さに、半開きの窓からはいる風がひんやりと心地よい。 猫に手の甲をなめられ、横たわったままそっと抱きとると、しなやかな身体をぴったり沿わせてきた。 そのまままた、私はすうっとやわらかな眠りに落ちていった。 夢の中で、私は見知らぬ街をひとりで旅していた。 街歩きを終えて夜に旅館に戻り、ちいさな和室に敷かれた布団で眠りについた。 と、気づくと私は夜の街を歩いていた。 眠っていたはずなのに、とぼんやり思いながら暗い街を歩いていくと、Kさんに会

      • 【詩をひとつ。】WARNING

        かたむけると やけどするおそれがあります と 書かれているポット なおすことより おそろしい副作用が書きつらねてある くすりびん おちるはずないといわれながら おちることを想定して配備される 迎撃ミサイル の そなわった国のちいさな街で ポットをかたむけながら 紅茶をいれる私 さやさやと春の風がふいて 私の手にこぼれおちる 熱湯 に 気づきもせず 赤んぼうが泣いているから走りより くすりびんに手をのばしてふと外をみると 空はいってんのくもり

        • 【詩をひとつ。】 トイレ

          仕事をするのが つらいとき 彼はトイレに行って すこし泣いた 便座は彼をうけとめて 胸をいためた 排泄を待つ便器は とまどって彼を見上げた 鍵は下ろされたまま そっと彼にふりむいた ペーパーはぐるぐる出され 彼の眼をそっと撫でた ほっと息をついて 振りかえることもなく 彼が去ったあと 静かで清潔な形に くっきりと戻って みんな待っている また待っている 汚れものを かぎりなく受けとめながら 誰にも知られぬやさしさで 次の彼を

        【詩をひとつ。】 夜想曲

          【詩をひとつ。】 ふたり

          ひととき、一緒にいるだけ。 それだけなんだよ、おまえと、ぼく。 きみと、わたし。 どんなにむつみあっても。 どんなにいとおしんでも。 ぜったいに忘れないと信じたことを、ひとは、忘れる。 かなしいけれど、泣かなくていい。 世界が暗くなって、それからあかるくなるように。 つないだ手が、だれのものかわからなくなっても。 あたたかいことだけは、わかる。 ひととき、一緒にいるだけ。 だからこそ、こんなにあざやかで、せつなくて、永遠のように、 うつくしいんだ。

          【詩をひとつ。】 ふたり

          【詩をひとつ。】 つきぬける

          予約をいくら入れても たくさんの無効が かえってくる そんな ショッピングモール どの店をおとずれても 確証はない うつくしい商品が並んでいるだけ なんだな 手にとることはできる それだけ なんだな 照明が多すぎて 筋肉がなえてしまう カードに指紋がついている そのことも問題 らしい きれいに視線をはずす 店員たちが身につけている 売りものの薄いドレス かのじょたち皆しずかに いらだっているような手つきで 私も 身にまとうなにかを

          【詩をひとつ。】 つきぬける

          【詩をひとつ。】 夢を見る意味

          目を閉じて 一から数えて どこまでもゆく 数えてゆくことが できなくなったとき 落ちてゆくところ そこで僕は たくさんの人生を こまぎれに生きる 見知らぬ町で 逃げつづけたり 見知らぬひとと そっと体をよせあったり まっしろな山脈を下に見て どこまでも飛んだりする これらの物語は きっと僕がほんとうに生きたもの たくさんの道をゆき さまざまな人とかかわり 目覚めたあとにも あざやかに残りつづける 目を閉じて 一から数えて いつか数

          【詩をひとつ。】 夢を見る意味

          【詩をひとつ。】 祖父

          大空を鳥がゆくのを見ると 僕も 鳥であればよかったと思う ちいさな子どもが街の角を曲がるのを見ると 僕も あの角であればよかったと思う 誰かがいっしんに本を読んで ときおり涙をうかべているのを見ると 僕はこの身体が 文字であればよかったと思う くちびるを閉じて つよい心で道を歩く祖父のように もうこの世にはなくても しずかに思いをつたえている あたたかい無名のものに 僕は なりたいと思う

          【詩をひとつ。】 祖父

          【詩をひとつ。】 石のように

          それではさようなら それではおやすみなさい 今日という日にきっぱりと わかれを言って 石のように眠ろう なげくことも知らない 予見することもない 石のようになって眠ろう 明日の朝には ふたたびやわらかいヒトになり みずみずしく 不安をかかえて駆けまわる生きものに戻るため きっぱりと線をひいて 自分をそっとなでて 泣かないようにして 石のように眠ろう

          【詩をひとつ。】 石のように

          【詩をひとつ。】 空

          未来はいつか やさしくなると 信じていたころ あのあどけない僕に 今夜 夢の中で会う こんなに小さな手足をして こわがり わらい ふるえながら ものすごく大きな空を 見上げていたんだね 今は疲れ 明日の予定をかぞえながら 夢の中で 青くはてしない空を 見る なにひとつ思い通りにならない 小さな僕が 泣きながら きっと未来は やさしくなると 信じて見た空を 今夜僕も 夢の中で泣きながら 大きく 大きく見る

          【詩をひとつ。】 空