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【連載小説】『ひとりぼっちのゾーイ』後編
<『ひとりぼっちのゾーイ』続き>
ほどなくしてふたりは一件の小さな家の前に着いた。壁が水色の、かわいい家さ。
「ここはいったいどこなんだい?」
きょろきょろしながら、男の子が尋ねた。
「ここね、私が住んでいた家なのよ。ちっとも変わってないわ。」
ゾーイは懐かしそうに、そして少し寂しそうにその家を眺めた。一階の窓からは、カーテン越しに、暖かいオレンジ色の明かりの中で走り回る子どもたちのシ
【連載小説】『ひとりぼっちのゾーイ』前編
『ひとりぼっちのゾーイ』
須田 マドカ
粉雪舞い散る夜のこと。街のはずれの小さなパブ。こんな日にはつまらない劇みたいに、ぽつり、ぽつりしかお客が来ない。
バーテンダーの男の子、窓の外を見つめてる。最後のお客が出ていって、ドアのベルがからんと鳴った。
「いったい外に何があるって言うのよ。最近どこかうわの空ね。」
ウエイトレスの女の子。不思議そうに、彼を見る。男
【映画コラム】『ゾンビランド:ダブルタップ』は、『ターミネーター2』だ。
現在公開中の映画『ゾンビランド:ダブルタップ』を見た。
最高だった。ただただ最高だった。
そして私は言いたい。『ゾンビランド:ダブルタップ』は、『ターミネーター2』であると―。
ここからは、映画の核心には触れないものの多少の薄いネタバレは入るので、ご了承頂きたい。
まず、この映画の概要を説明すると…
この『ゾンビランド:ダブルタップ』は、10年前に公開された『ゾンビランド』という映画
【連載小説】『クリーピー・ボーイ』#3(最終回)
〈『クリーピー・ボーイ』続き〉
その夜、ベッドに入っても、少年は眠れなかった。
目をつぶると、そこには白いチュチュを身に纏い、オペラ座の舞台に立つ彼女の姿があった。
まるで蝶々のように、トウシューズを履いた白いきれいな足を小刻みに動かしながら踊る彼女は、とても美しかった。美しすぎて、なんでだかなんてわかんない、けれど、涙が出て止まらなかった。少年は、一晩中幻想の月明かりの下で、ガラスの涙
【連載小説】『クリーピー・ボーイ』#2
〈『クリーピー・ボーイ』続き〉
「なんで学校行かないの?」少女が尋ねる。
「その話はしたくないから、聞かないでよ」少年はさらさらと伸びたその茶色がかった前髪を手でいじりながら答える。「そんなことよりさ」手を降ろす。「君が踊ってるとこ…その…すごく、きれいだった」
少女は微笑む。「ありがとう。でも、そんなことないよ」
「そんなことなくないよ。本当にきれいだった。自分が、醜いものに思えるくらい。
【連載小説】『クリーピー・ボーイ』#1
『クリーピー・ボーイ』
須田 マドカ
落ち葉舞う街角で男は言った。「ねえ、僕たち一度会ったことがあるような気がしませんか?」
女はただ、顔をしかめただけだった。
そう、こんな風な、昔から決まって男が女を口説くときに使い古されているようなきざなセリフを聞くのは、この街じゃ、よくあること。ごくありふれた、いつも通りの光景に過ぎない。この世に、恋だとか、人を好きになっ