「着飾るくらやみ」

「おかげさま」
母さんの好きな言葉

「わたしはいいから」
母さんの口癖

「ありがとう」
何百万回　母さんが
言ったろう

ほかの子供の　
お菓子を取ろうとすると
悲しい目をして
首を横に振る

蚊取り線香に
火をつけて
「もう　坊やを
チクンと　しないでね」
この　おまじないで
蚊が　近づかなくなる

庭で　花火
美しい着物を　暗闇に
まとわせたように　怪しく
きらめく　火花

犬の　「まめきち」は
火を　怖がり　小屋の中

「まめきち　おいで
花火　一緒に　しようね」

ボクが　呼んでも　出てこない
母さんが　やさしく　声をかけると
膝の上に　飛び乗り　
鼻を鳴らして　甘える

年が経ち　
庭で　ひとり花火を　
しながら
母さんと　「まめきち」の　
遠い幻影を　炎の向こうに　探す

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