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#小説
【短編小説】カニ食い夜行
空一面に雲がかかり、夜空には星も月もない。
夜雲の下には、山のかたちの真黒なかたまりがいくつも連なっている。
山間を縫って、高速道路のオレンジの電灯が、ゆるやかにカーブしながら伸びる。
大きなトラックが、夜の静寂を壊しながら高速道路を走っている。10mほどのコンテナを積んだ長距離トラック。ひとつのタイヤは熊ほども大きい。
運転席には、襟のよれた青いポロシャツを着た中年男。髪は短く刈り上げられ
創作大賞2024 | ソウアイの星⑬
《最初から 《前回の話
(十八)
家を飛び出した。わたしは早足で歩いた。急ぐ理由はない、ただ、動揺から激しく鳴る心臓の音が不快で、それをかき消したかった。
途中から小走りに夜の吉祥寺駅を目指した。駅に着くと、今度はその明るさに怯んで、逃げるように井の頭公園へ向かった。時刻は夜の九時を少し回っていた。
歩きながらポケットからスマートフォンを取り出し、華に電話をかけた。幸い華はすぐに着信に