マガジンのカバー画像

utgopu

140
kbuybo
運営しているクリエイター

#小説

【短編小説】カニ食い夜行

【短編小説】カニ食い夜行

空一面に雲がかかり、夜空には星も月もない。
夜雲の下には、山のかたちの真黒なかたまりがいくつも連なっている。

山間を縫って、高速道路のオレンジの電灯が、ゆるやかにカーブしながら伸びる。

大きなトラックが、夜の静寂を壊しながら高速道路を走っている。10mほどのコンテナを積んだ長距離トラック。ひとつのタイヤは熊ほども大きい。

運転席には、襟のよれた青いポロシャツを着た中年男。髪は短く刈り上げられ

もっとみる
創作大賞2024 | ソウアイの星⑬

創作大賞2024 | ソウアイの星⑬

《最初から 《前回の話 

(十八)

 家を飛び出した。わたしは早足で歩いた。急ぐ理由はない、ただ、動揺から激しく鳴る心臓の音が不快で、それをかき消したかった。
 途中から小走りに夜の吉祥寺駅を目指した。駅に着くと、今度はその明るさに怯んで、逃げるように井の頭公園へ向かった。時刻は夜の九時を少し回っていた。
 歩きながらポケットからスマートフォンを取り出し、華に電話をかけた。幸い華はすぐに着信に

もっとみる
【小説】愚。#5

【小説】愚。#5


前回高慢と勃起、そしてウィンク
 瞬きの回数が異常に少ない人間ってのがいてこの山空、新入社員の山空、具田にちんこのサイズを尋ねられて無視した山空もまた、極めてまばたきの少ない男であった。

 給仕係のばばあを怒鳴りつけて後、暫時睨み合ってからこっち、一気に空気の重さが増した社員食堂の片隅で贋造は山空と対峙し、無言無表情の新入 社員の顔面を見つめている時に気付いたその瞬きの少なさ。
 もはや贋造が

もっとみる