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『毒を食らわば ~妄言随想~』:恋の鞘当て
「親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」。これは夏目漱石の『坊っちゃん』からの引用であるが、私自身も「坊っちゃん」よろしく、随分と無茶も重ねてきた。熱しやすく冷めやすい――というのとは少し違う。敢えて言うなら、それは「義侠心」に近いのかもしれない。この時代では滅多に耳にすることのない、「義理」や「人情」といったしがらみに雁字搦めにされており、不正が行われるようなら飛んで忠言、諫言の類を述べな
もっとみる『毒を食らわば 〜妄言随想〜』:大人になれよ
久しぶりに小学校のアルバムを開いてみた。懐かしい顔ぶれが満面の笑みを浮かべて未来の自分へ問い掛けている。「将来の夢は叶えられましたか?」と。不安や葛藤を微塵も感じさせない笑顔である。が、その屈託のなさが却ってこちらの居心地を悪くさせる。毒気が抜かれるどころか腹の底に溜まった泥水を強烈に意識させるものがある。
さて、二十年以前に僕らが抱いていた希望は何だろう。《将来の夢》と題されたページを開い
『毒を食らわば 〜妄言随想〜』:序
不幸とは突如として訪れるものではない。往々にして、何かしらの先触れというか、兆候のようなものが確かにあって、これからやって来る嵐を事前に告げている場合が殆どなのである。が、人間とは自身が思っているほどには敏くない生き物である。だから、再三にわたって到来を告げているにも係わらず、災禍に見舞われると寝耳に大水の音を聞いたように慌てふためき、お門違いにも神様や仏様に対して愚痴を垂らさずにはいられないの
もっとみる奇妙な話:おさげ髪の幽霊
これは五年くらい以前のお話になるが、私の妹は悪い男に騙されて茨城県に身を隠すように暮らしていたことがある。僅かに残された足取りを辿り、漸く行方を探り出したのだが――まあ、詳しいお話は割愛させて頂くとして、これもまた奇妙な出来事があった……らしい。
「それにしても、ひどい交際経験だった」と妹は述懐しているが、意外にも恋人の家族に対しては今でも好意的な印象を抱いているらしい。というのも、恋人の母親