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奇妙な話:学校の怪談に関する考察

 これも中学校時代の小話である。私の母校はどれも歴史が古く、中学校は創立七十年、高等学校に至っては創立九十年以上を数えるほどである。それほど由緒ある学校であるから、いわゆる、「学校の怪談」や「学校の七不思議」なるものが当然ある。真偽のほどは確かでないが、いずれの学校にもタブーやジンクスのようなものが存在したし、時には暗黙の了解として教師陣の方も「校則」を定めることもあった。

「午後五時以降はS棟(新校舎)に立ち入ることを原則禁止とする」

 これは中学校の時の「校則」である。他の棟(旧校舎)に出入りすることは自由だったが、何故だが、S棟(新校舎)に出入りに関しては異様に厳しかった。警備会社と契約しているためと教師たちは説明していたが、本当に午後五時になると施錠されてしまう。ちょっとした忘れ物を取りに行くだけでも、付き添いの教師がいなければ立ち入りできないのは不便だった。

「卵が先か鶏が先か」という問題にもなってしまうが、いずれにせよS棟は良からぬ噂が囁かれるようになる運命にあったと思う。曰く、「廊下に幽霊が出る」とか「トイレの鏡に幽霊が映る」など。S棟は新校舎であるにも関わらず、何となく不穏な雰囲気が漂う場所であるとして認識されるようになっていった。

 一度だけ、興味本位でS棟が建てられる以前はどのような土地だったのか調べてみたことがある。図書室には学校の沿革を記録した本があったし、丁寧なことに年代別の航空写真も添えられていた。「S棟は墓所を取り潰して建てられた校舎らしい」という噂が囁かれていたこともあり、私は特に航空写真を綿密にチェックしたが、残念ながら大きな成果は得られなかった。

 そもそも、この日本という国土の中に人の生死が全く関わっていない土地があるとは思えない。どのような土地でも、ある程度の「穢れ」のようなものを抱えているはずである。年代別航空写真を調べてみても、記録以前の土地柄までは調べることはできない。少なくとも中学生の頃の自分には無理であった。

 ただ、S棟の怪現象に関しては確かだったらしい。「廊下に幽霊が出る」とか「トイレの鏡に幽霊が映る」といった噂は何年も以前から語り継がれていたし、それを理由に教師陣が管理を厳重にしたとも聞かされている。少なくとも、教師陣はS棟で怪現象が起こるらしいという噂を知っていたようである。

「先生、S棟に幽霊が出るって本当なんですか?」

 古株の教師に訊ねてみたことがあるが、彼は苦笑いしながらもこっくりと頷き、「そういう噂があるってことは勿論知っているよ」と答えたことを覚えている。イエスかノーかははっきりとしないが、彼らがそういう噂が囁かれていることを認知していたのは確かである。

「学校の怪談」や「学校の七不思議」といったものは、どこから湧いてくるのかを明確にすることは困難であるが、何かしらの根拠があるものなのだろう。或いは、影法師のように付き纏って離れない不安のようなものが源泉なのかもしれない。土地に纏わる「穢れ」があり、それを忌避する習慣があり、またそれを語り継ぐ人々がいることが、「怪談」や「七不思議」を構成するのではないか……と漠然とだが考えている。

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