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Lilia

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こんな風に思って生きてみたら…な気づきのきっかけに。
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#小説

腕時計

腕時計

クローゼットの掃除をしていた彼女は、懐かしい箱に手を伸ばした。

学生の頃の思い出の詰まった箱。
アルバムやプリクラ、日記や文集、雑誌の切り抜きや何故取ってあったのか分からない様なプリント。
その中にごろごろと転がる 小物たち。
「いやー、懐かしいな〜。」
思わず手に取っては 声に出るものばかり。

そんな中に、ゴロっとした時計が。
「着けてたな、この時計…。」

あの頃、スキーウェアに合わせて買

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名もなき天使

名もなき天使

「部長すみません、体調が良くないので 今日はお休みします」
通勤途中に、無償に仕事に行きたくなくなった彼女は、駅のトイレから電話した。

「さて、何しようかな。」
せっかく出かけれる格好はしている。このまま家に帰るのも なんだかもったいない。改札に向かう途中 馬のどアップが載った広告ポスターに目がいった。
”牧場で、ぼく待ってるじょー!”

「なに…このキャッチコピーのセンス…。」
そんな事思い

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こ・い・キ・ス

こ・い・キ・ス

友達の紹介で会うようになって、3度目のデート。会社経営者のその人は、大柄で顔は甘め。
友達は何をもって「リサに合うと思う〜!」と紹介してきたのか分からないが、なんか悪い人ではなさそうだった。

お互い10代じゃあるまいし、3度目のデートともなると素も出てきたが、これも悪くない。
「私に合うんかもな〜こんなタイプも」
今までデートした相手とは ちょっと違うけど、話も弾むし 「大人男性」らしい立ち振る

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黒い奴

黒い奴

9ヶ月前 黒い奴が産まれた。

付き合って間もない彼と 趣味の範囲を広げようとした事が発端だった。
お互い、スポーツ好きなのが共通の話題で盛り上がり付き合いを始めた。
「じゃ、今度は登山に行こうよ。」
流行りに乗る気持ちで いざ登山へ。バックパックの中は、ネットで調べた登山グッズが完璧に用意されてた。服とスニーカーは、ある物で。

この中に 黒い奴を産む物資があった。

頂上の展望台から帰る頃、足

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ひとまわり

ひとまわり

「まじか…」
12年は 儚いものだった。

「ねぇ、なんでそんなルックスもいいのに、付き合ってる人居ないの?」
「そんなん言うなら 付き合ってよ。」
そんなノリで付き合った。
気づけば12年。浮気することもなく、この子とずっと一緒にいるのが当たり前と思ってた。
相手が浮気したけど、戻ってくるさっっとドンと構えてたら、いつも戻ってきた。何度でも。

「何があっても、そばにいる」

それがいつしか、二

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膝

郵便局の駐車場に着くと、一人の女性が道路脇にうずくまっていた。

頻繁に車が出入りする駐車場の 入り口にだ。何台もの車がクラクションを鳴らし、その度にその女性は ビクッとしては 申し訳なさそうにお辞儀をして移動していた。しかし、また同じ場所に戻るのだ。
「何してんだ?あんな所で…」
健二は ATMでお金を引き出した後も その女性のことが気になっていた。

「あの〜、どうしたんですか? そこ危ないで

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オオトカゲ

オオトカゲ

ある日 奴から電話がかかってきた。

「おーっ元気か?」
「なに〜久しぶりじゃない!どうしてた?」

昔はよく電話してた仲だったが、それぞれ進路が分かれて 話す機会も減っていた。でも、仲が良かったのは変わらずで、たわいもない話で盛り上がっていた。
「あの子どうしてる?」
「あっ、彼氏できたんだってよー。残念だね」
「そんなお前こそ どうなんだよ。」
「ほっとけ!!」

小一時間話した頃 奴がこうい

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魂の階段

魂の階段

「会いに来たよ」
そう言ってるみたいな瞳は 彼女を一瞬にして引き寄せた。

彼女と彼の出会いは 前世の記憶にさかのぼる。高貴な彼女の家に仕えてた彼は、彼女に触れる事も話す事も許されず、ただ毎日彼女の事を見ているしかできなかった。それでも彼は、そんな日々を幸せだと思っていた。
一方 彼女の方は、彼の存在に気づいていたものの、日々の貴族としての立ち振る舞いが当たり前で、彼との距離が縮まる事は期待してい

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二度目の親子

二度目の親子

都会に住む妹から 珍しく電話がきた。

「警察から電話で、お父さん事故ったって。
ねぇどうする?」

幼い時 ギターを弾く父が格好良くて大好きだった。作れる食事は、いつもキャベツと豚肉のソース炒め。少しばかり芸事にたけていて、俳優をしていたのも 私の誇りだった。
単身赴任を経て、ある会った日に父の目が涙で滲んでたときを最後に 会えなくなった。

あれから、34年…

「ねぇ、どうするの? なんか劇

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