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腕時計

クローゼットの掃除をしていた彼女は、懐かしい箱に手を伸ばした。

学生の頃の思い出の詰まった箱。
アルバムやプリクラ、日記や文集、雑誌の切り抜きや何故取ってあったのか分からない様なプリント。
その中にごろごろと転がる 小物たち。
「いやー、懐かしいな〜。」
思わず手に取っては 声に出るものばかり。

そんな中に、ゴロっとした時計が。
「着けてたな、この時計…。」

あの頃、スキーウェアに合わせて買った腕時計。シルバーの時計しかしてない今、そんなゴツい時計が新鮮にさえ思えた。
そして、懐かしい記憶も蘇ってきた。

当時付き合っていた、9歳年上の彼とお揃いで買った時計。アメカジな彼は、いつも彼女を想い大切にしていて、彼女もその優しさの中に包まれている事が 居場所だった。
「この色 絶対似合うよ!」と言われて買った当時。今でもその色のものは 自分では買わない。ましてや、こんなゴツいものを身につける事もない。

でも、捨てれずにいた。

あのときの安心感…それは今になっても忘れられず、それ以上の居場所は見つかってない。

この腕時計は、自分を想ってくれていた人がいた過去の栄光なのかもしれない。その反面、自分が自分らしく居られた勲章だったのかもしれない。

「また電池変えて 使ってみよかな。」
彼女は時計を、過去から今に移動させた。

#小説 #短編小説 #腕時計 #恋愛

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