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黒い奴

9ヶ月前 黒い奴が産まれた。

付き合って間もない彼と 趣味の範囲を広げようとした事が発端だった。
お互い、スポーツ好きなのが共通の話題で盛り上がり付き合いを始めた。
「じゃ、今度は登山に行こうよ。」
流行りに乗る気持ちで いざ登山へ。バックパックの中は、ネットで調べた登山グッズが完璧に用意されてた。服とスニーカーは、ある物で。

この中に 黒い奴を産む物資があった。

頂上の展望台から帰る頃、足の疲れもなかなかなものだった。「年をとったな〜」なんて思いながら下山したが、下り坂というのは、登りより負担が大きい。

そして黒い奴が形成されはじめた。

帰宅して 疲れた足をマッサージ。そこらへんのスニーカーで登山した親指に、かかった負担は大きかったようで、深爪のような感覚。「よく歩いたもんな。」その痛みさえも 勲章のように思えた。

じわりと黒い奴は色をつけた。

一週間後、ついに足の親指の爪は、黒くなり、痛みもピークになった。ネットで調べたところ、これは爪の内出血とわかった。
そして、サバイバル治療方が書いてあり…やってみた。

ぽつんと黒い奴に穴が空いた。

熱した針金で爪に穴をあけ、貫通したところで 中の膿だか血だかを出す。やってみたところ驚くほど楽になった。これで黒い爪とおさらばだと思った。…が、おさらばしたのは、付き合ってた彼の方で、爪は遺留物となった。

黒い奴はボコボコ期に入った。

ペティキュアで黒い爪を隠そうと思ったが、爪は変異してきた。ボコボコしだしたのだ。それは醜いほどにボコボコで、彼と別れた喪失感をはるかに超える絶望感だった。

黒い奴を押し上げる天使の奴がでてきた。

数週間後、下の方から新たな爪が伸びてきた。綺麗だ!まるで天使ような産まれたての爪。こんなに足の爪を愛おしく思った事はない。

黒い奴は 滅亡した。

あれから9ヶ月…ついに黒い爪の部分を切り落とした。彼とは3ヶ月、黒い爪とは9ヶ月の付き合いだった。
「今までありがと。あなたに出会って いろんな事を学んだよ。」そう伝えたい…

もちろん、黒い奴に。


#小説 #エッセイ

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