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名もなき天使

「部長すみません、体調が良くないので 今日はお休みします」
通勤途中に、無償に仕事に行きたくなくなった彼女は、駅のトイレから電話した。

「さて、何しようかな。」
せっかく出かけれる格好はしている。このまま家に帰るのも なんだかもったいない。改札に向かう途中 馬のどアップが載った広告ポスターに目がいった。
”牧場で、ぼく待ってるじょー!”

「なに…このキャッチコピーのセンス…。」
そんな事思いながらも、暇だし牧場に行くのもいいかも、っと行き先を決めた。

電車にゆられ一時間半とバスで30分。
「はぁー 気持ちいい!!」
仕事をさぼってここに居る自分に、妙な優越感すら感じられた。
平日とあって、ほとんどお客はいない。従業員の人たちも、ゆるく日常の業務をこなしてる中、ぶらり散策を始めた。
開放的な放牧場には、数頭の馬がいた。

っと、その時、一頭の馬と目が合った。
いや…待て。あれは馬か?他の子と同じ馬だよな?いや、やっぱり変だ。

頭に一本のツノがある。

彼女は、「そんなはずはない」と思いながらも、目が離せなくなった。

ゆっくりその一本のツノがある子は、彼女に近づいてきた。

「あなた、そこで何してんの?」
声が聞こえる。咄嗟に振り向いても誰も居ない。誰が話しかけてるの?
「あなたよ、あなた。何してんのって聞いてるの。」

「一本のツノ…ユニコーンが話してる?!」
まず、ツノが生えてるのもおかしい、ましてや話すなんてありえない…でも、そうなのだ。

「あっあっ、あの どうも…。」
人は、あまりにも驚いた時はその状況を飲み込もうとするのか、彼女は声に出して答えた。

「何?なんの用できたの?」
「何って言われても…いや あの、今日思いつきで来ただけなんで…。」
「あっそ。っで、なんの用?」
「えっ?」
彼女は、訳がわからなくなった。目の前にいるのは、ユニコーンみたいで、喋って、やや上から目線なんだから。

すると、馬らしきものは、馬らしく 牧草を食べる仕草をしながら 言い出した。
「あーもう、あのね、あなたがここに来たのは偶然でなくて、来るべくしてきたの。」
「何で…ですか?」
「あのポスター見たでしょ。あれはここへ来る切符みたいなもので、普通は見えないの。」
「いやいや、みんな普通に見てましたよ。だって 変なキャッチコピーだったし…。」
「うるさい!ともかく、あなたと話した事で、わたしはあなたの守護動物になっちゃったのよ。だから、助けなくちゃいけないのよ。」

訳がわからない。守護動物を欲しいと願った訳でもないし、ぶらり来ただけで、助けて欲しい事があるほど 切羽詰まってもない。

「あのー、やっぱり分からないです…何を助けられるのか。」
「…あなた、本当に分かってなさそうね。まっいいわ。これからわたしはあなたの守護動物として、あなたを守っていくから、それだけでも覚えといてね。じゃ、またね。」
そう言い残すと その馬らしきものは、あちらへと駆けて行った。

「なんだったんだろ…あれ。」
夢でも見たかのような ふんわりとした感覚の中、彼女は家にたどり着いた。

次の日 いつものように会社へ行き
「部長、昨日はすみませんでした。おかげざで体調も良くなりました、ありがとうございました。」と挨拶に行くと
「おー、よかったなー。昨日は大変だったんだぞ! エレベーターが止まっちまって、二時間もうちの会社の奴も閉じ込められてよー 警察が来て……」

話を聞いて想像しただけで、彼女の全身から汗が吹き出してきた。なぜなら、彼女は極度の閉所恐怖症だったのだ。

「あっ。あたし…助けられてた…。」
すると部長が「ん?」と聞き返した。
「いえ、あの、はいっ…それは大変でしたね。みんな無事でよかったです!」

彼女はデスクにつくなり
「あいつに…名前つけてやらなきゃな。いや、
名前もともとあるのかな?今度聞いてみよ。」
と、つぶやきながら パソコンを立ち上げた。



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