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魂の階段

「会いに来たよ」
そう言ってるみたいな瞳は 彼女を一瞬にして引き寄せた。

彼女と彼の出会いは 前世の記憶にさかのぼる。高貴な彼女の家に仕えてた彼は、彼女に触れる事も話す事も許されず、ただ毎日彼女の事を見ているしかできなかった。それでも彼は、そんな日々を幸せだと思っていた。
一方 彼女の方は、彼の存在に気づいていたものの、日々の貴族としての立ち振る舞いが当たり前で、彼との距離が縮まる事は期待していなかった。

そして時は流れ、彼は天国で神様にお願いした。
「どうか僕を 彼女のもとへ行けるようにしてください!」
しかし 神様は無情にもこう告げた。
「今は無理だろう。彼女はすでに転生して下界で生きている。お前が下界へ行くには、新しい命に入らなければならない。彼女はもう大人で子供を産む予定もない。彼女の今世では、お前と出会うことは不可能だ。」
「そんな…。何か他に彼女の側に居れる方法はないのですか?!」
「んん〜、彼女は家族として 犬を飼っているが…人間と犬では、魂の位が違うから これまたいかがなものか…」

「僕を…僕を犬にしてください!」
彼は わらにもすがる思いで そう叫んだ。

「しかしだな、人は人に転生するものだ。もし 犬になるというなら、魂の階段を降りて 魂の位を落とさなければならない。 魂の階段を降りてしまうと、また上がれるかは分からんのだ。もう二度と人になれないかもしれないのだぞ。それでもよいのか?」
「はいっ。それでもいいんです。もう十分待ったんです僕。だから、どんな形になってもいいから、彼女の側に居たいんです。」
「よし、分かった。存分に生きるんだぞ。」

彼女は、今飼っている犬とそっくりな子犬を見つけた。柄も色もそっくりで、「まるでうちの子の子供みたい!この子はうちに来る運命なんだわ!」と、その子犬を連れ帰った。

毎日 彼女が帰宅する時その子犬は、お出迎えに必ずおもちゃをくわえてくる。まるで、毎日花束を持って現れる男性のように。そして、言葉にならない声で ふきゅふきゅとなき、側にいれる幸せを噛みしめ、彼女の膝で眠るのであった。

#小説 #犬 #転生 #ペット #ショートストーリー #短編小説

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