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ショートストーリー

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短い物語をまとめています。
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#エッセイ

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

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基本は五人だと思う。

基本は五人だと思う。

人生で最初にできた友達は、優しかった。
開けられなかったおやつのプリンの蓋を開けてくれて、ヤクルトの蓋を開けてくれた。そして、ヨーグルトの蓋を開けてくれた。
ぼくは代わりにビスケットを一枚あげた。
何年か経つと優しい友達は、まわりから乱暴者だと言われてあまり好かれなくなった。
そして、また何年か経って優しい友達は結婚して、子供ができて、離婚した。噂では、最近再婚したらしい。

次にできた友達は、足

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光って見える

光って見える

この島を出たいのかな、わたし。
こんなに広い海の向こう側を、奥の、奥のほうを見てる。
朝になれば、あそこから光が見えるんだ。波がキラキラきれいに光って、わたしが主人公の一日がはじまる気持ちになる。
だからね、たまにだけど、それにあわせて秘密で歌ってるんだ。

歌手になって、みんなの一番になったら……。
そのなかに、みんなはいてくれるのかな。

なんか、わたし、イヤなやつみたいだな。

この島を出た

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ホラー的思考

ホラー的思考

天気、気温ともに良好な季節を迎え、早朝から釣り竿を海に傾ける。
周りの釣り人たちも、辺りが明るくなり始めるとともに気が付けば倍以上に増えていた。
地元民からも、釣り好きからも人気がある港のようで、数年前からは観光バスまで来るほど地域的にも集客に力を入れている様子が伺える。
暗黙の了解なのだろうが、各々一定の間隔を開けて釣りをしている。簡易チェアを用意する人、車の後ろを海側に向けてトランクをあけてす

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見るためには瞳を閉じる。

見るためには瞳を閉じる。

退屈をつまみに昼寝をする。こんな贅沢が許されるのは平和だからだろう。
こうやって眠気がするときが丁度いいのだが、今日、新しい趣味を見つけた。
目を軽く瞑る。軽くだ。普段かけてる眼鏡もおでこに乗せてしまおう。閉じた視界は暗い感じはしない。ただ閉じた瞳の前にうっすらと光と熱を感じる程度に、静かに心を保つ。
そうしていくと、呼吸と一緒に光の道筋というか過去に瞳が写したのかもしれない残像のようなものが浮か

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一番遠くにいる。

一番遠くにいる。

今はどこにでも行けるはずだ。
行き方の方法から到着後に必要なものまで、誰がパッケージしたものをいつでも選べる。店も開いてる。
はじめに背負った心配を引き摺って歩いて行くうちに、沢山の砂が付いたらしい。
時々、砂を払ってあげないから、旅行者から運搬者になっていたらしい。
砂運搬者は、砂を捨てに行く。
それは行こうと決めなくても勝手に脚が向うところだ。だって、わたしは既に砂運搬者なのだから。
砂を捨て

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