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翻訳の仕事をしています。2018年より、千葉県佐倉市在住。詳しい経歴はこちらを参照:h…

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翻訳の仕事をしています。2018年より、千葉県佐倉市在住。詳しい経歴はこちらを参照:https://www.kuritalia.jp/

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  • ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』

記事一覧

クリスティーナ・カッターネオ『顔のない遭難者たち』(晶文社)、「訳者あとがき」

[2022年11月に日本語訳が出版された、クリスティーナ・カッターネオ『顔のない遭難者たち』(栗原俊秀訳)の「訳者あとがき」を、版元である晶文社の了承を得た上で、以下…

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1年前
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アンドレア・バイヤーニ『家の本』(白水社)、「訳者あとがき」

[2022年9月に日本語訳が出版された、アンドレア・バイヤーニ『家の本』(栗原俊秀訳)の「訳者あとがき」を、版元である白水社の了承を得た上で、以下に転載します] 二…

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1年前
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「リーディング」というお仕事について

 私は「@kuritalia」というアカウントでTwitterをやっている。私のツイートに対するRTは、たいていは0回、多くて2、3回というところなのだが、以前、出版翻訳家の業務のひ…

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3年前
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もぐり

 私は某私立大学の通信教育部で非常勤講師の仕事をしている。非常勤講師というのは、要するに、アルバイト先生である。  もともとは、通信教育部の芸術学コースというと…

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4年前
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良い本屋と悪い本屋

 私のなかで、本屋は「良い本屋」と「悪い本屋」に分類される。「良い本屋」とは、私の訳書が置いてある本屋であり、「悪い本屋」とは、私の訳書が置いていない本屋である…

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4年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第17回

(前回から読む) ナンナ あっはっは! あぁ、おかしい、みんなから「ジャンポーロの倅」と呼ばれていた男のことを思い出しちゃった。たしかヴェネツィア人だったはずよ…

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4年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第16回

(前回から読む) アントーニア ねぇ、ナンナ、あなたの話を聞きながら、わたしの身に何が起きているか、あなた分かる? ナンナ いいえ。 アントーニア 薬のにおいを…

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4年前

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第15回

(前回から読む) ナンナ 翌日、わたしは第九時[午後三時ごろ]に目を覚ましたの。どういうわけか知らないけれど、わが教区の鶏殿[学士候補生のこと]は、朝早くに部屋…

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4年前

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第14回

(前回から読む) ナンナ それじゃ、次はこの話を聞いてちょうだい。汚れなき乙女とはとても言えない、けれどたいそう上玉の女が一人、兄弟たちの手によって、わたしの入…

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4年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第13回

(前回から読む) アントーニア それから、どこへ行ったの? ナンナ 別の穴から、教義の母、新約の叔母、旧約の姑とも呼ぶべき修道女が見えてきたの。まっすぐに見つめ…

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4年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第12回

(前回から読む) ナンナ わたしに仕える騎士殿に連れられて、床を流れる油のように静かに、わたしは部屋から出ていったわ。するとさっそく、わたしたちの目の前に、誰か…

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5年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第11回(毎週月曜日更新)

(前回から読む) ナンナ くんずほぐれつの乱闘から身を離そうと、うすのろが立ちあがったまさにそのとき、わたしの肩に手が置かれ、誰かが静かにゆっくりと、こんな風に…

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5年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第10回(毎週月曜日更新)

(前回から読む) ナンナ さぁさ、次の話も聞いてちょうだい。さっき荷造りをして部屋から出ていった二人の修道女が、また戻ってきたの。二人がぶつぶつと漏らしていた言…

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5年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第9回(毎週月曜日更新)

(前回から読む) ナンナ 暖炉に頭を突っこんだ失意の女子院長は、悪魔の口のなかにいる男色者の魂のように見えたのよ。神父はようやく、女子院長の祈禱を聞き入れ、頭を…

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5年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第8回(毎週月曜更新)

(前回から読む) ナンナ 槍試合に参戦する騎士たちが、その場にずらりと整列したわ。さっきまでずっとガラスの果物を貪っていた、藪にらみの色黒女の後ろ穴が標的に選ば…

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5年前
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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第7回(毎週月曜更新)

(前回から読む) アントーニア あっはっは! おふざけの締めくくりはどうなったの? ナンナ 押したり引いたりを三〇分くらいつづけたあとで、総会長がこう言ったの「…

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5年前
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クリスティーナ・カッターネオ『顔のない遭難者たち』(晶文社)、「訳者あとがき」

クリスティーナ・カッターネオ『顔のない遭難者たち』(晶文社)、「訳者あとがき」

[2022年11月に日本語訳が出版された、クリスティーナ・カッターネオ『顔のない遭難者たち』(栗原俊秀訳)の「訳者あとがき」を、版元である晶文社の了承を得た上で、以下に転載します]

訳者あとがき

 イタリア最南端に位置するランペドゥーザ島は、青く透きとおる海がヴァカンス客を引きつける、風光明媚なリゾート地である。だが、同時にこの島は、アフリカから海を渡ってやってくる移民・難民にとっての、「ヨー

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アンドレア・バイヤーニ『家の本』(白水社)、「訳者あとがき」

アンドレア・バイヤーニ『家の本』(白水社)、「訳者あとがき」

[2022年9月に日本語訳が出版された、アンドレア・バイヤーニ『家の本』(栗原俊秀訳)の「訳者あとがき」を、版元である白水社の了承を得た上で、以下に転載します]

二〇二一年、イタリアでもっとも著名な文学賞「ストレーガ賞」のロングリスト(一次選考候補)に選ばれた十二作品を紹介する動画のなかで、審査委員長のメラニア・G・マッズッコは、同年の候補作に共通して認められる特徴として、作家の私的な経験を反映

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「リーディング」というお仕事について

 私は「@kuritalia」というアカウントでTwitterをやっている。私のツイートに対するRTは、たいていは0回、多くて2、3回というところなのだが、以前、出版翻訳家の業務のひとつである「リーディング」の報酬についてつぶやいたところ、めずらしく20回くらいリツイートされた。やはり、お金の話はみなさん興味があるのだなとしみじみ思った。同業の方々にとって、なにか参考になることもあるかもしれないの

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もぐり

 私は某私立大学の通信教育部で非常勤講師の仕事をしている。非常勤講師というのは、要するに、アルバイト先生である。
 もともとは、通信教育部の芸術学コースというところで働いていたのだが、この春からは文芸コースでも仕事をすることになった。去年の終わりだったか今年のはじめに、同コース教授のK先生(現在はすでに退任)からお声がけいただいたのがきっかけだった。
 正式に引き受ける前に、K先生と面会して、仕事

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良い本屋と悪い本屋

 私のなかで、本屋は「良い本屋」と「悪い本屋」に分類される。「良い本屋」とは、私の訳書が置いてある本屋であり、「悪い本屋」とは、私の訳書が置いていない本屋である。私の自宅の徒歩圏内にあるM脇書店とM来屋書店は長らく、「悪い本屋」の筆頭であった。とりわけ、「本なら何でもそろう」を謳い文句にしているM脇書店に自分の訳書が置かれていないという事実は、私の心に深く牙を立てていた。
 しかし昨年、『すごい物

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第17回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第17回

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ナンナ あっはっは! あぁ、おかしい、みんなから「ジャンポーロの倅」と呼ばれていた男のことを思い出しちゃった。たしかヴェネツィア人だったはずよ。この人はね、扉の裏に姿を隠して、声真似だけで賑やかな芝居を演じてみせたの。この男の扮する意地汚い人足には、どんなベルガモ人でも唸らずにいられなかったと思うわ[ベルガモ人は「粗野で下品な人間」の換称だった]。人足は、年寄りの女中を相手に、

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第16回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第16回

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アントーニア ねぇ、ナンナ、あなたの話を聞きながら、わたしの身に何が起きているか、あなた分かる?

ナンナ いいえ。

アントーニア 薬のにおいを嗅いだ人の身に起こるのと同じことよ。薬を飲んだわけじゃないのに、二度も三度もお通じがきちゃうの。

ナンナ あっはっは!

アントーニア あなたの話がひどく真に迫っているものだから、トリュフもチョウセンアザミも食べないうちに、わたし催

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第15回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第15回

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ナンナ 翌日、わたしは第九時[午後三時ごろ]に目を覚ましたの。どういうわけか知らないけれど、わが教区の鶏殿[学士候補生のこと]は、朝早くに部屋を出ていったらしかったわ。正餐のために食堂に行ったわたしは、夜な夜なカファルナウムを訪れていた修道女たちをこの目にして、ほくそ笑まずにいられなかった。けれど、ほんの数日のうちにみんなと仲良くなってしまうと、わたしがほかの人たちを覗いていた

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第14回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第14回

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ナンナ それじゃ、次はこの話を聞いてちょうだい。汚れなき乙女とはとても言えない、けれどたいそう上玉の女が一人、兄弟たちの手によって、わたしの入れられた修道院に、わたしよりも六日だけ早く放りこまれていたのね。(わたしの聞いたところでは)この女に恋をしていた、とある土地の名士からの要望を受け、女子修道院長は用心のために、女を一人きりで独房に入れていたの。夜になると、独房の扉を閉ざし

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第13回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第13回

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アントーニア それから、どこへ行ったの?

ナンナ 別の穴から、教義の母、新約の叔母、旧約の姑とも呼ぶべき修道女が見えてきたの。まっすぐに見つめることさえ躊躇われるほどの、すさまじく古ぼけた女だったわ。頭に生えた、ブラシの毛のような二十本ほどの髪の毛のいたるところに、虱の卵がくっついてるの。おでこに刻まれた皺の数は、たぶん百は下らないでしょうね。ごわごわとしたまつ毛は真っ白で、

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第12回

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第12回

(前回から読む)

ナンナ わたしに仕える騎士殿に連れられて、床を流れる油のように静かに、わたしは部屋から出ていったわ。するとさっそく、わたしたちの目の前に、誰かがうっかり扉を半開きにしておいた、台所女中の小さな独房が見えてきたの。部屋のなかを覗いてみると、女中は(わたしの見たところでは)サンティアゴ・デ・コンポステラにお参りするための施しを求めている巡礼者を部屋のなかに迎えてやって、犬みたいに彼

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第11回(毎週月曜日更新)

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第11回(毎週月曜日更新)

(前回から読む)

ナンナ くんずほぐれつの乱闘から身を離そうと、うすのろが立ちあがったまさにそのとき、わたしの肩に手が置かれ、誰かが静かにゆっくりと、こんな風に言うのが聞こえたの「こんばんは、愛しい僕の魂よ」。わたしの全身を恐怖が満たしたわ。色狂い(そう言って差し支えないでしょ!)の女たちの合戦に夢中になって、ほかのことは何も考えていなかっただけに、なおさら驚いてしまったの。肩に手の重みを感じた

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第10回(毎週月曜日更新)

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第10回(毎週月曜日更新)

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ナンナ さぁさ、次の話も聞いてちょうだい。さっき荷造りをして部屋から出ていった二人の修道女が、また戻ってきたの。二人がぶつぶつと漏らしていた言葉から察するに、女子修道院長の言づけで、裏門には鍵がかけられていたらしいのよ。だから二人は、最後の審判の日に悪人どもが口にするであろうより、もっと激しい悪態をついていたわ。でもね、二人は手ぶらで帰ってきたわけじゃないの。というのも、二日前

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第9回(毎週月曜日更新)

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第9回(毎週月曜日更新)

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ナンナ 暖炉に頭を突っこんだ失意の女子院長は、悪魔の口のなかにいる男色者の魂のように見えたのよ。神父はようやく、女子院長の祈禱を聞き入れ、頭を暖炉から出させてやったわ。そうして、鍵は外さず、笏をしっかりと突き刺したまま、女子院長を腰かけの傍らへと運んだの。殉教の聖女がその腰かけに寄りかかると、鍵盤に触れるクラヴィチェンバロの奏者より、もっと優雅に上品に、司祭は腰を振りはじめたの

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第8回(毎週月曜更新)

ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第8回(毎週月曜更新)

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ナンナ 槍試合に参戦する騎士たちが、その場にずらりと整列したわ。さっきまでずっとガラスの果物を貪っていた、藪にらみの色黒女の後ろ穴が標的に選ばれると、籤が引かれ、第一試合の騎手はラッパ吹きの修道士に決まったの。試合のあいだ、ラッパを吹く役目はお仲間の修道士に託すことにして、彼は自分のものを手でしごき、色黒の女友だちの大盾に槍を根元まで突き刺したのね。それは三度の突きにも匹敵する

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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第7回(毎週月曜更新)

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アントーニア あっはっは! おふざけの締めくくりはどうなったの?

ナンナ 押したり引いたりを三〇分くらいつづけたあとで、総会長がこう言ったの「みんなでいっしょにやろうじゃないか。そこのお前、わたしのキュウリくん、キスしなさい。きみもだよ、わたしの鳩ちゃん」。そうして、片手では可愛らしい女天使の箱に手を置き、もう片手では大きな男天使のリンゴをまさぐりながら、まずは彼、次は彼女と

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