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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第9回(毎週月曜日更新)

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ナンナ 暖炉に頭を突っこんだ失意の女子院長は、悪魔の口のなかにいる男色者の魂のように見えたのよ。神父はようやく、女子院長の祈禱を聞き入れ、頭を暖炉から出させてやったわ。そうして、鍵は外さず、笏をしっかりと突き刺したまま、女子院長を腰かけの傍らへと運んだの。殉教の聖女がその腰かけに寄りかかると、鍵盤に触れるクラヴィチェンバロの奏者より、もっと優雅に上品に、司祭は腰を振りはじめたのね。すると女子院長は、まるでもう自由の身になったかのごとくに、聴罪司祭に向かって上半身を激しくひねっていたわ。彼の唇を飲み舌を食べようと必死になり、雌牛とちっとも変らない姿でずっと舌を外に出していたの。そして、自分の鞄の縁で司祭の片手を挟んでやると、ペンチでつかんだみたいにぎりぎりとその手を締めあげ、司祭はたまらず身をよじらせたのよ。

アントーニア あぁ、すごい、あぁ、驚いた!

ナンナ 挽き臼を回すほどの大増水を引き起こしてから、この聖人は仕事を終えたの。香水の染み込んだハンカチで索を拭き、善良な女の甘美な林檎をぬぐってやると、一息入れる暇もなく、二人は互いに抱き合ったわ。それから、食い意地の張った修道士が女子院長にこう言ったの「わたしの雉よ、わたしの孔雀よ、わたしの鳩よ、魂のなかの魂よ、心のなかの心よ、生のなかの生よ。きみのナルキッソスが、きみのガニュメデスが、きみの天使が、きみの後ろをもう一度、自由に味わい愉しむことは、道理に敵った話だね?」。すると、女子院長は答えたわ「わたしの鵞鳥よ、わたしの白鳥よ、わたしの鷹よ、慰めのなかの慰めよ、悦びのなかの悦びよ、希望のなかの希望よ。あなたのニンフが、あなたの侍女が、あなたの愉しみの源が、あなたの自然をもう一度、自らの自然のなかへ迎え入れることは、しごく真っ当な話よね?」。こうして女子院長は司祭に飛びかかると、唇に噛みついて歯の黒い跡をつけてやり、男は痛みのあまり呻き声を上げたのよ。

アントーニア 素敵ねぇ。

ナンナ そのあとで、この慎み深き女子修道院長は、聴罪司祭の聖遺物を手につかんだの。口に聖遺物をくわえると、女子院長はそれに優しくキスを浴びせたわ。うっとりとした様子で、聖遺物をくわえたまま口をもぐもぐ動かしたり、噛みついたりしているのよ。まるで、飼い主の手や足に噛みつく仔犬のようだったの。そんなとき、飼い主は噛まれるのが嬉しくって、笑いながら涙を流すものよね。あのやくざな修道士も同じように、聖母さまの歯がもたらす刺すような痛みを感じながら、すっかり陽気に「あひ! あひ!」なんて言ってたわ。

アントーニア おばかさんね、ちょっとくらい歯で食いちぎってやればよかったのに。

ナンナ 善き施しに励む女子院長が彼女の偶像と戯れていると、誰かが静かに、その部屋の扉を叩いたの。だから二人は、ぴたりと動きを止めてしまったわ。じっと耳を澄ませていると、ひどくか細い口笛の音が、ほんのかすかに聞こえてきた。扉の向こうにいるのが聴罪司祭の子飼いの少年であると気がついた二人は、すぐに扉を開けてやり、少年を部屋のなかに招き入れたの。二人の毛穴の位置まで知り尽くしている少年は、少しもお愉しみのじゃまにはならなかったわ。それどころか、あの裏切り者の女子院長は、神父のズアオアトリを放り出すと、少年のゴシキヒワの羽をとっつかまえ、自らのコトドリを少年の股の弓なりの罠へと夢中になってこすりつけつつこう言ったの「愛しいあなた、どうかひとつ、恩恵を授けてもらえないかしら?」。すると、ならず者の修道士は答えたわ「喜んで。何が望みかな?」。「わたしが望むのは」と女子院長「わたしの下ろし金で、この子のチーズをすり下ろすこと。そのあいだ、あなたはご自分の蝶番を、あなたの霊的な息子のティンパニーに引っかけるの。もしこの悦びがあなたに気に入れば、馬に拍車をかけましょう。気に入らなければ、ほかにも色々なやり方を試せばいいわ。どれかはきっと、わたしたちにぴったりと合うはずだから」。言うが早いか、ガラッソ修道士が小姓の帆船の帆を降ろしていることに気がつくと、奥様は床に腰を落ちつけ、がばと鳥籠を解き放ち、そのなかにナイチンゲールを招きよせたわ。さらにはガラッソ修道士が、彼の積み荷を少年の背後から挿し入れると、三人は揃ってたいへんな悦びに満たされたの。請け合いますけど、お腹の上にあんなにも大きな地球儀を乗せてしまって、女子院長はあと一歩で胸が張り裂けるところだったのよ。女子院長の体はまるで、毛織物の仕上げの過程で生地を縮ませるため、機械に押したり擦ったりされている布のようだったんですから。最後には、女子院長は荷を降ろし、二人の男は石弓を下ろしたの。お遊びを終えたあと、三人がどれほどのワインを飲み、どれほどのお菓子を貪ったか、とても説明できそうにないわよ。

アントーニア あなた、そんなにたくさんの鍵を見ながら、いったいどうやって男への欲を抑えられたの?

ナンナ わたしだって、女子修道院長の襲撃をこの目に見て、樹液をべとべとに漏らしてたわよ。それに、手にはガラスの短剣を握っていたし……

アントーニア カーネーションの香りでも嗅ぐみたいに、ちょくちょくその短剣の匂いを嗅いでたんでしょ。

ナンナ あっはっは! 目の前で繰り広げられた合戦のせいで、わたしも盛りがついちゃったのよね。だから、鐘つき棒をひっくり返して冷めたおしっこを捨ててしまうと、あらためて中身を満たし、わたしはその上に腰を下ろしたの。サヤマメの莢のなかにソラマメを入れたあと、なんでも試してやれという気になったわたしは、それをコロッセオのなかにも入れてみることにしたのよ。だって、そうでもしなければ、アレがわたしたちのなかをどんな風に進んでいくのか、理解することはできないでしょ。

アントーニア それは立派ね。というか、あなたが今からすることは、きっと立派ね。

ナンナ こうして、ガラスのアレの背にまたがると、前籠をしっかりと満足させつつ、後ろの手桶をガラスの研磨機でごしごしと研ぎ、心地良い気分に浸っていたの。前と後ろの二つの穴のあいだでわたしは、浣腸をすべて入れてしまおうか、それとも先っちょだけにしておくべきかと、ひとり思案に暮れていたわ。でも、犬を小屋に放す一歩手前で、暇乞いする聴罪司祭の声が聞こえてきたの。去り際の儀礼じみた挨拶を見物するため、急いで穴に駆け寄ると、すっかりご満悦の女子修道院長の前に、服を着た司祭と小姓の姿があったわ。女子院長は小さな女の子みたいになってしまって、媚びを売りながらこう言ったのよ「いつ戻ってきてくれるの? あぁ、主よ、わたしは誰を愛せばよいのですか? 誰を崇めればよいのですか?」。連禱と待降節にかけて、次の夕方にはきっと戻ると、神父は誓ったわ。まだズボンを締めている最中だった少年は、女子院長の口のなかに舌をすっかり入れながら、さようならと言ったの。そして、部屋を出ていく司祭の口から、晩禱に唱えられる「ペコラ・カンピ」が流れ出すのが、わたしの耳まで聞こえてきたのよ。

アントーニア なによ、その悪党、祈禱を唱えていたような振りをしたってこと?

ナンナ 仰るとおりよ。さて、そいつが去ってしまうと、今度はひづめを踏み鳴らす音が聞こえたわ。そこでわたしは、槍試合の騎士たちもまた一日を終え、勝利の凱歌をあげながら家に戻ろうとしているところだと悟ったの。部屋を去る前、騎士たちが馬におしっこをさせたときに轟いた音はまるで、八月のはじめに降る雷雨のようだったのよ。

アントーニア あぁ、恐ろしい!

つづく

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