ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第8回(毎週月曜更新)
(前回から読む)
ナンナ 槍試合に参戦する騎士たちが、その場にずらりと整列したわ。さっきまでずっとガラスの果物を貪っていた、藪にらみの色黒女の後ろ穴が標的に選ばれると、籤が引かれ、第一試合の騎手はラッパ吹きの修道士に決まったの。試合のあいだ、ラッパを吹く役目はお仲間の修道士に託すことにして、彼は自分のものを手でしごき、色黒の女友だちの大盾に槍を根元まで突き刺したのね。それは三度の突きにも匹敵するほどの一撃だったから、彼はたいへんな賞賛を受けたのよ。
アントーニア あっはっは!
ナンナ 次に籤を引き当てたのは総会長だったわ。槍を構えて駆け出すと、修道女の指輪に槍をとおしている修道士の指輪に、今度は総会長が槍をとおしたのよ。こうして、二つの敷地を分け隔てる敷石のように、三人がじっと動かずにいると、第三試合の騎手である修道女が位置についたの。前の二人とは違って、樅の木の自前の槍を持たない彼女は、ガラスの槍を手にとって、総会長の背後へと一発でぶちこむと、槍についていた二つの玉はほとんど、修道女の恥丘の内側に隠れてしまったのよ。
アントーニア 大したものねぇ。
ナンナ さて、お次は二人目の見習い修道士が籤を引き当てたわ。彼は前に進み出て、きれいな修道女の的に槍を打ちこんだの。その次に出てきた修道女が、お仲間の真似をして、二つの玉のぶら下がった槍を少年の妙なる臀部にめりこませると、まるで刃の一撃を喰らった鰻のように、見習い修道士は身をくねらせたのよ。あとに残ったのは、修道女が一人と修道士が一人だった。これがもう、笑っちゃうの。だってね、この修道女は正餐のときに手にとったベルリンゴッツォ[カーニバルの季節に食べる、ドーナツのような形をしたケーキ。ここではガラスの玩具のメタファー]を、目の前の修道女の指輪のなかに埋葬してしまったんですから。こうして、最後に残った修道士は、修道女の後ろから大槍を打ちこんだの。八人の姿はまるで、ルシフェルのカーニバルのためにサタンが火にかけようとしている、呪われた魂の串焼きみたいだったのよ。
アントーニア あっはっは! なんてお祭りかしら!
ナンナ 例の藪にらみの修道女は、とってもひょうきんな性格でね、みんなが押したり引いたりしているあいだ、この世でいちばん楽しい笑い話を聞かせてくれたの。それを聞いたわたしは、思わず大声で笑ってしまって、その笑い声を聞かれちゃったのよ。声を聞かれたことに気がついて、わたしは壁から身を引いたわ。向こうで誰かが怒鳴っていて、しばらくしてから穴に戻ると、そこはシーツでふさがれていた。そんなわけで、馬上槍試合の結末がどうなったのかも、賞品が誰に与えられたのかも、けっきょく分からずじまいってわけ。
アントーニア ひどい、いちばん肝心な部分でおあずけを食らわすのね。
ナンナ わたしだっておあずけを食ったんだから、仕方ないでしょ。そら豆や栗の種蒔きの場面が見られなくて、わたしも本当に悔しかったのよ。話を戻しますと、説教を拝聴する場所を奪い去った自分の笑い声に腹を立てていたとき、また聞こえてきたの……
アントーニア 何が聞こえたの? さっさと言いなさい。
ナンナ わたしの独房の壁の穴からは、三つの部屋を覗くことができたから……
アントーニア まったく、穴だらけの壁なのね。わたし、そんな篩みたいな部屋はごめんだわ。
ナンナ わたしが思うに、穴を閉じようという気もなかったみたいよ。たぶん、互いに覗きあって楽しんでたんじゃないかしら。ともかく、わたしの耳には喘ぎや、ため息や、ぶつぶつという不平や、十人もの人間が悪夢にうなされ何かを引っ掻いているみたいな音が聞こえてきたの。耳を澄ますと(馬上槍試合が開催されていた部屋とわたしの独房を仕切っていた壁の、ちょうど反対側の壁の向こうから)ひそひそと話す声が聞こえたわ。そこでわたしは、穴に目を当ててみた。そこから見えたのは、両足を高く上げている、ぽっちゃりすべすべとした二人の修道女で、四本の白い太腿はふっくらと丸みを帯び、凝固したお乳のようにふるふると震えていたの。二人ともガラスの人参を手に握っていて、そのうち片方がこう言ったわ「キスもできない、舌もない、わたしたちの鍵盤に触れるための両手もない、そんな豚の餌でわたしたちの食欲が満たされると思うなんてばかげてるわよ。仮に手や舌がついていたとして、描かれたものからでも悦びを味わえるなら、生きたものを相手にしたときの悦びはどれほどのものかしら? 若き日々をガラスですり減らさなければいけないなんて、わたしたちって本当に惨めよね」。するともう一人が答えたわ「ねぇ、あなた、わたしといっしょに来なさいよ」。「どこへ行く気?」と、彼女。「夜が明けるころ、ナポリの若者と、わたしはここを去るつもり。いっしょにやってくる彼の親友が、あなたの相手をしてくれるわ。そうよ、このほら穴を、この墓場を抜け出しましょう。そして、世の女たちが享受しているに違いない、花盛りの季節を愉しむのよ」。腰の軽いお友だちを説得するのに、長々とした演説は必要なかったわ。誘いを受け入れた修道女は、お仲間といっしょにガラスのレモンを壁に叩きつけた。ガラスの砕ける音をかき消すために「猫が! 猫が!」と大声で叫び、カラフや、そのほかそこにあったものを、猫に壊されたように装っていたわ。それからベッドへと急ぎ、貴重な品々を荷物にまとめると、二人は部屋から出ていったの。わたしはまた一人だけ取り残された。すると今度は、手を打ち鳴らしたり、「あぁ、哀れなわたし」と呻いたり、顔を引っ掻いたり、髪の毛を掻きむしったり、布を引き裂いたりするような、ひどく妙ちくりんな音が響いてきたのよ。わたしのような誠実な女の信仰にかけて誓いますけど、あのときわたしは、誰かが鐘楼に火でもかけたのかと思ったほどなの。そこで、レンガのあいだの穴に目を当てると、尊き女子修道院長さまが、預言者エレミヤの哀歌を唄っているところだったの。
アントーニア なんですって、女子修道院長?
ナンナ 修道女たちの敬虔なる母にして、修道院の守護者さまよ。
アントーニア 女子院長の身に、何が起きたの?
ナンナ わたしが見たところでは、女子院長は聴罪司祭から、命にかかわるほどの苦しみを味わわされていたのよ。
アントーニア どんな風に?
ナンナ 司祭はね、愉しみの絶頂にあるときに、樽から栓を抜いてしまって、今度はその栓を、麝香の漂う壺のなかへ差し入れようとしたの。悦楽をしゃぶり、情欲に溺れ、お汁だらけになっていた哀れな女子院長は、司祭の足元に膝をつき、聖痕にかけて、聖母マリアの七つの悲しみと喜びにかけて、聖ジュリアーノの「パテル・ノステル」にかけて、悔罪詩篇にかけて、東方の三博士にかけて、星にかけて、聖堂内陣にかけて懇願したの。それでもあのネロは、カインは、ユダは、菜園にネギを植えなおすことに首をふらなかったのよ。それどころか、マルフォーリオ[河の神を象った古代の像で、ローマのマルフォーリオ通りに置かれていた]のように恐ろしく毒々しい顔つきを浮かべつつ、横柄な身振りと態度で、女子院長を無理やり後ろ向きにさせたの。暖炉のなかに頭を置くよう命じると、毒蛇みたいにしゅーしゅーと息を吐き、人食い鬼のごとく口の周りに泡を浮かべながら、女子院長の畝に苗木を打ちこんだのよ。
アントーニア 悪い男ね。
ナンナ 抜き差しに耽る聴罪司祭は、絞首台へ千度にわたって送られる苦しみとも引き換えにできるほどの悦びを味わっていたの。杭が出たり入ったりするときに響く音を聞いて、司祭は笑いを立てていたわ。それはまるで、しょっちゅう靴を奪っていくぬかるんだ泥道を歩くときに、巡礼者の足元から響く「ぴちゃ、ぷちゃ、ぺちゃ」という音のようだったわね。
アントーニア そいつが八つ裂きにされますように。
(つづく)
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